安倍さん くれぐれも 我々の年金に手をつけないでね....
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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 二者択一の年金ビジョン
厚生労働省が、6月2日に5年に一度行っている年金制度の「財政検証」の結果を発表した。今回の財政検証の特徴は、経済成長の前提が異なる8パターンの推計を出したことだ。
マスメディアの批判は、標準ケースとみられるケースAの積立金運用利回りに集中した。ケースAは、今回のケースの中で最も高い1.4%という経済成長率の想定の下で、年金積立金の運用利回りを5.4%と設定したのだ。
もちろん私も、そんな高い利回りは実現不可能だと思う。だが、それは大きな問題ではない。今回の推計の一番のポイントは、高齢男性の大部分を70歳まで働かせないと、厚生年金の所得代替率50%という目標が守れないという事実だ。
所得代替率というのは、年金支給額が現役世代の手取り収入の何%もらえるのかを示す数字だ。厚生労働省は、ずっと厚生年金の所得代替率を50%以上にすることにこだわってきた。OECD(経済協力開発機構)が、所得の中央値の半分以下しかない人を貧困と判定しているからだ。
並の人の半分以下しか所得のない人は貧困になる。だから、厚生労働省は厚生年金保険料を完全に納めていれば、老後に貧困になることはありませんよ、とアピールしてきたのだ。それを今さら変えられないというのが、50%にこだわる理由だろう。
しかし、今回の財政検証で、そのことが極めて困難になったことが明らかになった。財政検証のケースAからケースEの五つのケースは、なんとか所得代替率50%を維持している。しかし、これらのケースに共通するのは、「労働市場への参加が進む」という前提条件を置いていることだ。これは、今年2月に厚生労働省が「雇用政策研究会報告」で示したもので、今後の労働力人口の減少を防ぐため、女性や高齢者の労働力率(労働力人口÷人口)を大きく高める政策だ。例えば、65~69歳男性の労働力率は、現状49%だが、参加が進むケースでは67%と、3分の2の高齢者が働く前提になっている。
つまり、今回の財政検証の意味は、「高齢期に貧困に陥りたくなかったら、70歳まで働け」ということなのだ。もし働かなければ、所得代替率は最悪35~37%まで低下すると厚生労働省は警告する。
現在の厚生年金のモデル年金は22.3万円で、所得代替率が62.3%だから、高齢者が70歳まで働かないと、厚生年金の年金給付は12万9000円まで下がるというのが大体のイメージだ。もちろん、70歳まで働いても、年金の給付水準は、最終的に18万2000円まで下がってしまう。
つまり我々の選択は、70歳まで働いて18万円の年金をもらうか、65歳で引退して13万円の年金をもらうか、という二者択一になるというわけだ。
私は、早めに引退して、貧しくてもゆったりした老後を楽しむ方がよいのではないかと思う。しかし、政府は、そうは考えていないようだ。安倍総理の指示を受けて、厚生労働省が年金積立金の運用の中心を安全な国債から、ハイリスクハイリターンの株式へと移す検討を始めたからだ。
年金資金の株式運用拡大は、株価上昇につながるので、アベノミクスにプラスになるのだろう。