今回の欧州危機から得られる教訓は、中央銀行を保持することの決定的な重要性である。加えて、マネーを外国に頼らないことであろう。日本の場合、日銀を持っているわけだし、経常収支は黒字であって、世界最大の債権国でもあるのだから、ギリシャやスペインのようなことが起こるかと言えば、それはない。
日本では、何かというと、「債務残高のGDP比が先進国で最悪」ということが念仏のように唱えられるが、それでは、ドイツより債務残高が低いスペインが、なぜ危機にあるのかの説明がつかない。やはり、リスクを計る指標の一つに過ぎないということである。むしろ、着目すべきは、中銀の役割である。ECBが大規模な資金供給を実施した際に、国債金利が大きく低下したことを見ても明らかだろう。
日本には日銀があるのだから、余程バカな運営さえしなければ、急性の危機に襲われることはない。ただし、それは、放漫財政をしても大丈夫ということではなく、危地に陥るとしても、真綿で首を締められるような慢性型のものになるということである。このことは大切で、時間的な余裕があるのだから、一気の消費増税のような危険が伴う「賭け」をする必要はないということである。
日本には、急性の危機は考えにくいという見方は、筆者独自の見解ではない。前に本コラムでも紹介した、森田長太郎さんなどが書いた「日本のソブリンリス」でも説明されていることだ。この本は、一応、「債権運用担当者必携の書」ということになっているし、読みやすいので、学生にもお勧めである。
なぜ急性の危機にならないかというと、ごく大雑把に言えば、熊谷さんが言うところの「狼」たちによって、日本国債の売りを仕掛けられたとしても、日銀が買い取れば、それで済むからである。投機的な動きで金利が急上昇すれば、日銀が対抗することは当然に考えられるわけで、「狼」の勝てる可能性は、ほとんどゼロである。ゆえにアタック自体が起こらないだろう。この他にも、考えにくい理由は幾つもある。
問題は、日銀が対抗できない状況もないとは言えないことだ。もし、今の状況とは反対に、経済がインフレ気味にあると、日銀の買い取りは、更なる金融緩和を意味するので、対抗を躊躇することになる。買い取りを断行して、ファイナンスの危機を回避したとしても、インフレが加速し、その意味で、財政破綻が現実化することになってしまう。
こうしてみれば、財政運営で肝要なのは、インフレにしないことである。デフレを脱した後、物価上昇率が高くなり過ぎる前に、消費冷却には抜群の効果がある消費税を、少しずつ引き上げることである。裏返せば、デフレを脱しているかどうかも分からない時期に、それも復興需要が剥落し、厚生年金の引き下げが続行するタイミングで、一気に消費税を上げる必要などまったくないのである。
むしろ、こうした時宜を考えないギャンブルのような経済運営は、「狼」たちの格好の獲物になるだろう。景気の墜落が目に見えているのだから、日本株に売りを仕掛けない方がおかしい。財政再建にエールを送るどころか、「どうせ死にたいんだから、身ぐるみ剥いでやれ」となるだろう。日本株を売り込んでくることは、ハシモトデフレの1997年度予算を決めた際、実際に起こったことであり、日本の財政危機のような机の上の話ではない。
いかがだろうか。日本は、日銀を持っているし、経常収支が赤字化してマネーを外国に頼るようになるまでには、時間の余裕がある。熊谷さんだって、経常収支の赤字のリスクがあるのは、2015~20年としているではないか。それを踏まえれば、過激な緊縮財政で敢えてリスクを犯さなければならない理由はないように思う。
………
(つづく)
※まだ「づづく」のかい。少し休ませてほしいよ。
(今日の日経)
欧州不安に企業が自衛策。原発40年廃炉で合意。東日本-九州にガス管網。スペインの利回り最高水準。縫製業がミャンマーへ続々。自家発が余れば売電。長期金利の低下余地探る。輸送用燃料安、鉄スクラップ安。経済教室・技術流出・梅林啓。
