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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『美しい夏』、新解釈でパヴェーゼ文学を映像化

2025年08月07日 20時28分09秒 |  〃  (新作外国映画)

 最近ずっと書いてるチェーザレ・パヴェーゼ原作の映画化『美しい夏』(La bella estate)を見て来た。これをきっかけに読み始めたんだから、見ないわけにはいかない。2023年の作品で、ロカルノ映画祭などに出品とあるから受賞はしてない。まあトリノの美しい町並みを見られれば良いぐらいの気持ちで見たら、一応満足できた。1938年と時代が特定されている。もう85年前だが、現代に移し替えて脚色するのではなく、原作の時代性を生かして映画化している。そのことの難しさと面白さを感じる映画だ。

 事前に予告編を見る機会があったが、僕は主演俳優を間違えていた。上記チラシの左側が主役のジーニア(16歳)で、イーレ・ヴィアネッロ(1999~)が演じている。「アリーチェ・ロルヴァケル作品のミューズ」と紹介されていて、昨年公開された『墓泥棒と失われた女神』に出ていたというんだけど、その映画は見てるけど記憶にない。公式ホームページを見ても、紹介されていない。右側のアメーリア(19歳)を演じたディーヴァ・カッセル(2004~)はヴァンサン・カッセルモニカ・ベルッチの娘だという。フランスに住んでモデルをしているという。ところで生まれた年を見ると、配役と実年齢が逆転しているのである。

(自転車でトリノ郊外へ行く)

 この問題はとても重大で、まだ幼さが残る田舎から出て来たばかりのジーニアが、年上のアメーリアと知り合って「大人の世界」へ足を踏み入れていくというのが、この物語の基本設定である。ところが映画を見てもジーニアが16歳とは思えない。演じている女優が24歳なんだから仕方ない。一方年上のはずのアメーリアは確かに身長が高く大人っぽい感じを出してはいる。18歳になるのを待って撮影したというが、それでもジーニアより年上というのは無理がある。気にしないように見ればそれで済む問題かもしれないが、どうもキャスティングに問題があるのではないか。なんて思ってしまったけど、まあ気にしないことにすれば済むのかも。

(湖で出会う)

 原作は心理描写が多く、具体的な描写が少ない。そこで二人は「美しい夏」に湖に皆でピクニックに行った際に知り合うという設定が作られた。珍しくパンフレットを買ったら、トリノ西部の自然公園ピッコロ・ディ・アヴィリアーナ湖で撮影されたと出ていた。アメーリアは別のメンバーとボートに乗っていて、知り合いに気付くと湖に飛び込んで泳いでやってくる。これはまた鮮烈な出会いを創作したものである。またジーニアは洋裁店に勤めるというから、売り子かと思っていたら「お針子」だった。昔のヨーロッパ文学にはそういう設定が多い。だけどポッと出の16歳の少女がドレスの仕立てを任されたりするのは無理があると思う。

(ジーニアとアメーリア)

 このように具体的に描かなければならない映画では、原作にない細かい設定が必要になる。それがあまり生きていない感じがするのである。アメーリアは画家のモデルをしていて、ジーニアも連れて行ってもらう。そこで出会ったグイードに惹かれて、性的にも結ばれる。そこら辺はさすがに現代だけのことはあって、はっきり描ける。その辺りの微妙な男女関係がやがてアメーリアの発病(梅毒である)によって変容していく。そして、結局ジーニアにとってアメーリアは単なる憧れの対象ではなく、同性愛的な感情が隠されていたと解釈している。それが僕には新鮮な解釈に感じられたところで、現代から見た新解釈だと思う。

(ラウラ・ルケッティ監督)

 ラウラ・ルケッティ監督(1969~)にとって長編3作目だが、今までの作品は日本未公開なのでよく判らない。イタリアで非常に人気のあるパヴェーゼ文学にチャレンジしたのはすごいと思う。トリノは古い建物が残っていて撮りやすいと言っているが、それでも都市全景を映すことが出来ず作品世界を狭めた感じもした。トリノはサルデーニャ王国の首都だった町で、イタリア王国統一(1861年)から数年間は全土の首都でもあった。そのような古都にふさわしい宮殿なども出て来る。独特のアーケード街も美しい。今はフィアットなどのある工業都市だが、30年代のファシズム期というムードを感じさせる映像がロケで撮れるのはうらやましい。


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