尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』、イギリス発の感動作

2024年06月13日 23時26分51秒 |  〃  (新作外国映画)
 火曜日に『トノバン』に続いて見たのが、イギリス映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』である。レイチェル・ジョイスの原作は、日本でも2014年本屋大賞翻訳小説部門第2位になったという。しかし一般的には原作も出演者も監督(ヘティ・マクドナルド)も、ほとんど知名度がないだろう。どこかの映画祭で賞を取ったというわけでもない。予告編を見て、キレイな場所だなあと思ったので見たかったのである。そして、これは今年一番の(かどうかまだ知らないが)感動映画だった。お涙頂戴じゃなく、美しい風景の中に「これが人生か」と思わせる。高齢者にも若者にも、是非見逃さないで欲しい映画だ。

 この映画は簡単に言えば、知人女性が末期ガンでホスピスにいると聞いて年寄りの男性が会いに行くという、ただそれだけの映画である。だけど、その距離が半端じゃない。イングランド南西部のデヴォン州から、イングランド東北部まで800㎞を歩いて会いに行くというのである。東京から(電車の距離で言えば)、西へ向かって広島県の福山あたりまで歩くのと同じ。ハロルド・フライジム・ブロートベント)は特に運動もしてない高齢者。しかも突然思い立って歩き始めたから、何の準備もしていない。
(地図)
 昔職場で同僚だったクウィーニーからホスピスにいると手紙が来る。返事を書いて、郵便局に行くと妻に言って家を出た。そして、そのまま突然歩いて会いに行ったのである。なんで? 人生で何もしなかったから、ここでやるんだという。それはいいとして、車や電車じゃダメなのか。お金の問題じゃなく、歩いて行くことに意味があるらしい。そうだとしても、一度家に帰って妻に説明したうえで、靴や服装などウォーキングに向く準備をするのが普通だろう。しかし、「普通」って何だ? そこにドラマがある。

 それにしてもイングランドの農村も都市も美しい。800㎞は嫌だけど、自分も少しハイキングしたくなる。もちろん疲れてしまう。でも助けてくれる人もいる。一緒に歩きたいという青年も現れる。写真を撮っていいかと聞かれて、写真を撮られたら、いつの間にか人気者になっていた。多分SNSに投稿され、そこからテレビや新聞にも取り上げられたということなんだろう。世界中どこも同じである。「巡礼者」(ピルグリム)と胸に書いたTシャツが作られ、皆で一緒に歩くようになってしまった。でも、それだと遅くなってしまう。もう一月以上歩いているのである。結局皆と別れて、また一人歩き続ける。
(巡礼者と評判になる)
 だけどクウィーニーって誰? 何で会いに行くの? 妻は自分が置き去りにされ、何が何だか判らない。妻との家庭は冷えていたようである。過去のシーンがインサートされ、辛い過去があることが次第に理解されていく。クイーニーに会いに行く理由も、やがて判明する。夫婦関係、親子関係、世界中皆同じような悩みを抱えている。そんなことは知っていたけど、改めて深く感じるところがある。
(妻と)
 ハロルド・フライを演じるジム・ブロートベント(1949~)は、『アイリス』(2001)で米アカデミー賞助演男優賞を受けた。戦後イギリスの女性作家アイリス・マードックの伝記映画で、作家の夫役だった。その他、ハリー・ポッターシリーズや『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のサッチャーの夫など、いろいろ活躍してきた。しかし、今回は「妻の夫」役ではなく、堂々たる主役をやってる。妻はペネロープ・ウィルトンという人で、「ダウントン・アビー」シリーズなど活躍して来たという。監督のへティ・マクドナルドは、主にテレビで『名探偵ポワロ』などを作ってきた。撮影のケイト・マッカラは、今年公開された『コット、はじまりの夏』も撮影している。どっちも風景を見事にとらえていて忘れがたい。
(原作・脚本のレイチェル・ジョイス)
 原作・脚本のレイチェル・ジョイスはテレビ、ラジオ、舞台で活躍してきた女優だったという。この映画の原作が作家デビューで、大きな評判になったという。その後、『ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌』と、妻モーリーンを主人公にした「Maureen Fry and the Angel of the North」(原題・未翻訳)という小説も書いているらしい。なるほど、ハロルド以外の人から見ると、また違っているだろう。とにかく最近出色のロードムーヴィーで、いろいろと人生について考えさせられる。面白くて感動的。

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