尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

更新制廃止と安倍「教育再生」ー萩生田前文科相の証言

2022年08月05日 22時52分04秒 |  〃 (教員免許更新制)
 2012年12月に第2次安倍晋三政権が誕生したわけだが、以後の第3次、第4次政権を通じて、文部科学大臣はほぼ「清和会」系、つまり今の安倍派(旧町村派、細田派)が就任してきた。2006年の第1次政権では伊吹文明(後に衆院議長、伊吹派)だったが、2012年12月以後は下村博文が2015年まで3年近く務めた。続いて馳浩(現石川県知事)、松野博一(現官房長官)、林芳正(現外相)、柴山昌彦がそれぞれ1年間ぐらいを務めた。2019年に就任した萩生田光一(現経産相)は菅内閣でも再任され2年間務めている。岸田内閣では末松信介が就任した。このうち、今の安倍派以外で文科相になったのは、林芳正現外相だけである。

 林芳正は2021年に衆議院に転じたが、文科相就任当時は山口県選出の参議院議員だった。衆院鞍替えを目論んでいた林は、同郷の安倍と対立するわけにはいかない。このように第2次以後の安倍政権では、文部科学省は安倍首相の「直轄地」「天領」という扱いに近かった。しかも、下村、松野、萩生田と派内でも有力な議員が就いている。それは何故かというと、僕は「強権的教育行政」、政権側から言えば「教育再生」が重要な政策テーマだったからだと思ってきた。しかし、最近判明した事実によれば、「宗教行政を管轄する文科省を押さえておく必要」という動機も重要だったのかも知れない。

 それはともかく、現時点で改めて安倍政権における教育政策を総括することは非常に大切だと思う。朝日新聞(8月1日)には「安倍元首相の「教育再生」改革 功罪を聞く」と題して、児美川孝一郎法政大学教授萩生田光一前文科相の2人のインタビューを大きく掲載している。中でも萩生田氏の発言には非常に興味深い証言が含まれていたので、紹介しておきたい。
(教員免許更新制を語る萩生田文科相)
 もちろん「功績は非常に大きかった」とし「特に第1次政権のときの教育基本法改正。道徳心、自立心、公共の精神など新しい時代の基本理念を定め、その後の改革につながりました」と絶賛している。その後、「道徳の教科化」「教科書検定基準改正」「高等教育の修学支援」などを高く評価。記者(桑原紀彦)から「一方、大学入学共通テストでの英語民間試験の活用や記述式導入教員免許更新制については文科省として見直しを決めました」と問われた。その答えが以下のもの。

 「安倍さんは「全て任せる」と言ってくれました」とまず語り、民間試験活用を「おかしい」、記述式を「物理的に不可能」と断言する。「教員免許更新制は」とさらに問われると、「第1次政権のときに導入を決めた政策なので周りはすごく安倍さんの意向を気にしていましたが、私が廃止の話をしたとき安倍さんは「任せる」と。多忙を極めている先生が更新講習を受けられるのは、長期の休みぐらい。人気の講習は既に埋まり、極端なことを言えば体育の先生が家庭科の講義を受けて免許維持に必要なコマに間に合わせるようなこともありえたわけです。」と語っている。

 ここで判ることは何だろうか。「安倍さんの意向」をやはり気にしていたのである。だから「廃止の話をした」わけである。まあ法律改廃に関して、所管大臣が総理大臣に報告するのは当然ではある。だけど「安倍さんの意向を気にする」「周り」があって、「任せる」の言質を取って廃止へ踏み出したのである。英語民間試験や記述式導入、免許の更新制などは、「現場」的な感覚からすれば、もともとあり得ない政策である。それを言えば「道徳教科化」「教科書検定基準改正」なども同じである。それがまかり通った安倍政権を見てきたから、皆が「安倍さんの意向」を気にしたのだろう。
(「統一教会」名称変更の責任を認めた下村氏)
 では何故安倍氏は「任せる」と言ったのだろうか。更新制廃止が視野に入ってきた2021年夏はすでに菅政権である。タテマエ上、前首相と言えど、現職の大臣に指示するわけにはいかない。しかし、そういうことでもないはずだ。一つは「萩生田氏だから」ということである。加計問題の内情を知り尽くした「忠臣」「寵臣」である萩生田氏を大臣に任命した意図は何か。安倍長期政権の教育政策を見れば、「下村文科相」が3年も務めて「国家主義的教育」のレールを敷いた。その中で行き過ぎた点、もう意味を失った政策を点検することが「萩生田文科相」の役割だったのだろう。そつなくこなして、経産相に横すべりした萩生田氏、菅政権で政調会長に就任した下村氏、ともに「安倍派」の次代を担う存在だった。(下村氏は今回事実上「失脚」するだろうが。)
(「個から公へ」と教育基本法改正を報じる新聞)
 もう一つ考えられるのは、安倍氏にとって「教員免許更新制」は特にこだわりがある政策ではなかったと思われることだ。これはもともと「問題教員の排除」を保守派が言い出したことから始まった。あからさまに言えないから「指導力不足教員」といい変え、全教員の「指導力」向上を目指す「教員免許更新制」となった。萩生田氏が述べる問題点などは当初から判ってきたことであり、何を今さら感が強い。教育において、これほど「政権の目論み」が実現した以上、教員不足までもたらした免許の更新など、もうどうでも良いのではないか。それにしても、誰か保守派議員が廃止反対を言い出しそうなもんだと思っていたが、すでに御大が「任せる」とお墨付きを与えていたのか。亡くなったからこその証言だと思う。
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