学生の頃。男子学生から面白い奴がいると紹介されたのが野坂昭如だった。
といっても本人を紹介されたわけではない。
「こんな奴がいる」という話を聞いたのだ。
「四畳半襖の下張」について、を『面白半分』という雑誌に書いていると。それがわたしの周りの寮生に広まってなんだかあれこれと論議があったような、なかったような、そこは定かではない。
定かではないというくらいだから、そんなに重要なものとして頭に残っていないのだろう。
あの頃は多種多様なことであぁでもないこうでもないと話していたものだ。
学生時代は、刺激のあるものに飛びつくことが多かった気がする。わたしが通っていた頃は、全国的に学生運動も下火になっていて、その中でまだ学内で紛争が時折起きていると先輩たちが話すのを小耳にはさむ、そんなものだった。
そして学生運動のなんたるかすら、あまり深く考えずに過ごしていた。わたしの興味は松任谷由実の『ひこうき雲』だったり、井上陽水やかぐや姫だったりした。
それでも寮で語る先輩の様子や男子寮との交流で徹夜で語る姿を見てきて、それまでの自分(高校生)とのあまりにも違いすぎるものに愕然とした驚きと、憧れめいたものがあった。
先輩たちの語る中には時の人として野坂昭如氏の名前もあった。わたしにとってはなんとなく抵抗のあるものとしてその存在があったようにも思える。頭の固い女であった。
そして彼の名前が頭にインプットされて久しい。
政治家として登場したあたりにはわたしの関心はすでに彼から遠のいていたのかもしれない。
『火垂るの墓』が彼の作品だということもずっと後になって知った。そしてそれが彼の体験から来ていることも。
そして何より驚いたのは、あの童謡『おもちゃのチャチャチャ』が彼の作詞によるものだということ。
今までちっとも知らずに歌ってきたのだ。
ごく最近、孫がこの歌を口ずさんでいる映像を見た。あの歌と彼、どうも二つが結び付かない。わたしの中では学生時代に見たイメージの彼しか頭の中にないからだろう。
でもよくよく考えてみれば、歌詞の世界観は飛びぬけて楽しい。夜中におもちゃが遊んでいる、そこには自分たちの世界があって人間たちが眠っている真夜中にわいわいがやがやと騒いでいるおもちゃの自由気ままな世界が広がる。
眠っているときにおもちゃが動くという発想、彼ならではの奇想天外さが作りだしたのかもしれないとふと思った。
その歌を今は二歳になる孫も知ってる。幅広い年代に知れ渡った歌の作者だということに改めて気付かされた。
彼の生きざまを読んでみると、その破天荒さが伺われる。そして実に交友が多岐に渡っている。無類の酒好きらしいが、酒による逸話も多々あるのだろう。
85歳。
中身の濃い人生だったと感じる。
ご冥福を祈ります。
といっても本人を紹介されたわけではない。
「こんな奴がいる」という話を聞いたのだ。
「四畳半襖の下張」について、を『面白半分』という雑誌に書いていると。それがわたしの周りの寮生に広まってなんだかあれこれと論議があったような、なかったような、そこは定かではない。
定かではないというくらいだから、そんなに重要なものとして頭に残っていないのだろう。
あの頃は多種多様なことであぁでもないこうでもないと話していたものだ。
学生時代は、刺激のあるものに飛びつくことが多かった気がする。わたしが通っていた頃は、全国的に学生運動も下火になっていて、その中でまだ学内で紛争が時折起きていると先輩たちが話すのを小耳にはさむ、そんなものだった。
そして学生運動のなんたるかすら、あまり深く考えずに過ごしていた。わたしの興味は松任谷由実の『ひこうき雲』だったり、井上陽水やかぐや姫だったりした。
それでも寮で語る先輩の様子や男子寮との交流で徹夜で語る姿を見てきて、それまでの自分(高校生)とのあまりにも違いすぎるものに愕然とした驚きと、憧れめいたものがあった。
先輩たちの語る中には時の人として野坂昭如氏の名前もあった。わたしにとってはなんとなく抵抗のあるものとしてその存在があったようにも思える。頭の固い女であった。
そして彼の名前が頭にインプットされて久しい。
政治家として登場したあたりにはわたしの関心はすでに彼から遠のいていたのかもしれない。
『火垂るの墓』が彼の作品だということもずっと後になって知った。そしてそれが彼の体験から来ていることも。
そして何より驚いたのは、あの童謡『おもちゃのチャチャチャ』が彼の作詞によるものだということ。
今までちっとも知らずに歌ってきたのだ。
ごく最近、孫がこの歌を口ずさんでいる映像を見た。あの歌と彼、どうも二つが結び付かない。わたしの中では学生時代に見たイメージの彼しか頭の中にないからだろう。
でもよくよく考えてみれば、歌詞の世界観は飛びぬけて楽しい。夜中におもちゃが遊んでいる、そこには自分たちの世界があって人間たちが眠っている真夜中にわいわいがやがやと騒いでいるおもちゃの自由気ままな世界が広がる。
眠っているときにおもちゃが動くという発想、彼ならではの奇想天外さが作りだしたのかもしれないとふと思った。
その歌を今は二歳になる孫も知ってる。幅広い年代に知れ渡った歌の作者だということに改めて気付かされた。
彼の生きざまを読んでみると、その破天荒さが伺われる。そして実に交友が多岐に渡っている。無類の酒好きらしいが、酒による逸話も多々あるのだろう。
85歳。
中身の濃い人生だったと感じる。
ご冥福を祈ります。