日本では、何かというと、「債務残高のGDP比が先進国で最悪」ということが念仏のように唱えられるが、それでは、ドイツより債務残高が低いスペインが、なぜ危機にあるのかの説明がつかない。やはり、リスクを計る指標の一つに過ぎないということである。むしろ、着目すべきは、中銀の役割である。ECBが大規模な資金供給を実施した際に、国債金利が大きく低下したことを見ても明らかだろう。
日本には日銀があるのだから、余程バカな運営さえしなければ、急性の危機に襲われることはない。ただし、それは、放漫財政をしても大丈夫ということではなく、危地に陥るとしても、真綿で首を締められるような慢性型のものになるということである。このことは大切で、時間的な余裕があるのだから、一気の消費増税のような危険が伴う「賭け」をする必要はないということである。
日本には、急性の危機は考えにくいという見方は、筆者独自の見解ではない。前に本コラムでも紹介した、森田長太郎さんなどが書いた「日本のソブリンリス」でも説明されていることだ。この本は、一応、「債権運用担当者必携の書」ということになっているし、読みやすいので、学生にもお勧めである。
なぜ急性の危機にならないかというと、ごく大雑把に言えば、熊谷さんが言うところの「狼」たちによって、日本国債の売りを仕掛けられたとしても、日銀が買い取れば、それで済むからである。投機的な動きで金利が急上昇すれば、日銀が対抗することは当然に考えられるわけで、「狼」の勝てる可能性は、ほとんどゼロである。ゆえにアタック自体が起こらないだろう。この他にも、考えにくい理由は幾つもある。
問題は、日銀が対抗できない状況もないとは言えないことだ。もし、今の状況とは反対に、経済がインフレ気味にあると、日銀の買い取りは、更なる金融緩和を意味するので、対抗を躊躇することになる。買い取りを断行して、ファイナンスの危機を回避したとしても、インフレが加速し、その意味で、財政破綻が現実化することになってしまう。
こうしてみれば、財政運営で肝要なのは、インフレにしないことである。デフレを脱した後、物価上昇率が高くなり過ぎる前に、消費冷却には抜群の効果がある消費税を、少しずつ引き上げることである。裏返せば、デフレを脱しているかどうかも分からない時期に、それも復興需要が剥落し、厚生年金の引き下げが続行するタイミングで、一気に消費税を上げる必要などまったくないのである。
むしろ、こうした時宜を考えないギャンブルのような経済運営は、「狼」たちの格好の獲物になるだろう。景気の墜落が目に見えているのだから、日本株に売りを仕掛けない方がおかしい。財政再建にエールを送るどころか、「どうせ死にたいんだから、身ぐるみ剥いでやれ」となるだろう。日本株を売り込んでくることは、ハシモトデフレの1997年度予算を決めた際、実際に起こったことであり、日本の財政危機のような机の上の話ではない。
いかがだろうか。日本は、日銀を持っているし、経常収支が赤字化してマネーを外国に頼るようになるまでには、時間の余裕がある。熊谷さんだって、経常収支の赤字のリスクがあるのは、2015~20年としているではないか。それを踏まえれば、過激な緊縮財政で敢えてリスクを犯さなければならない理由はないように思う。
………
(つづく)
※まだ「づづく」のかい。少し休ませてほしいよ。
(今日の日経)
欧州不安に企業が自衛策。原発40年廃炉で合意。東日本-九州にガス管網。スペインの利回り最高水準。縫製業がミャンマーへ続々。自家発が余れば売電。長期金利の低下余地探る。輸送用燃料安、鉄スクラップ安。経済教室・技術流出・梅林啓。
税収弾性値という財政学の概念もありますし、そこは非常に理解し難いです
また、ゼロインフレでは貨幣選好を強めるだけでないでしょうか?その効果が小さいとしても、それは景気の足を引っ張りますし。
財政については緊縮すると需要を減らしますが、ゼロだと民間の努力如何になる、ただそれだけで緊縮をなくしたら景気が改善したとはいえないと思います。
日銀の捉え方は甘いです。景気が良くなりかかった時に金融緊縮されたら悪くなるのは必然で、ゼロインフレ下では景気の良くなり用が無いです(需要インフレの否定になる)