尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

中国映画「芳華ーYouthー」、懐かしき苦難の青春

2019年05月08日 22時27分15秒 |  〃  (新作外国映画)
 「モンテ・クリスト伯」が最終盤の佳境に入っているので、簡単にかける新作映画の話。中国映画「芳華ーYouthー」という映画を見た。中国でも文革時代を懐かしく語れる時代になってきたんだなと思った。もっとも国や時代を問わず、青春時代は言うに言われぬ苦難に満ちた時代だろう。そこを通り抜けると「懐かしさ」が生じる。音楽もカメラワークもノスタルジックで、誰でも思い当たる若い頃の恥ずかしき事々を思い出してしまう。こういう映画は昔から世界的に作られてきたが、最近の韓国映画、台湾映画でよく見る気がする。中国でもそんな映画を求める時代になってきたんだろう。

 1976年の中国。同時代を生きた人なら覚えていると思うが、この年は中国の激動の年として知られている。周恩来、朱徳に続いて、秋に毛沢東が亡くなる。その後、毛沢東の妻、江青らの「四人組」が逮捕され、やがて文化大革命の終焉を迎える。この映画は、そんな時代の中で軍の「文芸工作団」に所属した若者たちの運命を描いている。「文工団」とは、つまり歌や踊りの慰問団だけど、他の娯楽が許されない時代にあっては、憧れの対象だっただろう。

 そこに17歳のホー・シャオピン(何小萍)が入団する。実父が労働改造所に送られ、母は再婚した。家でも疎まれていたが、実父という「政治的汚点」を隠して入団できた。その時に迎えに来てくれたリウ・フォン(劉峰)は「模範団員」と呼ばれている。文工団でもなじめないシャオピンは、それでも親切にしてくれるフォンに惹かれている。フォンはケガして踊れなくなり、美術担当に回る。そんなとき文革が終わり大学が再開される。「模範」であるフォンも軍の大学に推薦されるが、彼は堅く辞退する。「模範」かと思われたが、実は彼には理由があったのだ。

 そして問題が起こって、フォンは前線に飛ばされる。フォンを守れない文工団にシャオピンは絶望し、ついに彼女も野戦病院の看護婦として前線に送られる。時あたかも1979年。「中越戦争」が起き、中国は苦戦する。映画内では「中国対越自衛戦争」と呼ばれているが、実際は中国がヴェトナムに侵攻したものだ。ヴェトナムがカンボジアのポル・ポト政権を打倒したことに「懲罰」したもので、アメリカ軍と現代戦を戦ったヴェトナムに対し文化大革命で軍事技術が遅れた中国が思わぬ苦戦をしたと言われる。「4つの現代化」を目指す「改革開放」が始まる原因にもなった。

 前線で負傷するフォン、あまりにも悲惨な戦いを見過ぎて心に変調をきたしたシャオピン。そんなときに文工団は解散となる。皆はどうするのか。この映画は実は団員の一人スイツ(穂子)がナレーターとなって進行していく。スイツは文工団内の人間関係を中立的に描いていくが、革命のための組織であっても恋愛感情は避けられない。文革終了後に社会が少し自由になり、ある日カセットプレーヤーを持ってきた人がいて、カセットテープを秘密に聞く。知ってる人には想像が付くだろうがテレサ・テンを聞くわけである。そしてテレサ・テンが思わぬ影響をもたらしてしまう。

 監督は実際に文工団の体験があるフォン・シャオガン(馮小剛)で、北海道ブームを起こした「狙った恋の落とし方」や、1976年に起こった大地震を描く「唐山大地震」などで知られる。ヒットメーカーで知られ、この映画も中国で大ヒットしたらしい。基本的に娯楽映画路線で、「芳華」も現代史を厳しく振り返る映画ではない。むしろ社会的な視点を避けて青春の懐かしさを強調した映画だ。文革時の悲惨さは多少触れられても、中越戦争への批判は出来ない。そんな状況も判る。

 文工団が練習しているような革命バレエは、当時は日本でも中国派の人々が大宣伝して褒めたたえていた。でも紋切り型の振り付けや大げさな歌詞の歌はどうにも時代遅れ。テレサ・テンの歌と聞き比べると、ずっとダサいのが明らか。でもそのダサさが今になるとちょっと懐かしいという感覚が生まれるんだろう。東ドイツやソ連なんかでも同様だ。とにかく軍以外では歌ったり踊ったり出来ないんだから、親が「反革命」じゃない限り入りたい若者がいる。そんな彼らの青春が改革開放後にどうなっていくか。フォンとシャオピンはどうなったか。中国現代史の苦節を思い、涙する人が多いんだろう。映画の出来というよりも、東アジア現代史ウォッチの意味で興味深い。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 海部宣男、ケーシー高峰、小... | トップ | 不条理な「ブランディング事... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

 〃  (新作外国映画)」カテゴリの最新記事