FRB「債務超過」広がる波紋 信認・独立性に懸念も - 日本経済新聞
米連邦準備理事会(FRB)が事実上の債務超過に陥っていることが明らかになった。昨年からの急激な利上げで金融機関に支払う準備預金の利息が増えたのが理由だ。FRBは表面上...
日本経済新聞
副島隆彦さんの翻訳
抜粋
●「BRICSによる金(ゴールド)を裏打ちとする新通貨が、8月に登場する」
デイリー・レコニング 誌 2023年6月6日 ジム・リカード 筆
http://dailyreckoning.com/rickards-drops-bombshell/
今日から約2ヶ月後の、8月22日に、国際金融で、1971年以来もっとも重要な進展が発表される、とジム・リカード氏は『デイリー・レコニング』誌に書いた。
それは、世界的な決済でドルの役割を弱める。最終的には、現在の主要な決済通貨であり、基軸通貨としての地位を持つ、米ドルに、BRICS新通貨が、置き換わる可能性がある、新しい主要な世界通貨の登場である。それは、これから数年のうちに起こるだろう。
この大変化が起こるプロセスは前例がない(アンプレシデンテッドである)。世界は、ここから起きる、地政学(ジオ・ポリティカル geo-political )的な巨大な衝撃波に対する備えをしていない。
この金融ショックは、BRICS(ブリックス)と呼ばれるグループによってもたらされる。BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字をとったものだ。
BRICSによる世界基軸通貨(ワールド・キー・カレンシー)の地位獲得の劇は、世界貿易、海外直接投資、投資家のポートフォリオに、劇的で予期せぬ影響を与えるだろう。
現在のBRICSシステムの発展で、最も重要なことは、今もBRICS加盟国数が拡大していることだ。拡大した組織は、非公式に BRICS+(プラス) という名称で呼ばれている。
現在、BRICSに正式に加盟を申請しているのは8カ国だ。その他に17カ国が加盟希望を表明している。正式に加盟申請している国は以下の8カ国、 アルジェリア、アルゼンチン、バーレーン、エジプト、インドネシア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦である。
それ以外で関心を表明している17カ国は以下の通り。アフガニスタン、バングラデシュ、ベラルーシ、カザフスタン、メキシコ、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、セネガル、スーダン、シリア、タイ、チュニジア、トルコ、ウルグアイ、ベネズエラ、ジンバブエ。
このリストには、今後のBRICS会議への参加人数を増やす、という以上の意味がある。
サウジアラビアとロシアは、世界3大エネルギー生産国のうちの2カ国だ(エネルギー・ビッグスリーのもう1カ国は米国だ)。 ロシア、中国、ブラジル、インドの4カ国は、国土面積で、地球の陸地の30%を占め、同じく埋蔵する天然資源を保有する。
世界の小麦と米の生産量のほぼ50%、世界の金(きん)埋蔵量の15%(公表されている分だけだ)が、BRICSのなかに入る。一方、中国、インド、ブラジル、ロシアは、地球上で最も人口の多い9カ国のうちの4カ国である。合計の人口は32億人(世界人口80億人のうちの)だ。BRICSが、地球の人口の40%を占める。
中国、インド、ブラジル、ロシア、サウジアラビアのGDPは合計29兆ドルで、名目上の世界GDPの28%を占めている。しかし、購買力平価(こうばいりょくへいか purchase-power parity パーチェス・パウワ・パリティ) で、GDPを換算すれば、BRICSのシェアは、世界の54%を超える。
また、ロシアと中国は世界3大核兵器保有国のうちの2ヶ国である(もう1つは米国)。
人口、国土、エネルギー生産高、GDP、食糧生産高、核兵器など、あらゆる指標から見ても、BRICSは、単なる多国間の討論会ではない。BRICSは、欧米の覇権主義に対する、実質的で確実な見込みの高い選択肢だ。BRICSは共同で行動することで、新たな多極化、あるいは二極化する世界の一極となる。
この8月22日に発行が発表されるその新通貨は、何もない場所に生み落とされるわけではない。ブリックス新通貨は、すでに資本と流通・通信が洗練されている、現在の新興大国の国際ネットワークに投入される。この新興大国のネットワークが、新ブリックス通貨が成功するチャンスを、さらに大きく高めるだろう。
BRICS諸国はまた、加盟国を結ぶ光ファイバーの海底通信システムの開発も進めている。これは「BRICSケーブル」という名称で開発されている。 BRICSケーブルを開発し始めた理由のひとつが、米国家安全保障局(NSA)による、既存のケーブルネットワークを経由するメッセージ通信へのスパイ行為を阻止することにある。
