尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

輸出は増えたのか-「アベノミクス」をどう考えるか②

2016年07月01日 23時55分05秒 |  〃  (安倍政権論)
 僕には前から不思議に思っていることがある。安倍首相は「日本を取り戻す」と呼号して政権復帰した。その後日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行総裁を抜擢し、「異次元の金融緩和」を行い続けている。その結果、どんどん円安になったわけだが、その魔法的効果も薄れつつあるように思う。それはそれとして、世界の普通の感覚では、「国家主義的思想」を持つものは「自国通貨が強い」ことを望むものではないか。円安から円高になる方が、「日本を取り戻した」と言えるはずである。自国通貨の購買力が高まるわけだし、日本企業は海外に進出しやすい。

 しかし、今のところ、多くの人はそう思っていない。円高になれば株価が下がり、円安になれば株価が上がる。それは何故か?「日本は輸出国だから」と多くの人は思いこんだままだと思う。日本は資源がない。だから、国民が働いて「加工貿易」で生きていくしかない、なんて聞いた覚えはないだろうか。学校ではよくそうして、「日本は国民がマジメに働くしかない国だから、みんなもしっかり勉強するんだよ」と大体そこに結び付いたわけである。実際の歴史を見ると、資源が豊富な国は資源にたよるモノカルチャーになり、資源安になると経済が破たんする。一方、自国に資源がない国は、世界から安い資源を探して輸入できるから、むしろ有利なことも多かったんだと思う。

 さて、円高になれば輸入に有利となり、円安になれば輸出に有利となる。これは「現代社会」の授業などで何度も繰り返して説明しテストにも出すわけだが、やっぱり間違える人はいつもいるものだ。今はもうその説明はしないけど、「日本は輸出国」だという通念で言えば、あれだけ激しく円安になったんだから、輸出は急増して、日本の貿易収支は大幅黒字になったはずだ。実際はどうだろう。

 「世界経済のネタ帳」というホームページがあって、大変便利なので今日はこれを利用させてもらうことにする。1980年から2014年までの輸出入額をそこで見てみたいと思う。毎年見ても面倒なので、最初の年の1980、10年後で税収が一番多かった1990、さらに10年後の2000、安倍政権だった2006以後は毎年見ておきたい。単位は輸出入とも、10億USドル最初が輸出、次が輸入
 1980  130.44  141.30
 1990  287.51  235.37
 2000  479.30  379.51
 2006  646.73  579.06
 2007  714.33  622.24
 2008  781.41  762.53
 2009  580.72  551.98
 2010  769.77  694.06
 2011  823.18  855.38
 2012  798.57  885.84
 2013  715.10  833.17
 2014  683.85  822.25

 細かい数字が並んでるので、見にくいと思うけど、これはまた「衝撃的な数字」ではないか。リーマンショックで大幅に縮小した日本の輸出は、民主党政権下で順調に回復したけれど、安倍政権になって減ってしまっているのである。じゃあ、この統計にない2015年はどうだろうか。統計はもう発表されていて、輸出は74兆1173億円。前年度に比べて0.7%減。輸入は75兆1964億円。10.3%減。単位が違うが、減少率が出ているから比較はできる。輸出はさらに減ってしまった。

 これは多分、多くの人が何となく思い込んでいる「常識」に反することだろう。そう言えば、安倍政権でも円安で輸出が増え、それが国民に還元されるなどと主張していない。何でだろうか。それは今は輸出企業も海外進出しているのだから当然だろう。部品から完成品まで日本で作って輸出するなんて、そんな工業製品はまずない。あったら人件費や地代などが高い日本では、ものすごく高い製品になってしまう。だから、完成品は日本で作っても部品は輸入するとか、工場ごと海外に出てしまうとかするわけだ。じゃあ、なんで企業の業績が好調だったかというと、その海外で得た利潤が円安で膨れ上がったということである。 

 その分、大企業は自ら額に汗して稼いだのではなく、為替変動による「追い風参考記録」を得たのである。そうすると、地道に研究して新製品を開発しようと努力する気風が失われる。この間、「日本の大企業は一体どうなってしまったのか」といった会計不正やお家騒動が相次いでいる。ぬるま湯につかっている間に、日本企業の「統治能力」が壊れてしまったのではないか。

 もう一つ、輸出するには相手国が必要である。買ってくれなきゃ、売り様がない。そして、21世紀になってずっと日本の大きな貿易相手先だった「中国」の経済が失速し始めた。安倍政権も、就任後に靖国参拝をして、中国との関係悪化を招いた。第一次政権の時は、参拝の有無を明らかにせず、すぐに中国訪問に踏み切った。小泉首相時代に長く首脳外交が閉ざされていた対中関係の修復を行ったわけである。しかし、第二次政権では早々と参拝し、この結果中国との関係悪化を招いた。そういう環境下では、日中の経済関係が好転するとは考えられない。

 この間の円安で、輸入に頼る食料品の値上げが相次いだ。たまたま原油価格が暴落したので、その分エネルギーや輸送費が安く抑えられている。もし原油高のままだったら、食料品の価格上昇はもっとトンデモナイものとなり、その怒りが選挙に向かったはずである。だから、安倍政権には「運」があった。こうしてみると、円安は国民生活に大きなマイナスをもたらし、その一方輸出も増えず、では一体何の効果があったのかというのが実際のところだと思う。続いて、GDPを考えてみるつもりだったけど、時間が遅くなってしまったので、今日はこれで終わり、さらに続けていくことにしたい。
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