く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> IDP新書『職場うつからの生還』

2012年03月20日 | BOOK

【吉田勝明著、IDP出版発行】

 「自殺大国」日本。自殺者は14年連続3万人を超える。その中にはうつ病など精神疾患によるとみられるものも多い。うつ病は誰でもかかる可能性があるため「心の風邪」ともいわれる。著者は1956年福岡県生まれの精神科医で、横浜相原病院の院長を務める傍ら、産業医としてうつ病休職者の〝復職リハビリ〟に取り組んできた。その経験と症例を基に職場復帰のタイミングや対処方法をまとめたのが本書だ。事業者に従業員のメンタルチェックを義務付ける労働安全衛生法の改正案が今国会に提出されている折だけに、時宜を得たテーマとタイミングといえよう。

     

 うつ病は①メランコリー型うつ病②双極性障害(躁うつ病)③気分変調症④非定型うつ病――の4つに分類される。①②が従来型うつ病で中高年に多い。③④は青年層に多く新型うつ病といわれるが、筆者はバブル景気終焉後の平成という時代が生んだということで「平成うつ」と呼ぶ。就職氷河期、終身雇用制の崩壊、失われた20年……。経済的に恵まれた環境で育ってきた若者がこうした厳しい社会に放り出された途端、挫折感を味わって離職へ。大卒新入社員の3年以内の離職率は4割近くに達するという。こうした時代背景の中で「平成うつ」が増えているというわけだ。

 従来型うつ病の場合、仕事熱心で責任感が強い人に多く、慢性疲労や睡眠不足、ストレスなどから抑うつ状態となり、うつ病に進む。早期発見のポイントとして不眠や食欲不振、味覚障害の有無などを挙げる。休職後の円滑な職場復帰には周りの理解とリラックスできる環境づくりが欠かせないとして、患者・職場・家族の「復帰へのトライアングル」が重要と説く。

 一方「平成うつ」は自身への愛着が強く規範や秩序への否定的な感情を持つ若者がなりやすいという。倦怠感を訴え、すぐに「だるい」と言うほか、過眠・過食も目立つ。旧型は休養と服薬で良くなることが多いが、新型は休養が常に良いとは限らない。慢性化して再発することも珍しくない。周囲の人は「病気であることを認めつつも過保護にならないことが大切」という。

 文部科学省は昨年12月、うつ病などの精神疾患で2010年度中に休職した公立学校の教職員が全国で約5400人に上ると発表した。著者は「若者のうつ病の原因の多くは教育にあると感じている。そのいい例が、教職員のうつ病による休職者の多さ。そういう先生に教えられている子供は、心が弱くならざるを得ない」と指摘する。

 病気などで寝たきりになっていると丈夫だった足の筋肉まで弱ってくることがある。こうしたケースを医学用語で「廃用症候群」というそうだ。うつ病も必要以上に長く休むと社会復帰が難しくなるとして、著者はこれを「心の廃用症候群」と呼ぶ。「医原病」。これは文字通り医者が原因となって起こる病気で、抗生物質を長く使っていると薬が効かない感染症が発生するといった場合を指す。うつ病でも「(患者の求めに応じて)ダラダラ休職期間を引き延ばしている医者が、医原病としてのうつ病を作り出している」と猛省を促す。「うつの治療には時間がかかるが、腫れ物にさわる対処ではなく、組織としての取り組みが肝要」。著者は最後にこう結んでいる。

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