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刑法学:他人のやった犯罪行為まで、途中で抜けた/途中から参加したのに、責任を負う場合とは。

2014-10-15 23:00:00 | 刑法学
(平成26年10月15日23:00作成第2稿)

 途中から抜けた者に、最後までの罪の責任を負わせるか、下の事例なら、兄貴に殴られ失神して最後まで暴行に加わらなかったものに暴行死の責任を負わせることができるか、途中から抜けた兄貴に暴行死の責任を負わせることができるのか(共犯からの離脱の問題)。
 自分がやった罪の責任しか負わないのが、原則だけど、どう考えるか。

*****教室事例1*****

X(男、35歳)、Y(男、30歳)、Z(男、25歳)及びA(男、20歳)は、同じ暴力団組織に所属する組員であり、Xは幹部、Y、Z及びAは、Xの舎弟である。
Xらは、日頃から、覚せい剤の密売により生活費や組の活動資金を得るなどしていたところ、ある時、Zは、Aが覚せい剤を一部横流しして、稼ぎを自分だけのものにしているのではないかとの疑いを持った。
そして、ZがXに、「あいつ(A)は、クスリを一部抜いて稼いでますよ。他の組の奴とつるんでいるという噂もあります。」などと伝えたところ、Xは激怒し、Y及びZと共に、Aを追及して、制裁を加えるに決め、Y及びZに対し、「Aは覚せい剤を勝手に横流しして稼いでいるようだ。明日あいつを呼び出してヤキを入れるからな。」などと指示したところ、Y及びZは「分かりました。半端なことをしたらどうなるか分からせてやりましょう。」などと応じた。
翌日、Xは、組事務所にAを呼び出し、「お前、覚せい剤を横流ししてるだろう。全部分かってんだぞ。お前がこれまでに稼いだ金をすべて渡せ。」などと言って追及したが、Aは、普段からXに不満を感じていたこともあり、のらりくらりとした態度を取っていた。  
それを見たX、Y、Zは、激昂し、およそ1時間にわたり、それぞれ、顔面を手拳で殴打し、背部等を竹刀で殴打し、腹部を足蹴りするなどの暴行を加えた。
すると、Aは、腹部をおさえ顔面蒼白となりながら、ふざけた態度を取ったことを謝ってきたので、少し可哀想になったZが「もう終わりにしましょう。」とXに進言したところ、Xは、「ふざけんな。お前が持ち込んできたことだろう。勝手なこと言うんじゃねえ。」などと言って、Zの顔面を力任せに殴打したため、Zは、失神してその場に倒れた。
その後、XとYは、横流しの事実を認めるようAを追及しながら、しばらくの間、竹刀などを使ってAに暴行を加えていたが、依然としてAが認めないことから、Xは、追及するのを諦め、「俺はもう帰るぞ。少し手当してやれ。」と言い残して、組事務所を後にした。
ところが、Yは、かつてAに愛人を奪われたこともあったことから、その恨みを晴らすべく、もう少し痛めつけてやろうと思い、引き続き、数回にわたり、顔面を手拳で殴打し、胸部や腹部を足蹴りするなどの暴行を加えた。
そうして、しばらくしてYがAを組事務所に放置したまま帰宅したところ、Aは、数時間後、外傷性ショックにより死亡したが、その後の捜査において、死亡原因がどの時点における暴行によるものか判明しなかった。

(小問1)
X、Y、Zの罪責を論ぜよ。

**************




 次は、途中から抜けたのとは逆に、途中から参加した場合は、自らが加わっていない初めの暴行の責任も負うことになるのかどうか(承継的共同正犯の問題)。


****教室事例2******

(小問2)
上記事例について、以下のような事実関係であった場合、Yの罪責について論ぜよ。
当初、組事務所において、Aに対して暴行を加えたのは、XとZのみであった。その態様は、上記のとおり、顔面を手拳で殴打し、腹部を足蹴りし、背部等を竹刀で殴打するというものであった。
その後、Xらは、Aを監禁して追及するため、組が使用している付近の倉庫まで連行した上、Aに恨みを抱いていたYを呼び出して、事情を告げた。
そしたところ、Yは、Aが顔面蒼白となりもはや抵抗の意思をなくしているのを見て、この機会を利用して以前の恨みを晴らそうと思い、Xらと一緒になって、Aに対して、傍らにあった角材で背部等を殴打するなどの暴行を加えた。
そうしたところ、数時間後、Aは外傷性ショックにより死亡したが、所要の捜査によっても、Aの死亡原因につき、Yが合流する前に生じたものか後に生じたものか判別しなかった。
なお、組事務所と倉庫は車で約10分の距離にあり、XがYに連絡してからYが合流するまでは30分程度であった。

