経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

理路整然と間違う

2013年04月28日 | 経済
 歴史に名を残す日本の経済学者は、高度経済成長の預言者となった下村治博士くらいのものだろう。その下村博士も、オイルショック後の日本経済について、エネルギー制約からゼロ成長になるという読み間違えをしている。しかし、間違えた理由が何だったのか、検証できる理路整然さは評価されている。そこから「経済とはどういうものか」という認識が深まるからだ。

 先日、書評家の小飼弾さんが「日本の景気は賃金が決める 」(吉本佳生著)を高く評価していたが、デフレの原因が賃金であることは、ある意味、当たり前である。景気というのは、設備投資を起点に、それが工場や店舗を増やし、需要と雇用が伸び、所得増によって消費が拡大し、需給が引き締まって物価が上がるという経過をたどる。こうした見方は、エコノミストには、ごく普通のものだ。

 したがって、デフレの原因を考えるときは、超低金利と低賃金という投資収益を得る上で格好の条件が揃っているのに、なぜ設備投資が出てこないかが基本的な問いとなる。これに対する答えとして、「超低金利とはいっても、金融緩和がまだ足りないから」とするのがリフレ派の基本的考え方である。また、「規制が邪魔して設備投資が出てこない」というのが、いわゆる新自由主義的な見方で、法人減税や雇用改革を主張しがちだ。

 そして、ここから、論争になるわけだが、前者について、金融政策は設備投資の推進には効きにくいというのは、実は古くからある認識である。「ヒモでは押せない」と称されてきた。後者も、構造問題が成長に影響するのは確かにしても、日本では規制のきつかった昔の方が成長していたわけで、どの程度の影響があり、景気循環への対応策として意味があるのかという問題がある。

………
 そもそも、設備投資は何によってなされるのか。実態をつかむのは簡単である。そこらにいる経営者に聞いてみると良い。返ってくる大方の答えは「需要(売上げ)を見ながら」だ。「金利を見ながら」というのは、不動産業を別にすれば、ほとんどない。そうすると、素直に考えれば、設備投資を増やすには、需要を拡大すれば良いとなるのだが、これには、いくつかの困った問題がある。

 一番の問題は、ニワトリとタマゴの関係になることである。景気が良いとは、需要が拡大している状態だから、「需要を拡大するには、設備投資を増やせば良い」、「設備投資を増やすには、需要を拡大すれば良い」と唱えるはめになる。これでは、どちらが先なのかという話になるわけで、答えを出したように見えて、答えになっていない。

 そして、もう一つ、需要を見ながら設備投資はなされるという考え方は、金利によって投資と貯蓄が調整されるとする経済学の基本に反することになる。需要不足では投資しない、投資しないと需要が生まれないとなると、いつまで経っても景気が回復しないことになる。つまり、資本や労働力がムダのまま放置され続けることになり、これでは、経済的に不合理な行動を是認することになるのだ。

………
 そこで、日本経済の過去を振り返ると、金融緩和から、住宅投資と輸出拡大が始まり、その需要に促されて設備投資が拡大し、雇用と消費に波及するということを繰り返してきた。ニワトリとタマゴで言えば、まず需要なのである。政策的に生み出すことができる追加的な需要が設備投資を促し、それ自体が引き出す需要が更なる設備投資を呼んで成長は加速する、そんな感じである。

 経済学における合理性の問題については、人生という時間制約があって、合理的にリスクが取れないと考えれば疑問は氷解する。短い人生では、投資での大きな失敗を後で取り返すことはできないから、小さな機会利益を捨てることになっても投資をしないという判断は、十分な理由がある。これが「どうすれば経済学」のコアの考え方である。裏返せば、教科書的な経済学は、無自覚に人生は無限という前提を置いているのだ。

………
 こうしたモデルから経済を眺めると、経済運営における需要管理は極めて重要ということになる。住宅や輸出という需要が設備投資に影響を及ぼすなら、財政による需要だって重要になる。実際、2000年代になるまでは相関性が見られた。日本経済が住宅と財政の推進力を失い、輸出一本に頼るようになったのは、それ以降の比較的新しいステージであり、イコール「失われた」とされる時期に当たる。

