尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

教員免許更新制は廃止すべきだー「見直し」に止まらず本質論を

2021年05月31日 22時48分34秒 |  〃 (教員免許更新制)
 5月30日付朝日新聞で、教員免許更新制について全国47都道府県、20政令指定都市の教育委員会にアンケートした結果を報じている。その結果「見直しが必要である」が53教委、「現行のままでよい」が5教委、「その他」が9教委となっている。何らかの見直しが必須であるというのは、ほぼ教育界の共通認識になっていると言っていいだろう。

 「免許更新制の課題」としては、「失効で臨時任用不可」が53教委、「講習が教員の負担」が44教委、「年限確認が管理職の負担」が28教委、「講習内容が研修と重複」が11教委、「社会人の教職敬遠の一因」が9教委、「大学生の教職敬遠の一因」が6教委、「更新のタイミングで退職」が3教委となっている。誰が考えても、「失効」問題と「講習の負担」がどうしようもない制度の欠陥だと判る。また、更新しないで辞めてしまう教員も一定程度いることも判る。
(更新制の課題)
 最近よく言われるようになってきたのが、「更新制があるために、講師を見つけられない」という声だ。ワクチンの打ち手不足に対して「潜在看護師の活用」という声をよく聞く。かつて看護師として働いていたが、現在は退職している看護師が多数存在する。そのような人々に研修をして打ち手になって貰おうということだ。教員も「なり手不足」が指摘されているのに、更新制があるために臨時採用が不可能になる。もちろん退職まもなくなら問題はないが、結婚・育児を経て何年も経ってから「産休代替なら」「非常勤講師なら」と思っても、頼むことが出来ない。

 教員も「結婚退職」するのかと言われるかもしれない。教員どうしで結婚するときは、もちろん共働きが多い。しかし、相手が民間企業ということも多い。相手の外国勤務に付いていくため退職したケースを何人か知っている。戻ってきて復帰しようと思っても、今は免許が更新されてないので非常勤講師にもなれない。また定年後に65歳まで嘱託教員として勤務可能だが、かつてはその後も非常勤講師として勤務する人がいた。しかし、55歳で更新した免許は10年期限だから、今後は不可能だ。65歳で再度更新講習を受ける人は、まずいるはずがないだろう。
(各教委へのアンケート)
 また大学生が教職課程を敬遠する理由にもなっている。教員免許を取るためには、卒業に必要な科目に加えて「教職課程」を取る必要がある。もちろん、その分時間も授業料も負担が増える。つまり、専門的な科目を学んで大学卒の資格を得る。それに加えて、教育学心理学教科教育法生徒指導道徳教育相談などを幅広く学ぶのである。その上教育実習も行う。採用試験に合格する保証もないのに、10年期限の資格を取ろうという気持ちになるだろうか。教職が第一希望という人以外は避けるに決まっている。

 という具合に、愚なることこの上ない制度と言うしかない。これでは「教員いじめ」と思うと、その通りで「教員いじめ」というか、もともとは「不適格教員排除」という自民党保守派の発想だった。しかし、問題を起こす教員を事前に予測できるはずもなく、教育委員会に講習を行う余裕もなく、結局「教員が自費で大学等で受講して、自ら更新手続きを行う」という理解不能な変テコな制度になってしまった。だから「抜本的見直し」は不可欠だ。だが、僕はこの制度で「うっかり失効」が起きるとか、教員の負担が多すぎるという理由だけで反対しているわけではない。

 10年前に書いたことと同じだと思うが、改めて書いておきたい。更新制は本質的に「教員をバカにした制度」なのである。教員免許は「専門的に勉強した証」だけれど、「教えること」そのものに特殊な技術は要らない。実際に大学や塾・予備校の教師には資格が要らない。だから「特殊技術」の更新など不可能なのである。確かに一番最初に教壇に立つときは、その教科の専門知識を証明する資格がいるだろう。だが、その後は日々の仕事の中で、適格性の有無が判断出来る。その上でさらに最新知識がいるというならば、研修を義務づけすればいいだけだ。

 公立学校の教師はただの公務員に過ぎない。教員免許は医師免許や法曹資格のような、最難関の資格とは違う。給与面でも社会からの眼差しという点でも、全然比較にならない。医者や弁護士の資格が「10年期限」だというなら判るが、なんでたかが教師の資格が10年期限なのか。講習を受ければ合格し、申請を間違わなければ失職はしないから、それでいいだろうということにはならない。いつも長時間労働を強いられているのに、どこまでバカにされれば判るのか。中には「バカにされているのに、その事に気付かない」教師だっているだろう。

 そして一番重大な問題は「抑圧の委譲」である。教師が「脅迫」で教育をしてはいけない。しかし、「これでは上の学校に受からない」「そんな様子では部活の大会に出られない」「そんな態度では…」「そんな成績では…」といった言葉を一度も発したことがないと自信を持って言える教師は多分いないと思う。教師に対して「受けないと、失職する」というのは、教育行政による「脅迫」である。それによって講習を受けても、中には役立つこともあるだろうが、忙しい中イヤイヤ受けた人は、それより弱い立場にしわ寄せしがちだ。旧軍内務班の新兵いじめや部活動にありがちな先輩・後輩関係のように、弱いものがより弱いものに次々としわ寄せすることが「抑圧の委譲」である。教員免許更新制はどう見ても「脅迫」を助長するとしか思えない。
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