このブリックス新通貨で、ドルを捨てようとする試みの背景には、いったい何があるのか。その答えの主な部分は、米国が経済制裁という手段を使って、ドルを武器化(weaponization、ウエポナイゼイション)している現実にある。
2007年から2014年にかけて、私は何度も財務省、国防総省、情報機関の米政府高官たちに、「ドル制裁(サンクション sanction )の乱用は、敵対国が制裁の影響を避けるためにドルを放棄することにつながる」と警告してきた。
制裁を受けた国が米ドルを放棄することは、アメリカによる制裁の効力を弱める。米国に予期せぬコストを課し、最終的には、ドルそのものの信頼を崩壊させることになる。この私の警告はほとんど無視された。 私たちは今、私のこの予測の第1段階と第2段階にすでに到達しており、第3段階に危険なほど近づいている。
長年にわたり、米国はイランのような国々を罰するために制裁を行ってきた。しかし昨年のウクライナ侵攻後、米国とその同盟国(西側 the West ザ・ウエスト)が、ロシアに課した制裁は、これまでの制裁体制をはるかに超えていた。前例のない大きさだった。
他の多くの国々は、この事態を見て、ある問題でアメリカの逆鱗(げきりん)に触れれば、次は自分たちの番だ、という結論に達した。そしてその恐怖は、ドル体制から完全に脱却しようとする動きを大きく加速させた。
この願望は、ロシアなど現在のターゲット国に限ったことではない。中国、イラン、トルコ、サウジアラビア、アルゼンチンなど、潜在的なアメリカによる経済制裁のターゲット国にも共有されている。
BRICS+は、世界の決済、ひいては世界の外貨準備を脱ドル化( de-Dollarization ディー・ダラーライゼイション)させる、現実的な取り組みを実行しているのである。
私は、何年も前から、多くの人が考えているよりも長い間、ドルは世界の主要基軸通貨であり続けると主張してきた。
だが、私は(大きく考えを変えて)この記事では、「 BRICS+(プラス)の新通貨が、世界の新しい主要基軸通貨になって、ドルの終焉を大きく加速させる可能性がある」と書いている。その理由を紹介する。
私が以前まで考えていたよりも、なぜ、脱ドル化がこれほど早く実現できるのか。国際貿易で、モノやサービスの決済通貨(セツルメント・カレンシー)としてのドルから脱却したい、という世界的な(多くの国の)願望は、決して、今に始まったことではない。
今日では、このドル回避の動きは、新たな機軸を必要とする議論ではなく、短期間で出現しつつある、現実そのものである。
ドバイと中国は最近、ドバイからの石油輸出の支払いに中国人民元(レンミンビ)を受け入れる、という取り決めを結んだ。ドバイは、その人民元を使って、中国から半導体や製造品を購入することができる。
サウジアラビアと中国は、石油と人民元の交換について同様の協議をしている。まだ決定的な結論には至っていない。サウジアラビアは、長年にわたってアメリカと石油・ドル協定を結んでいる。そのため、こうした話し合いは複雑になっている。しかしながら、この方向に向けての進展が大いに期待されている。
中国とブラジルは最近、貿易において各国が相手国の通貨を受け入れるという、広範な2国間通貨協定に合意した。一方、
両国間の貿易では、ロシアは、中国の製造品やその他の輸出品に対してルーブルで支払うことができる。いっぽう中国は、ロシアからのエネルギー、戦略金属、兵器システムに対して、人民元で支払っている。
しかし、こうした取り決めもすべて、8月22〜24日に、南アフリカのダーバンで開催されるブリックス(BRICS)首脳会議で発表される、BRICS+(プラス)の新通貨に引き継がれ、取って代わられることになるだろう。
このブリックス+(プラス)の新通貨は、加盟国間の貿易で、実際に取り引きされる商品(コモディティ)のバスケットにペグ(連動)される。最初の議論では、BRICS+(プラス)新通貨のためのコモディティ・バスケットには、石油、小麦、銅、そのほかに、世界的に一定の量が取引されている必需品が、含まれた。
おそらく、BRICS+(プラス)の新通貨は、日常的な取引に使用する紙幣のような形では、利用できないだろう。新しいBRICS+(プラス)の金融組織が管理する、許可制の、台帳(レジャー、ledger 勘定元帳) 上のデジタル通貨となる。
暗号化された情報伝達網によって、参加する当事者(国)が支払い、支払われるべき取引が記録される。しかし、これは暗号通貨(クリプト・カレンシー)ではない。非(ひ)中央集権的(すなわち分散型)ではなく、ブロック・チェーン上で管理されるのでもなく、承認の無いすべての参加者に開示されている訳でもない。
BRICS新通貨の作業グループから(私にもたらされる)最新情報では、この商品(コモディティ)バスケットの価値の評価方法について、1944年の、ブレトンウッズ会議で、ジョン・メイナード・ケインズ卿(きょう)が、遭遇したのと同じ問題に遭遇しているという。