 したがって、筆者は、この1-3月期について、日本では復興増税があり、米国では財政の崖もあって、悪影響を心配していたが、結果は消費好調という予想外のものだった。設備投資→所得→消費という経過を踏まずに、いきなり消費が出てきた。その理由については、日を改めて説明するつもりだが、理路整然と間違っているかもしれないと疑うことは必要だ。そうして、モデルを改善するということである。

 まあ、FTのウルフさんの論考によれば、英国については、緊縮財政がしっかりと低迷を呼んでいるようだし、EUの不調も思ったとおりである。米国も3月の経済指標は今一つだったので、タイムラグがあったという解釈になるかもしれない。「国家は破綻する」の見解に疑義が出される一方で、超低金利下の緊縮財政の有害さについての実例は着々と積まれているようだ。

……… 
 アベノミクスについては、異次元の金融緩和によって、「一応」、住宅は上向き、輸出は底入れしている。公共投資も順調だ。したがって、政策的に動かせる需要の3本柱が揃い、これから設備投資が出て来るのを待つ段階にある。ただし、これらがすべてアベノミクスの成果だと思わない方が良い。住宅には消費増税前の駆け込みが多分に含まれているし、輸出は米国経済の回復やASEANの好調さがあればこそだ。

 つまり、金融緩和さえしていれば、住宅や輸出が得られると思ってはいけないということだ。まして、金融緩和をしているから、4月からの年金支給開始年齢の引上げと10月の年金給付のカットという社会保障基金からのデフレ圧力も平気だとか、今年度は補正予算を組まずに財政を減衰させても大丈夫たとか、思わないほうが良い。油断なく身構え、マイナス要素は消す努力が必要だ。策は複数が必要。そして、慢心する者に幸運は訪れない。

※今週は、池田雄之輔さんが4/25のロイターに書いた「投機の円安から実需の円安へ」がおもしろかった。100円を超した辺りで投機が戻るという説もあるだけにね。米国経済の減速で円高に戻るのが最大のリスクだから、池田さんの言うとおりだと良いが。それと、今週は生保の外債投資のニュースが日経で相次いだ。これも諸説あって注目点だ。

(今日の日経)
 ロシアで先端がん治療。インドネシア銀に出資・三井住友。成長戦略の集約に課題。社説・真剣さ見えない温暖化対策。「先人の知恵」中国の本音・高橋哲史。年金改革は終わっていない・大林尚。中国企業、昨年2.6%減益。地産地消目指す製造業。働かないアリにも働き・仕事量は働く集団が高いが、働かない個体がいる集団の方が長く存続・西村絵。読書・合理的選択(ギルボア)。

※最近、年金の論考を書かなくなってしまった。年金はデフレを脱するだけでほぼ解決だからね。大林さんも分かって書いている感じだ。2%成長なら医療介護も含めて高齢化の負担は何でもない。※利益が1/4に減益なら、株価も1/4でないと。これがバブルというもの。※アリの話は秀逸。そういえば鳥の話を書いたこともあったね。

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3 コメント

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Unknown (KitaAlps)
2013-04-28 21:28:03
 ああ、すばらしい。(僭越ですが)

 いろんなご意見の方もいると思いますが、(少なくとも私にとっては)タイトルが示すバランス感覚の下で抑制が効いた議論で・・・、個々の部分のどこについて異を唱える箇所がないです。
Unknown (p)
2013-04-29 02:58:48
なんで誰も財政出動の話をしないんでしょうね?
公共事業がイヤだから?www財政規律が悪化するから?www市場に悪影響があるから?www
ま、3つはどれも真実とは異なるわけですが、それについては、積極財政の必要性とその実効性について述べている方に詳しく聞かれたほうがいいと思いますよ。
111 (11)
2013-04-30 09:28:20
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