尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

独立は支持しないが、台湾民衆の獲得した自由を支持するー「台湾有事」考③

2024年06月04日 22時22分25秒 |  〃  (国際問題)
 台湾問題に関する原則を確認しておきたい。今までにも折に触れ書いたことがあるが、何回も確認した方が良いだろう。基本的には「二つの中国」には反対し、「台湾独立」は認められない。これは日本政府の公式的な立場と同じである。理性的に判断して、これ以外の立場に立つことは不可能である。「台湾民衆が独立を望んだとしたら、それを尊重するべきではないか」。そういう考え方もあるというかも知れない。だが、中国(中韓人民共和国)と「台湾」は同じ民族である。台湾には多くの先住少数民族が存在するが、大部分は漢民族である。国連の原則として認められている「民族自決」は台湾問題には適用できない

 もともと「台湾問題」の始まりは、日清戦争後の「下関条約」(1895年)で、大日本帝国が台湾(及び澎湖諸島)を植民地として獲得したことにある。1943年のカイロ宣言で連合国首脳は「満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」という方針を表明した。1945年のポツダム宣言も同じ方針を踏襲し、日本は同宣言を受諾した。9月2日の降伏文書調印をもって、台湾及び澎湖諸島の統治権は「中華民国」に返還されたとみなすべきだ。

 しかし、台湾を支配した国民党は強権的な支配を行って、台湾民衆の反発を買った。1947年2月28日には、国民党当局と民衆の衝突が発生し、残虐な弾圧が繰り広げられた。(二・二八事件。ホウ・シャオシェン監督の映画『悲情城市』に描かれている。)一方、中国本土では国民党と共産党の内戦が激化し、次第に共産党が有利な情勢となった。1949年10月1日には中華人民共和国が建国を宣言し、中華民国の蒋介石総統らは12月に台湾に逃れ、台北を臨時首都とした。

 その後中華人民共和国では50年代の反右派闘争、60年代の文化大革命で大きな犠牲を出す。その意味では台湾の国民党も、本土を支配した共産党も、支配の正当性に問題があったとも言える。だが、その判定は中国民衆が行うべきことで、支配権を放棄した日本が口を挟むべきことではない。そして20世紀の終わり頃に、中国と台湾では大きな変化が起こった。台湾では「総統直選制」が実現し、民主的な政治改革に成功した。経済的にも発展し、「成熟した民主主義社会」を実現したのである。一方、中国では1989年の天安門事件以後政治改革が停滞し、それ以前にもまして抑圧的で非民主主義的な社会となった。

 21世紀になって、さらに台湾では様々な改革が行われた。2019年にはアジアで初の「同性婚」が法制化された。中国では同性愛が違法とされているわけではないが、近年では性的少数者のための人権活動は事実上不可能になっている。(そもそも自律的な人権擁護運動の余地がほとんどなく、「欧米的価値観」の流入として敵視される傾向が強い。)では中国が台湾に侵攻し制圧した場合、同性婚はどうなるのだろうか? それは「本土並み」になるということだろう。香港に適用されたはずの「一国二制度」は欺瞞でしかなかった。台湾でも同じようになるだろう。つまり台湾の人権水準は低下するのである。
 
 そのような事態は認めがたい。「同性婚」は一つの象徴的事例だが、言論・結社の自由が完全になくなってしまう。香港を見れば、それは明白だ。ところで不思議なことに、日本国内で「台湾有事は日本有事」(故安倍晋三元首相)などと台湾支持を打ち出し、中国には武力で対抗するようなことを言う人々は、同性婚反対の超保守派が多い。このような日台間の「ねじれ」が「台湾有事」には存在する。日本でも同性婚を法制化する(あるいは再審法を改正するなど)、台湾が獲得した人権水準を日本でも実現することこそ、まず「台湾有事」を考える時に最初にやるべきことではないのだろうか。
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