尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

GDPの推移を見る-「アベノミクス」を考える③

2016年07月03日 22時58分44秒 |  〃  (安倍政権論)
 7月に入り、関東地方も猛暑が続いている。今日(3日)なんぞ、35度である。いやはや、これが2カ月も続いたらたまらない。参院選の次に都知事選までやるってことだけど、やっぱり秋まで延期してれば良かったんじゃないか。それはともかく、昨日はとても書く気にならなかった。数字を見る気にならない日々だけど、始めてしまったので「アベノミクス」をもう少し考えてしまいたい。

 さて、2回目は「円安になった割には輸出が増えてない」という話だった。しかし、そこで見たデータは、「ドル」で計算されていた。衰えたといえど、米ドルは世界の基軸通貨ではあるから、ドルで考えると輸出量はむしろ減っているというのは、日本経済が小さくなっているということである。でも、円ベースで計算したらどうなんだろうか。前回書いてないので、そこから書いておきたい。

 「財務省貿易統計」で見ると、今までに円計算で一番輸出額が多かった年は、2007年である。「83,931,437,612」(千円)である。これでは単位がなんだか判らないから、もっと簡単に言えば「83兆9千億円」ということになる。翌2008年も、81兆円を記録している。当時の円相場は、「1ドル=117円」(2007年の一年間の平均)だった。第一次安倍政権時代である。

 それが2009年にリーマンショックで大幅に落ち込み、54兆円となった。(それでも2004年と同じぐらいである。)2010年には67兆円に回復するが、2011年には65兆2012年には63兆と減退する。これは東日本大震災による影響だろう。以後、69兆、73兆、75兆と増加している。だから、確かに円ベースでは第二次政権で増えているわけである。しかし、これが「円安による急激な輸出増」と言えるだろうか。まだまだ、第一次政権時代の輸出額には大きな違いがある。

 そのような傾向は、経済におけるもっとも基本的な統計数値である、GDP(国内総生産)の推移を見ても言えると思う。(GDPを正式に英語で言うと、というのは授業でよく取りあげたが、Gross Domestic Product ですね、念のため。)GDPには「名目」と「実質」がある。GDPとは、一定の期間内に国内で生産された財やサービスの生産だけど、市場で取引されたものだけを積みあげる。それが「名目GDP]だが、物価上昇(下落)の影響を加味して再計算されたものが「実質GDP」ということになる。一年間のGDPの推移が「経済成長率」である。

 名目GDPが一番大きかったのは、実は1997年の523兆円である。その後2001年まで500兆円台を記録するが、その後失速。2002年に底を打ち、次第に盛り返して2007年に約513兆円。2009年にリーマンショックで471兆円と落ち込み、少しづつ回復していくが、2015年はまだ499兆円。第一次安倍政権時代は、けっこう経済が好調だったのである。それは小泉改革が成功したからではなく、20世紀末の消費税アップやITバブル崩壊による不景気から、自然な経済回復をしていく過程だということだろう。

 実質GDPも見ておきたい。(なお、両方とも出展は「世界経済のネタ帳」。)名目では90年代のGDPが高かったが、実質に直すと400兆円台が続いている。初めて実質GDPが500兆円に届いたのは、2005年。2006年がゼロ年代では一番大きくて、523兆円である。それが他の指標と同じく、2009年に489兆円に落ち込む。その年が民主党政権に代わった年である。そこから回復していって、512、510、519と推移して、自民党が政権に復帰する。その後、526、526と来て、2015年は528兆円である。だから、実質GDPに関しては第一次安倍政権を超えている。実質GDPでは、第3次安倍政権で至上最高値を記録している。

 では、もっと宣伝しそうなものだが、民主党政権時代はリーマンショックで大幅に下落した時期に政権を引き継いだから、途中で東日本大震災が起こったものの、成長率は高かった。2009年から2012年までは、6%の成長となっている。一方、すでに民主党政権時に回復基調にあったためか、安倍政権復帰以後の成長率は、1.8%である。そこに話が行くことになるから、実質GDPが史上最高値を記録したと宣伝しないのかと思う。これらの数値を見るにつけ、要するに民主党であれ、自民党であれ、リーマンショックや大震災による経済的危機からの回復過程にあるだけなのではないかと思われるのだが。

 「アベノミクス」は道半ばというけど、どこまで行っても道半ば。虹を追いかけ続けても、実はもうこれ以上ないのかもしれない。なぜなら、労働力人口がすでに減少過程に入っているからである。人が少なければ、生産性がいくら向上できたとしても、生産額が減るのも当然である。もっとも、僕はこのまま永遠にGDPが上がらないと思っているわけではない。GDPとは市場経済で認知できる付加価値だけを足したものである。そして、戦後直後に生まれた「団塊の世代」は、60歳あるいは65歳になり、いったん市場経済での存在感が薄まった。もちろん食べなきゃいけないし、旅行も行くし、子どもや孫にお金を使う。でも、やっぱり「老後に備える」意識がある。

 まだまだ元気なこの世代が、2020年以後に「後期高齢者」に入ってくる。医療や介護のサービスを大量に消費し始めるだろう。医者にかかるのも、GDPアップである。だから、その意味では少子化、高齢化にあった社会設計をしていけば、まだ経済発展の余地はあるだろう。そのためには社会のありようを大きく変えて、外国移民の受け入れなども検討する必要がある。しかし、それは安倍政権ではできないし、2020年以後に「アベノミクス」による経済停滞がはっきりしてくるだろう。五輪を開いたギリシャ、中国の経済がその後どうなったか。英国ではEU離脱、ブラジルでは開会前から政局大混乱で、経済的にも大変である。つまり、巨額の東京五輪支出を何とかしない限り、「五輪後危機の20年代」が訪れることを覚悟しないければいけない。
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