尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ジャン=ポール・ベルモンドの映画を見逃すな!

2022年09月18日 23時10分32秒 |  〃  (旧作外国映画)
 フランスの映画俳優ジャン=ポール・ベルモンド(1933~2021)と言えば、先頃亡くなったジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』ぐらいしか、長いこと見られなかった。しかし、2年前から「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」が行われ、現在3回目が新宿武蔵野館で上映されている。半世紀以上前の映画だから、今見ると中にはもう古いなというのもある。でも体を張った壮絶アクションが今も色あせない超絶エンタメ映画がいっぱいあって見応え十分だ。

 ジャン=ポール・ベルモンド傑作選では今のところ20本が上映されている。名前だけ挙げておくと、第1期が『大盗賊』『大頭脳』『恐怖に襲われた街』『危険を買う男』『オー!』『ムッシュとマドモアゼル』『警部』『プロフェッショナル』の8本。第2期が『リオの男』『カトマンズの男』『相続人』『エースの中のエース』『アマゾンの男』の5本。今やってる第3期が『勝負(カタ)をつけろ』『冬の猿』『華麗なる大泥棒』『ラ・スクムーン』『薔薇のスタビスキー』『ベルモンドの怪盗二十面相』『パリ警視J』の7本。ゴチックにしたのが現時点で見ている映画。

 お気に入りのロベール・アンリコ監督『オー!』とか、世界的に大ヒットした『リオの男』など、大期待してみた割りにはイマイチ感が強く、今まで記事には書かなかった。でも3回目の今回は充実したプログラムになっているので、少し紹介したい。やはり監督は大事だなと思ったが、アンリ・ヴェルヌイユ(Henri Verneuil、1920~2002)の作品が面白い。『ヘッドライト』『地下室のメロディ』などで知られた名匠である。70年代以後はほぼアクション映画専門で未公開作品も多い。第1期でやった『恐怖に襲われた街』(1975)も面白かった。連続殺人鬼を追ってパリを駆け回る敏腕刑事。ちょっと無理な展開かなとも思うが、アクションがすごい。

 しかし、アクションの素晴らしさでは、今やってる『華麗なる大泥棒』(1971)が図抜けている。アテネで宝石泥棒を企むベルモンド一味。それに目を付けた悪徳警官オマー・シャリフ。冒頭の金庫の錠開け、中程のすさまじいカーチェイス、バスからトラックに移って砂利山を落下するシーン、すごすぎる。これを見るとジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー/香港国際警察』は明らかにこの作品の影響を受けている。アメリカ映画『ブリット』(1968)のカーチェイス(サンフランシスコ)よりスゴい。アクション監督レミー・ジュリアンという人の設計が素晴らしい。007なども担当し、二人の息子も世界的に活躍中。
 (『華麗なる大泥棒』)
 同じくヴェルヌイユ監督のモノクロ作『冬の猿』(1962)は心に沁みる名作。ジャン・ギャバンとの唯一の共演である。実はこの映画は池袋の文芸坐であった特集上映で見たことがある。人生でもう一回見られるとは思ってなかった。ノルマンディーの港町で旅館を営むギャバンはいつも酔っ払っている。でも、戦時下の空襲中、無事に戦後まで生き延びられたら酒を断つと神に誓った。戦後は酒を出さない安宿になってしまったが、そこにベルモンドが泊まりに来る。屈託を抱えた二人にいつか心が通っていくが…。冬空の花火、ベルモンドの心の秘密、犯罪映画ではなく、切ない映画の傑作。
(『冬の猿』)
 二度見られて嬉しいのは、アラン・レネ監督『薔薇のスタビスキー』(1974)も同様。『二十四時間の情事』(ヒロシマ、モナムール)、『去年マリエンバートで』のあのアラン・レネとは思えない判りやすい映画。フランス現代史に有名な(と言うんだけど)、1930年代初頭にフランス政界を揺るがしたスタビスキー事件を描く。タイトル・ロールのベルモンドと愛人のアニー・デュプレーが魅力的。衣装をサン=ローランが担当していて、見応えがある。凝りに凝った30年代の懐古的ムードに心奪われるけど、次第に編集や音楽のリズムが気になってきた。結局、監督が主人公を好きになれなかったのではないか。
(『薔薇のスタビスキー』)
 興味深いの『勝負(カタ)をつけろ』(1961)と『ラ・スクムーン』(1972)で、同じ話である。実際に獄中にいたギャング出身の作家ジョゼ・ジョヴァンニの原作。ジョヴァンニは作家を経て、映画監督にもなって沢山の映画を作った。『ラ・スクムーン』は最初の映画化に不満が残って、自分でリメイクしたらしい。『勝負をつけろ』はジャン・ベッケル(『穴』『モンパルナスの灯』などの名匠ジャック・ベッケルの息子)の初監督作品。「死神」と呼ばれたギャングの生涯を描いている。友人を救いに自分も獄に入り、戦後には一緒に地雷除去作業に携わる。(刑期短縮を条件に危険な作業への応募を刑務所が呼びかけた。)『ラ・スクムーン』は友人の妹役がクラウディア・カルディナーレと超豪華。でも派手さがない前作『勝負をつけろ』の方が僕は好きかな。
(『ラ・スクムーン』)
 『ムッシュとマドモアゼル』『エースの中のエース』も面白かったけど、もう省略。昔のヨーロッパ映画はアート系巨匠の特集上映はあっても、娯楽作はほぼ見られなかった。最近は事情がずいぶん違ってきて、デジタル修復されて蘇った旧作が上映されるようになった。今年の夏には「ロミー・シュナイダー映画祭」があり、来週末からは「クロード・ミレール映画祭」まであるので驚いてしまう。誰だって感じだが、ロミー・シュナイダーはアラン・ドロンの恋人だった有名女優。クロード・ミレールは僕も知らなかったが、「なまいきシャルロット」などの監督である。見てると時間もお金も大変だけど、フランス語を聞いてるだけで楽しい。
コメント (1)
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