経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・リフレより財政再建のアベノミクス

2019年08月18日 | 経済(主なもの)
 財政タカ派は、公債等残高のGDP比190%超をあげつらうだけだし、反緊縮派は、MMTなら赤字は問題ないと極論に走る。少しは「程度の問題」を考えたらどうかと思うね。例年より遅れて7/31に公表された「中長期の経済財政に関する試算」は、財政再建目標の達成年度ばかりが注目されるけれど、今年から数表がエクセルで提供されるようにもなり、もっと分析に活かすべきじゃないのかな。政治論はともかく、政策論には欠かせないことだよ。

………
 まず、過去の実績を確かめよう。国の税収は、2014年度以降の5年間で13.4兆円増えた。そのうち、消費増税によるものを5.6兆円とすると、成長による増収が7.8兆円、年当たり1.6兆円もあったことになる。他方、基礎的経費は5年間で-2.5兆円の減少である。社会保障が年に+0.7兆円なのだが、地方交付税が-0.3兆円、公共事業などの「その他」が-0.8兆円で、差し引き年-0.5兆円の削減だった。すなわち、5年間の緊縮は、合わせて15.9兆円に上る。

 2018年度の家計消費(除く帰属家賃)は、6年前の2012年度と比べ、実質で2.1兆円しか増えていないことを踏まえれば、どれたけ緊縮が大きかったかが分かる。これでは、「リフレ」をいくらしようと、物価が上がらないのは、当然ではないか。アベノミクスのほとんどは、ただの緊縮財政である。脱デフレは、やってる感だけだが、急速な財政再建は、自賛しないだけで、ホンモノである。

 次に、将来を眺めると、国の税収は、2019年度以降の5年間で、10.4兆円増える。そのうち、消費増税によるものを3.0兆円とすると、成長による増収が7.4兆円、年当たり1.5兆円あることになる。他方、基礎的経費は5年間で6.5兆円増加する。社会保障が年に+1.1兆円、地方交付税が+0.3兆円、「その他」は-0.2兆円で、合算して年に1.3兆円増加する見込みだ。結局、5年間の緊縮は、差し引き3.9兆円になる。

 加えて、過去5年ではさして緊縮になっていなかった地方は、この先5年だと、歳出が6.1兆円の増に対し、税収等が8.7兆円の増なので、2.6兆円の緊縮となる。国と地方を合計すると6.5兆円、年当たり1.3兆円だ。それでは、これだけの緊縮を、今後も続けるべきなのか。基礎的収支の赤字は、既にGDP比-2.4%まで縮んでいる。緊縮ペースを半分に緩め、毎年、0.7兆円規模の少子化や非正規の対策を新設することは十分に可能だし、将来の「社会的負債」を減らすことにもなる。

………
 さて、緊縮をしているのは、国と地方の財政だけではない。社会保険、とりわけ年金で著しい。8/9に公表された2018年度の厚生年金の決算に基づくと、保険料収入は前年度比+3.2%になる一方、保険給付費等は+2.4%にとどまったことで、フローの収支は0.2兆円の改善となった。また、年金積立金の簿価が0.6兆円の増となっているため、合わせると0.8兆円程度の緊縮と言うこともできよう。

 振り返れば、厚生年金のフローの収支は、2013年度に4.2兆円の赤字だったものが、2018年度には0.2兆円の赤字にまで改善している。5年で4兆円、年当たり0.8兆円もの緊縮だったわけだ。毎年の保険料の引き上げと給付の抑制は、年金制度の持続に必要なものとされ、年金での緊縮は、問題視されるどころか、知られることすらない。それでも、アベノミクスの消費停滞と物価低迷の原因の一つであったことは間違いない。

(図)


………
 参院選では、「消費税廃止」という主張が注目を集めたが、緊縮ばかりが進み、生活が良くならないことへの不満の表れだろう。野党ですら、「廃止は現実的でない」との声が聞こえるけれども、それなら、緊縮はどこまで緩められるのか、出して見せるのが政策論ではないか。与党とて、こんなに緊縮をして来たという認識はあるまい。そして、これが国民生活の上で、どれほどの苦痛だったかを知るべきだろう。

 財政再建を捨て去るならともかく、緊縮を少しでも緩めたら、金利が急上昇して破綻するなど、あり得ない話である。これまでの低成長ぶりを踏まえれば、かえって経済への信認は改善する可能性が高い。緊縮の大きさは、社会保障の自然増に従って反射的に決まるだけで、成長とのバランスは考慮されない。「痛い改革」がはやる世の中だが、実績と見通しを踏まえて、少し調整を施すだけで、随分、この国は良くなる。なぜ、このくらいの造作もないことが視野に入らないのか。苦しいほど激しさを望むという心理なのだろう。


(今日までの日経)
 人民元、やまぬ売り圧力 需給反映なら10元割れも。膨らむ100年債バブル。


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