ケインズ卿は、当初、バンコール( bank-all )と呼ばれる世界通貨のために、商品バスケット方式を提案した。しかし、バスケットに含まれる国際的な商品(コモディティ)も、完全に代替可能(同価値とする)ではない。例えば、原油には、粘度(ねんど)や硫黄分などの属性によって70以上の細かい等級分けがある。
最終的にケインズ卿 は、商品(コモディティ)バスケットは必要なく、利便性と統一性の理由から、単一商品である金(ゴールド)(だけに依る)の方が、通貨を固定する目的に適していると考えた。
統一的な価値を評価・維持する基準として、コモディティ(商品)バスケットは非現実的であることから、今回のBRICS+の新通貨は、金(ゴールド)の重さだけに連動することになりそうだ。
これは、BRICSのメンバーであるロシアと中国の強みを生かす。ロシアと中国は、世界の2大金(きん)産出国であり、金準備高の上位100ヶ国の中で、それぞれ6位と7位にランクされている。
こうした動きや関連する動きは、しばしば「基軸通貨としてのドルの終焉 」
The end of the dollar as a reserve currency. 「ジ・エンド・オフ・ザ・ダラー・アズ・ア・リザーブ・カレンシー」 と 喧伝(けんでん)される。このようなコメントには、国際通貨や為替のシステムが、実際にどのように機能しているのかについて、その理解不足が表れている。
このような分析のほとんどに見られる重要な間違いは、決済通貨(payment currency)と基軸通貨(reserve currency)のそれぞれの役割を、区別していないことである。決済通貨は財とサービスの取引に使われる。各国は好きな決済通貨(リーガル・テンダー legal tender )で取引することができ、米ドルである必要はない。
いわゆる「基軸通貨」は違う。基軸通貨は、国家にとっては、貿易黒字によって獲得した余剰利益の「貯蓄口座」なのである。この残高は、通貨ではなく証券(国債)の形で保有される。
金融アナリストたちが、「 米ドルが主要な準備通貨である」 と言うとき、彼らが実際に意味するのは、「各国がその通貨建ての証券(債券、bond ボンド)を保有している」ということだ。世界の外貨準備(フォーリン・リザーブ)の60%は、ドル建ての米国債(べいこくさい)である。外貨準備とは、実際には米ドル通貨ではなく、(ドル建て)証券(債券)なのだ。
その結果、大規模に発達した国債取引市場 がなければ、基軸通貨にはなれない。規模、多様な満期、流動性、決済、デリバティブ、その他の必要な機能において、米国債の市場に匹敵する国は、今のところ世界中どこにもない。
つまり、他の国の通貨を「基軸通貨」としようとするとき、本当の障害は、その通貨を投じるだけの規模がある、各国政府が発行する国債(ナショナル・ボンド)の取引市場が存在しないことなのだ。
そのため、準備資産として、その国の通貨を、国債に置き換えることは、望んでも難しいのである。この点では、世界のどこの国も、まだアメリカの足元におよばない。
しかし、ここからが面白い。この点にこそ、米ドルが、主要な準備通貨(リザーブ・カレンシー)としての地位を、考えられていたよりも、ずっと早く失う、その理由がある。
BRICS+(プラス)の新通貨は、NY(ニューヨーク)の米国債市場を飛び越えて、世界の舞台で、国債に対抗できるほど深くて、流動性のある新しい債券市場(ボンド・マーケット)を、ほとんど何もないところから作り出す機会を提供するからである。
重要なのは、一度に20ヶ国以上で、個人投資家たちに自国通貨で、BRICS+(プラス)の新規国債を買ってもらえることだ。
BRICS+(プラス)債 は、銀行や郵便局などのリーテイル(小売りの)金融機関を通じて販売される。このブリックス債 は、BRICS+通貨建てである。しかし、個々の投資家は、自国の通貨建てでこの債券を購入できる。それを通貨市場の為替レートで換算できる。
BRICS+の新通貨は、金(ゴールド)に裏付けられているため、ブラジルやアルゼンチンのようなインフレや債務不履行(さいむふりこう。default デフォールト)に陥りやすい国の通貨に比べ、魅力的な価値の貯蔵手段となる。
とくに、中国人は、これまで海外市場への投資をほとんど禁止されており、中国国内の不動産や株式に過剰投資してきた。だから、このような新しい投資先に魅力を感じるだろう。
この新らしい市場が、魅力的な運用先として機関投資家に受け入れられるには、時間がかかるだろう。しかし、BRICS+(プラス)の新通貨建ての投資対象に、インド、中国、ブラジル、ロシアなどの、すさまじい規模の個人投資家の資金が投資される。だから、BRICS加盟国の間での、貿易で積み上がる貿易黒字の余剰資金を、吸収することができる。
つまり、即席の「基軸通貨」を作る方法は、自国民を買い手として、即席の「債券市場」を作ることだ。
BRICS+(プラス)の直接の加盟国を除いて、世界は、この見通しをこれまでほとんど無視してきた。その結果が、これから数週間のうちにおとずれる。それが国際通貨システムの大変動なのである。