***************

 教室事例1と2を考えてみる。


第1、 小問1

1、 Yの罪責について
(1) XYZの共謀について
 XYZAは、同じ暴力団組織(以下、「組」という。)に所属する組員であり、Xは、幹部、YZAは、Xの舎弟であった。
 組は覚せい剤を密売していたが、Xの指示で、覚せい剤の一部横流しをしている疑いのあるAを懲らしめることとし、YZは、「分かりました。」など応じ、XYZは、Aに対し暴行を加えて制裁をする共謀が成立した。

(2) Yが傷害致死罪(205条)をなしたことについて
 共謀の翌日、組事務所において、Aに対し、XYZは、1時間にわたり、顔面を手拳で殴打し、背部などを竹刀で殴打し、腹部を足蹴りするなどの暴行を加えた。Zが失神するまでの暴行を、以下、「本件暴行1」という。
 その後、ZがXに殴られ失神したが、XYは、暴行を加えたが、途中、Xは組事務所を後にした。Zが失神後、Xが去るまでの暴行を、以下、「本件暴行2」という。
 X離脱後も、Yは、Aに対し、顔面を手拳で殴打し、胸部や腹部を足蹴りするなどの暴行を加えた。Xが去った後の、Yによる暴行を、以下、「本件暴行3」という。
 YがAを組事務祖に放置したまま帰宅したところ、Aは、数時間後、外傷性ショックにより死亡した。
 Yは、Aに対する暴行の全過程(本件暴行1ないし3)に関与し、その暴行の結果、外傷性ショックでAは死亡していることから、Aには、傷害致死罪が成立する(205条)。

(3)殺意について
 Yは、Aに対する殺意は、抱いていないため、殺人罪は成立しない。
 XZもまた、殺意を抱いていない。

(4)Aの遺棄について
 暴行後、Aを組事務所に放置したことには、長時間暴行を加え、負傷させた者として、保護する責任をYが有していたが、その保護をせず、Aは死亡し、Yには、保護責任者遺棄致死罪(219条)が成立するか問題になるが、被遺棄者の死傷についての認識がYにはあり、傷害罪のみ成立する。

(5) 小結
 Yには、傷害致死罪(205条)が成立する。


2、 Xの罪責について
(1) Yとの共同正犯について
 Xは、組の幹部として、Aに対する暴行を指示し、実行している。Xは、本件暴行1と2をYと共同しているが、本件暴行3はY単独でなしており、関与していない。
 
 Xは、Aに対する暴行において、途中で、離脱した(共犯関係が解消した)といえるのか問題となる。

ア、共犯の処罰根拠について
 まず、共犯が処罰される根拠は、正犯の行為を介して構成要件該当事実である法益侵害を、惹起したことにある(因果共犯論)。
 物理的因果関係と心理的因果関係の両者で、自らの関与に因果関係が認められるから、共犯として、正犯同様に罰せられるのである。

イ、
 上記、因果関係が認められるから、共犯になるのであれば、その因果関係が、心理的にも物理的にも、断絶されるといえれば、共犯から離脱したといえる。

 心理的因果性が切れたというためには、�離脱の意思の表明と、�他の共犯者の承諾が必要である。

 物理的因果性が切れたというためには、�自らが関与を打ち消すだけの行動を取る必要がある。

 すなわち、

 実行行為の途中において、共謀者の一人が他の共謀者に対し�離脱の意思を表明し、残余の共謀者がこれを�了承したと言うにとどまらず、さらに進んで、�他の共謀者が現に行っている実行行為を中止した上、以後は自己を含め共犯者の誰もが当初の共謀に基づく実行行為を継続することのない状態を作り出したような場合には、その時点で共犯関係は解消されたといえる(以下、「共犯関係解消の規範」という。)

 本件では、本件暴行1と2の後、Yにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかったのに、Xにおいて格別防止する措置を講ずることなく、成り行きにまかせて現場を立ち去ったに過ぎないのであって、Yによるその後の本件暴行3に対しても、共謀に基づくものと認められる。

 従って、Yと共謀の上、Xは、本件暴行1ないし3を実行したのであるから、Yと同様に、Xには傷害致死罪(205条)が成立する。


(2) Zへの暴行について
 Xは、本件暴行の途中、Zの顔面を力任せに殴打し、Zを失神させている。
 Xには、Zへの傷害罪(204条)が成立する。

(3) 小結
 Xには、Aに対する傷害致死罪(205条)と、Zに対する傷害罪(204条)が成立する。



3、 Zの罪責について
(1) XYとの共同正犯について
 Zは、本件暴行のきっかけとなる情報をXに提供をしており、Xの指示に従って幇助しただけではなく、積極的に本件暴行に関与しているといえる。

