南斗屋のブログ

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ラブホテルは法的にどのように扱われているか

2021年11月08日 | 地方自治体と法律
(風営法での扱い)
 風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)では、ラブホテルという用語は使われていません。ラブホテルとはこれこれであるという規定はありません。法律上の用語ではないということになります。
 風営法は、ラブホテルという建物にだけ着目するのではなく、営業に着目し、その営業を規制するという手法をとっています。風営法では、ラブホテルの営業を、店舗型性風俗特殊営業としています(風営法2条6項4号)。 
 「専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業」
 風営法では、ラブホテルは店舗型性風俗特殊営業の「店舗」という位置付けなのです。
 店舗型性風俗特殊営業では、当該営業について公安委員会に届出をする義務があります(風営法27条)。届出をすればよいのであって、許可をもらう必要はありません。ですから、風営法上はラブホテルの建築にとりたてて許可は必要ないということになっています。

(風営法上のラブホテル)
 風営法でいうラブホテルとは何かを確認しておきましょう。 
 風営法2条6項4号からは、
”専ら異性を同伴する客の宿泊の用に供する政令で定める施設で、政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る”
と定義できることになります(ここにいう「宿泊」には休憩が含まれます)。
 詳細は政令で定めることとなっております。具体的には、風営法施行令3条等で規定されています。規定が詳細なので、すべては紹介しきれませんが、「政令で定める設備」には、いまだにこんな規定が残っているのかというものがありますので、それだけ紹介しましょう(風営法施行令3条3項)。
 まず、回転ベッドがでてきます。条文どおりにいえば、「動力により振動し又は回転するベッド」です。回転ベッドは、回転だけするものとばかり思っていましたが、どうやら振動するものもあったようです。一体これのどこが性的興味を誘ったのでしょうか…。
 それと、「特定用途鏡」というものがでてきます。これは、横臥している人の姿態を映すために設けられた鏡なのですが、鏡は様々な用途で用いられるからか、限定の仕方が細かくなります。
ア 面積が一平方メートル以上のもの
イ 二以上の特定用途鏡でそれらの面積の合計が一平方メートル以上のもの
これらは、天井、壁、仕切り、ついたてその他これらに類するもの又はベッドに取り付けてあるものに限るとされています。
また、ソファが目の敵にされています。条文では、「長椅子その他の設備で専ら異性を同伴する客の休憩の用に供するもの」とあります。ソファが珍しい時代に作られた条文なのでしょうか。それにしても、もっぱら異性を同伴する客の休憩の用に供するソファというのが何なのか、私には全然わかりません。
 このように今となっては、歴史上このようなものもあったのだという証拠に使えそうな条文が風営法施行令には残っています。

(条例上のラブホテル)
 法律では、用語としてすらでてこない「ラブホテル」ですが、自治体の制定する条例では、「ラブホテル」という用語が使用されています。使用されているだけではなく、条例の中にもこの用語がでてきます。
 ここでは、市川市(千葉県)の条例(市川市ラブホテルの建築規制に関する条例)を紹介します。
 同条例では、「ラブホテル」そのものが定義されています(2条2号)。
 ラブホテルとは、専ら異性を同伴する客に休憩又は宿泊させるホテル等で、次に掲げるもののいずれかに該当するものをいう。
ア 規則で定める基準を満たす会議室、集会室、大広間、宴会場等各種の集会の用に供する施設、帳場、フロント等受付及び応接の用に供する施設又は玄関を有しないもの
イ ロビー、食堂等の共用施設付近に設けられた規則で定める基準を満たす男女別の便所及び洗面所を有しないもの
ウ 食堂、レストラン、喫茶室等客の飲食の用に供する施設(調理室を含む。)及びロビー、応接室、談話室等客が自由に利用できる施設の使用上有効な床面積が、規則で定める数値に達しないもの
エ 客が他の者と対面せず客室に出入りできる規則で定める構造を有するもの
オ 帳場、フロント等受付及び応接の用に供する施設が、当該施設内における従業員と客とが開放的に対面できない規則で定める構造を有するもの
カ 専ら性的好奇心をそそるために設けられた規則で定める設備を有するもの
キ ホテル等の形態、意匠及び屋外照明が総合的にみて、周辺地域における生活環境及び教育環境と調和しないもの
 ア~キのどれかにひっかかってしまうとラブホテルの認定がされてしまうわけです。
 ラブホテル認定をされないためには、どれも引っかからないようにホテル等を建築するしかありません。

(ラブホテル認定はどのようになされるのか)
 ラブホテルの認定をするのは、市川市長ですが、市長は、ラブホテルかどうかを市川市ホテル等審議会に諮問することとしています(8条)。審議会は非常勤の委員13名で構成され、委員が誰であるかは、市川市のホームページで公表されています。
 市川市でホテル等を建築するということになると、ラブホテルか否かを調査し、この審議会にかけて、ラブホテルである(又はそうではない)ということを認定する作業をしていくのです。

(ラブホテル認定されるとどうなるのか)
 ラブホテル認定されると、規制区域内では、ラブホテル建築ができなくなります(4条)。規制区域内でラブホテルを建築しようとする者に対しては、行政は中止命令ができます。
 規制区域は、4条で詳細に決められています。第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域は規制区域となっており、学校、公民館、図書館や病院から200メートル以内も規制区域とされています。
 規制区域外ではラブホテルの建築はできますが、規制区域外であっても、ラブホテルの建築について必要な指導、勧告を行うことができるものとされています(6条)。
 ここで注目したいのは、「ラブホテルの建築について」という文言です。
 建築についての指導、勧告なので、ラブホテルの外観をけん制しようという狙いでしょう。建築してしまった後の運用については規定されていないので、その点を規制することができません。このように条例では、あくまでもラブホテルの建築物としての側面に注目して規制しています。これは、風営法が営業について規制していることが関係しているものと思われます。条例は、法律とは別の視点から規制をしているのであるから、法律とは異なる規制となっても法的に問題はないという論法なのでしょう。
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