南斗屋のブログ

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交通事故の損害賠償請求と定期金賠償

2018年04月09日 | 遷延性意識障害
【交通事故の損害賠償請求と定期金賠償】
交通事故で重度の後遺障害が残り、介護が必要となった場合には将来の介護費用を損害賠償として請求することができます。
この将来の介護費用をどのように算定するかは、「将来」のことだけに難しい問題があります。
裁判官の将来を予測できる能力を持っているわけではないですから、現時点での状況から類推していくしかありません。
将来の介護費用は一括請求することが多いのですが、被害者が遷延性意識障害の場合には、裁判例の中には定期金での賠償としているものもあります(東京地裁平成24年10月11日判決判例タイムズ1386号265頁)。
今回は「定期金賠償方式」と言われるものについて説明します。

【定期金賠償方式とは?】
「一括払」「定期金賠償」を言葉で説明すると次のようになるかと思います。
・一括払・・・一括で請求する方式
・定期金賠償・・・将来の介護費用の場合は「その死亡に至るまで1ヶ月○円の割合による金員を支払え」というように死亡まで毎月支払われる方式

これだけですとピンとこないと思いますので、実際に判決でどのように命じられるのかと見てみましょう。
<一括払い方式の場合>
「被告は原告に対し、6000万円を支払え」
<定期金の賠償方式の場合>
「1 被告は原告に対し、4000万円を支払え
 2 被告は原告に対し、平成24年7月20日からその死亡に至るまで1ヶ月25万円の割合による金員を毎月19日限り支払え」

このように一括払い方式だと将来の介護費用も含めて一括での支払い(6000万円)となるのに、定期金賠償方式だと将来の介護費用の分は月額25万円となり、その他の部分(逸失利益等)は一括払い(4000万円)となります。
定期金賠償方式といっても全部が月々払いになるわけではなく、一括支払い部分と定期金部分が分かれるということになります。
(写真の下に記事続きます)


(写真は本文と関係ありません)
【定期金賠償方式のメリットは?】
交通事故の損害賠償請求は一括請求であることがほとんどなので、定期金賠償方式はメジャーではありません。
東京地裁の平成24年の判決でも被害者側は一括請求を求めていたのですが、裁判所の裁量で将来の介護費用について定期金賠償を命じられています。
定期金賠償のメリットどこにあるかというと、中間利息を控除されないということが最大のメリットです。
中間利息の控除については詳しくは別の記事を書きましたので、そちらをご参照いただきたいのですが(⇒過去記事)、簡単にいうと将来の分を割り引いてしか受け取れないということになります。
中間利息は現状では年利5%という想定のもとで割り引かれるので、金利が上がらない現代ではかなり差し引かれている感があります。
定期金賠償では、そのような中間利息の控除がない(差し引かれない)ことがメリットとしてあげられます。

【なぜ定期金賠償の請求は少ないのか】
ただ、被害者側からの定期金賠償の請求は多くありません。
被害者側からすると、「任意保険会社とは早く縁を切りたい。関わり合いになりたくない」という声があります。
定期金賠償は先ほどの例ですと月々25万円を支払ってもらえるということになりますが、任意保険会社が途中で倒産するかもしれません。
そうなると、判決では決められているけれども実際は支払ってもらえないという事態はありえます。
また、定期金賠償部分は例えば25万円と決まったらそれで終わりというわけではなく、事情の著しい変更があった場合は、判決の変更を求めることができることになっています。
これは民事訴訟法に規定されています。
「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。」(民訴法117条)。
この変更判決については裁判例を見たことがありません。私の勉強不足によるものなのかもしれませんが、少なくとも裁判例があまりない分野であり、今後この点が問題となった時にどのような程度であれば変更を認めるのか、どのくらいの変更となるのかが予測不可能ということにはなります。
 変更ということは、増額も減額もありうるということなります。被害者側からすると減額もあるのかということになると、それだけで定期金賠償請求をしたくないという心情は理解できます。
 このように被害者側からするとなかなか定期金賠償での請求に踏み出せないというのが現在の状況ではないかと思います。
 もっとも、裁判所は被害者側が一括払い請求をしても、定期金賠償方式での判決を出せると考えており、当面そのせめぎあいが続きそうです。
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