波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   オショロコマのように生きた男  第26回

2011-09-06 10:02:23 | Weblog
宏は会社での社長との話をした後、「結局、俺は良く分からないけど首というわけだ。」「私もどうしてなのか、よく分からないわ。社長何を考えているのかしら。」二人は何となく、消化しきれない割り切れない感じのまま別れた。
数日後、社長の時間をもらって面談をした。しかしそこでも新しい話はなく、ただ時間が過ぎるだけであった。
「私はこのまま辞めるわけにはいきません。出るところへ出て手続きを取るつもりです。」と言うと、社長の顔色が変わった。「野間君、それはどういう意味かね。」「解雇理由がきちんと説明もなく、ただ一方的に解雇通知だけでは法的には認められないはずです。公的な事務所へ訴えて正式な手続きをしてもらうまでですよ」
「ちょっと、待ってくれ。そこまですることもないだろう。もう少し話し合うことも出来るじゃないか。どうだろう。
仕事はしなくても良い。会社へも来なくても良い。来年までの一年間、現状の待遇で支払いを保証するから、それでどうだろうか」慌てて、妥協案を提案してきた。
宏は本来なら、今までどおり仕事をしたかったが、どうやらこれは適わない相談らしいと諦めざるを得なかった。
とすれば、会社は諦めざるを得ない、一年間は給料ももらえるなら、仕方がないかと同意することとした。
「分かりました。社長の言うとおり辞めさせてもらいます。」「後の手続きは諸星君に言っておくから、彼女から良く聞いておいてくれ」わずか一年足らずの間であった。仕事もやっと緒に就いてこれからと言うときだったので、心残りであったが
これも諦めるしかなかった。
最後の挨拶をしに社長に会ったとき、彼は池田のことを紹介した。社長はそのことについては近々あって、当人と相談するとして納得してくれたことが、救いであった。
それにしても一体、何を調べたのだろうか。誰かに何かを聞いたのだろうか。それとも社内の誰かの中傷を聞いたのだろうか。
結局はそのまま、謎となって分からないまま終わってしまったが、時間が過ぎるほどに何となくそのわけが見えるようになってきた。それは彼の立ち居振る舞い、言動にあった。野間は単独行動が多く、それも会社の方針とはどこか違う、独自のものがあった。それはある意味、社長でなくては分からないものだったかもしれない。おそらく、彼はその行動や言動を観察しながら、
何かを感じたのかもしれない。それはいつか、自分が追い詰められるようなものであったか、共同歩調を取らず、単独で何かを起こすような思いにとらわれたのかもしれない。

オショロコマのように生きた男   第25回

2011-09-03 12:31:24 | Weblog
一瞬、宏は目の前が真っ白になり、何も考えられなかった。自分がここで会社を辞めなければならない理由が、まったく思いつかない。何故だ。何故私がここで辞めなければならないのか、自分にはまったく心当たりがなかった。
二人の間にしばらく沈黙が続いた。声も出なかった。そしてしばらく時間が過ぎ、少し落ち着いたところで宏は出来るだけ静かに話し始めた。「何故、私が会社を辞めなければいけないのでしょうか。何か会社にご迷惑でも掛けるようなことをしたでしょうか。」社長はそれに対し、何も答えられず、ただ黙っていた。
そして又しばらく会話が途切れ、沈黙が続いた。宏は我慢していたが、それにも限界があった。「可笑しいじゃあないですか。
何も悪いことをしていなくて、会社を辞めなければならない理由がないじゃあないですか。理由もないのにやめるわけにはいきません。納得いきません。」ついに言葉になって出た。
しかし、それはある意味、間違っては居ないし自然なことでもあった。社長は理由については何も語ろうとはせず、ただ「悪いけど、君には会社を辞めてもらわなければならない」と言うだけだった。
そしてそのまま時間は過ぎていったが、状況は何も変わることはなかった。このままではどうしようもないと思い、宏は
「社長のお考えは分かりました。しかし私は理由の説明もないのでは納得いきません。お返事は出来ません。しばらく考えさせてもらいます。」そう言うと、部屋を出た。もう何も考えられなかった。
と言って何もする気にもなれず、会社は出たが、そのまま帰る気持ちにもなれなかった。諸星さんに電話をして、夕方会う約束を取り付けると、ぶらぶらしながら時間をつぶすしかなかった。
いつの間にか辺りが薄暗くなり、待ち合わせの時間になっていた。「お待たせ。会社を出るとき、社長から珍しく予定表のことで説明を受けて野暮用ですっかり時間をとっちゃってごめんね」いつもと変わらない明るさで救われる。
「俺と会うことを言ってないよね。」「言うわけないじゃない。」
二人は駅前から少し離れたレストランへ入り、早めの夕食を注文した。彼女にはデザートとお茶を頼み、自分はコーヒーを頼みおもむろにタバコを取り出す。
「今日社長と何の話をしてたの。部屋を出てきたときいつもと違ってずいぶん深刻な顔をしてたけど」
「突然、会社を辞めろと言われたんだ。首だよ」余裕はなかった。抑えていた感情が又噴出してきそうな思いだ。

思いつくままに

2011-09-01 12:12:45 | Weblog
こんな話がある。「ある主人がその管理を一人の支配人に任せていた。しかし、その支配人の部下が主人に対して、あの支配人は
不正をしていると告げ口をしたのである。それを聞いた主人は支配人を呼び、お前について聞いていることがあるが、会計報告を出しなさい。もうお前に管理を任せておくわけにはいかない。と言った。支配人はそれを聞いてどうしようか。
このままでは主人にこの仕事を取り上げられ、会社を辞めさせてしまうだろう。そしたらもう力仕事は出来ないし、物乞いをして歩くのも恥ずかしい。そこで主人に借金をしている人を呼び、その金額を聞き、その金額を減額しなおし、その人たちに恩を売ることにした。そうしておけば後で助けてもらえる。そう考えた。
それを聞いた主人はこの支配人をこの抜け目のないやり方をほめたのである。」
この話を聞いてどう考えたらよいのだろうか。話をそのまま解釈すれば、それは決してほめられたやり方ではないとも考えられるが、実際この世の生活をしていて、どんな時にも誰の前に出ても間違ったことをしていないと言う人もいないと思う。
いつの間にか本当はいけないことでも、無意識に、あるいは仕方なくしていることもあると言うことを教えているのだと思う。
つまりそこには、やむをえない妥協があると考えられるのだ。
その辺は適当に行っていることもあるだろうと思われる。この話も決して悪いことを勧めているのではない。ただ中途半端にではなく、首尾一貫して友を作り、愛の実践を行うこともあると言うことを教えているのではないだろうか。
そのことが正しいことであると信念を持って行うkとが大切なのだと言うことだと思う。
世の中を生きていくうえでは日々、大変なことが起きているといわねばならない。すべては奇麗事ではすまないし、理屈では割り切れないこともいっぱいあると思う。そんな時大事なことは行うことが相手のためであり、すべてに良くなることを願っているか、いないかが問題であって、目の前だけのことで判断し、それで割り切れるものではないこともあるということだ。
いよいよ9月に入った。台風も来るが、涼しい秋風が恋しい時期でもある。空を見るといつの間にか夏にはなかった巻雲が広がって見えるようになった。日本の四季が昔と少し時期がずれるときもあるが、きちんとやってくるのは本当にうれしいし、
日本に生まれてよかったと思う。年々体力の落ちる年齢になり、つくづくそう思うこの頃だ。