経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

中長期の経済財政試算の正しい読み方

2015年02月14日 | 経済(主なもの)
 普通、「中期」と言えば5年を指し、「長期」なら10年を意味する。ところが、2/12に公表された『中長期の経済財政に関する試算』は、8年後の2023年度で途切れている。形式主義のお役所が半端なことをするには、何かウラがあると疑わなくてはならない。実は、試算を2025年度まで2年分延長すると、基礎的財政収支の赤字をゼロにする目標を、自然体で達成できることがあからさまになってしまうのだ。どうも、このことを隠したかったようである。

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 政府試算を、トレンドに従い、2年分延長すると、下図の黄線のようになる。人間とは不思議なもので、こう描くと、2020年度にゼロを達成できないことより、2025年度に目標に到達していることの方へ、目が向いてしまう。ここから得られる認識は、「13%への消費増税が必要だ」であったものが、「自然体でも構わないんだ」へ180度変わることになる。

 いずれ、税収の上ブレで、こうなることは、昨夏に本コラムで指摘していたところだ。財政当局も、補正予算で税収を上方修正した以上、それを反映した形に試算をシフトさせないわけには行かない。あとは、半端と言われようとも、試算範囲を8年分にとどめ、国民の目をごまかすしかなくなる。こんな姑息な印象操作が罷り通るとは、随分、甘く見られたものだ。

(図)


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 もう少し詳しく図を眺めてみよう。赤線の前回2014年夏の試算と比較すると、消費再増税を見送ったために、2016~18年度は前回試算を超えていないが、再増税の効果が発現する2019年度以降は、税収上ブレの影響が明らかとなって、前回試算を上回るようになる。そして、2020年度以降は、自然体で、基礎収支が毎年GDP比で0.3ずつ改善するから、2025年度には赤字はわずか-0.1となり、ほぼゼロに到達する。

 今回の試算で明確になったのは、足元で税収の上ブレがあると、試算は上方へシフトする性質を持つことである。そうすると、ベースになっている2014年度の税収見込みが更に大きくなれば、もっと上方へシフトすると予想がつく。補正後の税収51.7兆円は堅めの数字であり、おそらく、1兆円ほど膨らむことになろう。地方の税収も同様とすれば、今夏の決算発表時までに、GDP比で+0.3上方へのシフトが判明すると考えられる。

 つまり、ゼロ到達が2024年度へ1年前倒しされるということだ。そして、2015年度も、景気が順調に回復していけば、やはり、税収は上ブレして、もう1年、前倒しになるかもしれない。名目成長率を上回る税収の伸びがあれば、そんな調子となる。さすがに、2020年度までの前倒しは難しいが、その数年後には到達する可能性は高い。どうしても2020年度と言うなら、管民主党政権が実施した法人減税を元に戻すなら、出来なくもないが。

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 経済財政諮問会議は、2020年度の目標達成に向け、夏までに、消費再増税に加重する緊縮財政を画策するようである。しかし、政府試算を「正しく」読み取るなら、数年の差で目標を達成できる見通しが立つのであるから、焦りは禁物である。甘利経済相も言うように、緊縮で成長を壊してしまえば、元も子もないからだ。

 実際、今回の試算は、前回の試算より、各年の名目GDPが小さくなり、税収も下がっている。これは、3%消費増税のショックで、思うように成長率が伸びなかったせいである。財政再建には、名目GDPの伸長が絶対に欠かせないことは言うまでもない。それには、いかに経済にショックを与えず、財政再建を果たしていくかが重要となる。

 この観点からすると、2017年度に予定する2%消費増税にも慎重であるべきだ。成長のためには、1%ずつに刻み、2年の間隔をおき、2019年度と分ける方が合理的である。それでも、2020年度には間に合う。こうするなら、社会保障費が毎年1兆円ずつ増加することを踏まえれば、緩やかな緊縮で済むはずである。

 その上で、2019年度に続き、2021年度、2023年度と、順次、1%ずつ引き上げて行けば良い。団塊の世代が医療費の嵩む75歳以上の後期高齢者になるのは2023年前後である。この頃のピークを迎えるには、財源が必要である。世間には、財政当局の受け売りをして、2020年度のゼロ目標を金科玉条とする人や、逆に、消費増税には絶対反対という人もいるが、いずれも現実的でないと考える。

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 経済運営の要諦は、需要の過不足を的確にコントロールすることだ。それが成長を最大限に実現することにつながる。財政均衡は二次的な目標に過ぎず、「王より飛車を大事にする」ようではいけない。何ら経済的な根拠なしに決められた期限を絶対視するのは危く、成長を阻害するような公約は却って信用を損なう。諮問会議の本来の役割は、財政再建でなく、成長の実現であり、役所が持ち込む計画に無理がないかを見抜くことであろう。


(2/12の日経)
 トヨタが新興国車を刷新。経済教室・貧困解決へ広く負担・阿部彩。会津大がスパグロに。
※阿部先生の主張は傾聴に値するね。

(昨日の日経)
 日経平均7年7か月ぶり高値。がん検査100円。財政再建に年2.5兆円必要、基礎的収支20年度黒字化へ提言。2015年度予算提出。機械受注1-3月は1.5%増の見通し。スマホ液晶はや消耗戦。大機・責任ない監査・鵠洋。経済教室・根拠に基づく戦略・乾友彦・中室牧子。

(今日の日経)
 車の安全基準を日欧で統一。社説・財政健全化は堅めの想定で。
※「試算」に地方財政の表が追加されたことからすれば、争点は社会保障でないことは分かりそうなものだが。堅めの想定で緊縮を強めれば、低成長を自己実現してしまうよ。

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