経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・危機は未だ去らず

2014年11月30日 | 経済(主なもの)
 景気ウォッチャー調査が大きく下がっていたので心配していたら、案の定、10月の鉱工業生産指数は、消費財の生産が前月比-1.4と、再び落ちていた。これは、若干だが、7-9月期の平均をも下回る。8月に崩れたような切迫感はないものの、4月の消費増税のインパクトは、未だ収束していない。こうして景況が後退する中で、アベノミクスは審判の時を迎えることになる。

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 今回の鉱工業生産は、全体では2か月連続の前月比増であったから、一般的な評価では、「持ち直し」というところだろう。ここで注意が必要なのは、消費財と投資財で動きが分かれていることだ。図で分かるように、消費財が低下する中で、投資財が大きく伸びており、これが相殺する形でプラスになっているのである。

 日経が指摘しているとおり、業種もまちまちであり、増産6と減産9と、むしろ減産が多い。こうした場合は、実際に7月から8月にあったように、特定業種の動き次第で、投資財が大きく下振れする可能性を頭に入れておく必要がある。むろん、そうなれば、鉱工業生産が再び底を割ることも、ないとは言えない。

 消費財の動きは弱く、在庫を前月比-3.0にはしたが、出荷が-1.1と下げる中、それを上回る減産で達成しており、在庫水準は109.9と高いままである。1997年の増税の際は、10月に在庫増が一服を見せたものの、11月以降も出荷が崩れて行き、更なる減産へと追い込まれた。出荷が今の底バイを脱するまでは、まだまだ安心できないのである。

(図)鉱工業生産指数


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 一方、消費だが、家計調査の結果は、かなり読み難いものだった。二人以上世帯の季節調整済指数は、前月比+0.9と高めの伸びで、こちらも2か月連続の上昇だから、底を打ったようにも見えるが、勤労者世帯の実質実収入が跳ねたことに影響されたものである。家計調査では、こういう振れは、ままあることで、単月の動きで判断するのは早計だ。来月は反動が出るのではないか。

 商業動態統計は、季調値を見ると、先月に指摘したとおり、小売業に反動減が出た。10月は卸売業も下げたこともあり、まだ両者の乖離は大きい。業態ごとの季調値で分かるように、底バイないし極めて緩やかな増加と見るべきであろう。東大売上高指数では、11月は低調に推移しており、傾向に変化はないと思われる。

 雇用については、10月は指標により、まちまちであった。労働力調査は、失業率は低下したが、就業者数の季調値は減少し、一進一退の状況である。職業紹介状況では、有効求人倍率が改善したものの、新規求人数の前月比は低下するという内容だった。雇用は勢いを失い、停滞している状況にあると言えよう。

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 さて、今週の日経ビジネスは、「景気失速の主犯」という目を引くタイトルだった。内容も、実は、物価は下げ、採用が鈍っていると、最新の景気状況を鋭く指摘している。また、外需に幻想を持ってはならないとする点も納得できるところだ。本コラムの読者には、違和感なく受け入れられる内容だと思う。

 ところが、「どうすれば」という打開策については、いつもの成長戦略なんだね。国に頼らず、「民」がかんばらねばという心意気は買うにしても、一気の消費増税でGDPの1.5%もの所得を家計から抜かれたら、個々の努力では、どうにもなるまい。マクロの戦略の誤りを、ミクロの戦術で打開できると考えてはいけない。

 大きな困難に直面すると、一気の打開策が必要と信じがちだが、こうした焦りは、いらぬ危険を犯させ、かえって事態を悪化させるものだ。「薬は苦ければ効く」というものではない。基本に忠実に、所得増の範囲内で着実に負担を増やす経済運営ができていれば、何事もなく成長は確保されていただろう。 

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 選挙が始まり、安倍首相は「この道しかない」と絶叫しているが、市井の人々にとっては、それがどのような中身なのか、よくは分からないだろう。分かるのは、自分にとっての景気が今までより良くなったかどうかだけである。選挙とは、政策選択というより、実績評価が実態であるように思う。 

 そうした中、景気ウォッチャー調査が大きく下げているのは、一つの不安要素であろう。思えば、2007年の参院選の敗北で、第一次安倍政権が崩壊したときも、そうであったからだ。政治評論家の弁によれば、今回の選挙で与党が負ける要素はないという話だが、最新の結果が出る12/8が待たれるところである。


(昨日の日経)
 原油安が景気に追い風。コンビにも訪日客に照準。1300万人が消費下支え。10月鉱工業生産0.2%上昇、生産持ち直し二極化。反動に地域差・地域経済動向。ロシア通貨・株急落。

(今日の日経)
 防衛装備を国際共同開発。地方移転の企業に税優遇。台湾与党国民党が大敗。読書・平成期の家族問題、競争の科学、スイスの凄い競争力。

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1 コメント

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Unknown (asd)
2014-11-30 13:20:14
実際漢方は激烈苦い処方でも体質や症状が合ってる場合、苦みを嫌なものと感じません。むしろ美味しいとすら感じるものであり、まずく感じる場合は処方が間違ってます。

更に言えば、良薬とはあくまで体質や症状に応じたものであり、酸っぱいものや辛いものや、水飴が大量に入った甘~いものだってあります。良薬は口に苦しなんて本当いい加減な言葉です。

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