(2) Zが本件暴行で途中離脱したことについて
 Zは、本件暴行1の後に、Xに顔面を殴打され、失神し、本件暴行2と3には、関与していない。
 Zは、共犯関係が解消したか、上記「共犯関係の解消の規範」を用いて判断する。
 Zは、XYと共謀し、本件暴行を開始し、途中、「もう終わりにしましょう。」と進言しているが、自分が離脱の意思を示しているとは判断できないし、引き続きAに暴行を加えようとするXYの実行行為を制止したとも判断できない。失神し、本件暴行2と3に加わっていないが、共犯関係が解消していない以上、Zには、失神後の本件暴行2と3に対しても、共謀に基づくものと認められる。

(3) 小結
 Zには、Aに対する傷害致死罪(205条)が成立する。

注、Zは、失神させられており、共犯からの離脱をする行動をとることを期待できない以上は、離脱を認めるという考え方も取れる。
  その場合であっても、Zの関与具合と、生じた結果の重大性から、結果の妥当性を導くため、同時傷害の特例(刑法207条)の規定を用いて、傷害致死の共犯が成立すると考えることも可能である。

4、 結論
 XYZは、Aに対する傷害致死罪(205条)の共同正犯(60条)が成立する。



第2、 小問2
 Yの罪責について
(1) 問題の所在
 組事務所で、XZのみが暴行を加え(以下、Yが合流する前の暴行を、「本件暴行4」という。)、その後、Yが呼び出され、事情を告げられた後、Xらといっしょになって、Aに暴行を加えた(以下、Yが合流後の暴行を、「本件暴行5」という。)。
 Yは、自らがなしていない本件暴行4を含めた犯罪全体に共同正犯としての刑責を問えるかが問題である。

(2) 共謀の成立について
 Yは、呼び出された後、事情を告げられ、一緒にAに暴行を加えている。
 XZは、同じ組仲間であり、事情を告げられただけでも、事情を察知し、XZと一緒に暴行を加えており、本件暴行の共謀は、XYZ間で成立したと評価しうる。

(3) Yの承継的共同正犯について
 後行者において、先行者の行為及びその行為によって生じた結果を認識・認容するに止まらず、その行為を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し、その行為などを現に自己の犯罪遂行の手段として利用した場合には、承継的共同正犯が成立する。

 自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用しているところに、承継的共同正犯の論拠がある。

 本件では、Yは、途中から暴行5に加わった。

 一個の暴行行為がもともと一個の犯罪を構成するもので、後行者は、一個の暴行そのものに加担するのではない上に、後行者には、被害者に暴行を加えること以外の目的はないのであるから、後行者が先行者の行為等を認識・認容していても、他に特段の事情のない限り、先行者の暴行も、自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したものと認めることができず、このような場合、共謀加担後の行為についてのみ共同正犯の成立をすべきこととなる。

 従って、Yには、XZらの本件暴行4の承継的共同正犯は成立せず、本件暴行5のみの実行行為をしたこととなる。

(4)  同時傷害の特例の適用について
 本件では、Aは外傷性ショックにより死亡したが、所要の捜査によっても、Aの死亡原因につき、Yが合流する前の暴行4により生じたものか後の暴行5に生じたものか判別していないとなると、暴行4に帰責性のないYに、暴行4によるかもしれない死亡の結果の帰責性負わせることはできなくなる。

 傷害がいずれか者の暴行に生じた可能性があるとき、暴行が同一機会に行われた場合、生じた傷害について刑事責任を問え、傷害だけでなく傷害致死にも適用される(最判昭和26.9.20)。
 本来、共犯関係がないものへの特例であるが、だからといって、本条は、共犯のものを適用除外しているものとはいえず、承継的共犯の事案でも適用が可能である(大阪地判平成9.8.20)。

 本件では、暴行4と暴行5は、異なる場所で行われてはいるが、本件暴行4と5は、なされた場所が組事務所と倉庫でそれぞれ場所が異なるが、同様な室内でなされた暴行であり、両者は約10分の距離に位置し、また、本件暴行4から、一時中断し、Yが合流して、本件暴行5が開始するまで、わずか30分であったのであって、本件暴行4と5は、場所的にも時間的にも近接し、同一機会の暴行と評価しうる。

 すると、Yの暴行には、同時傷害特例が適用しうる。

(5) 傷害致死罪について

 Aは、本件暴行4と5により、数時間後、外傷性ショックで死亡した。

 Yには、同時傷害の特例(207条)を適用し、傷害致死罪(205条)が成立する。

以上




 
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