経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・厚生年金は5000億円の緊縮

2020年01月26日 | 経済(主なもの)
 1/20に政府予算案が国会に提出され、特別会計における厚生年金の2020年度の収支が約5000億円の緊縮であることが判明した。前回コラムで、税収が上ブレした際の財政の拡張幅を+1.2兆円としていたが、これで+0.7兆円まで更に縮むことになる。このくらいになると、公共事業が執行難で後ろ倒しされれば、ほとんど拡張にならない事態もあり得る。つまり、「財政出動したのに、景気はさっぱり」といういつものパターンになるわけだ。

………
 日本では、異様なほど財政赤字を気に病むのに、収支の全体像を把握するために不可欠な「社会保障基金」は、まったく埒外になっている。公的年金が大宗を占める「社会保障基金」の黒字か拡がると、国と地方の財政赤字は相殺され、実質的に縮小することになる。要するに、財政出動をしているつもりになっていても、ウラで年金の黒字を大きくしていたら、効果は薄くなってしまうのである。

 「社会保障基金」は、資金循環統計の資金過不足で見ると、既に2018年度にはGDP比+0.2%の黒字に達しており、順調に行けば、2019年度は+0.4%近くになる見込みである。そして、2020年度に年金の黒字が5000億円増大し、+0.5%まで達するとすると、中央と地方の財政赤字を埋めて、政府部門全体では、2025年度の赤字ゼロの財政再建の目標に到達する見通しが立つことになる。全体を見ずに財政赤字の心配をするなど、間抜けな話でしかない。

 もっとも、1997年に度外れた緊縮財政をして、20年を超えるデフレ経済に陥ったのは、年金の黒字を無視し、財政の赤字を過剰に不安視した結果だった。この「壮大な愚行」を犯した結果、雇用が崩壊し、保険料は低迷して、年金まで赤字へ転落するはめとなった。緊縮財政によって、「見せかけ」の財政危機を「本物」の財政危機にしてしまったのだから、笑うに笑えない間抜けぶりであり、それが今も連綿と続いている。

(図)


………
 そもそも、厚生年金の新年度予算がどうなるかのニュースすら流れない。収支を読むには、「令和2年度予算及び財政投融資計画の説明」に行って、「第3 特別会計」の「年金特別会計」の「厚生年金勘定」を見るわけだが、歳入と歳出が一致するように作ってあるから、にわかには収支の変化が分からない。本コラムでは、改めて、歳入を「保険料収入+一般会計受入+基礎年金勘定受入」、歳出を「保険給付費+基礎年金勘定繰入」で集計し直している。 

 その結果が上の図だが、どうして、こんな集計をするのかの制度的説明を始めたら、複雑過ぎて、一般向けのコラムとしては読むに堪えないものになる。しかも、予算は堅めに作ってあり、決算段階では、更に収支が改善されるクセを持ち、実態は、もっと分かり難い。正直、関係者以外では、本コラムの読者くらいしか知ることのないもので、景気と財政を予想する上で極めて重要な「秘伝」の数字なのである。

 おそらく、厚生年金は、2019年度の決算の段階で黒字になり、2020年度には5000億円以上に拡がるはずだ。歳入が女性の就業などで伸びる一方、歳出は物価上昇より抑制されるからである。しかし、非正規への育児休業給付をケチり、少子化で次世代を激減させ、老後を支えるカネの受け手が消え行くのに、溜め込みを図るとは、いかなる所業なのか。社会の在り様に無関心でカネにばかり頼ろうとする守銭奴の末路は、悲惨なものになるだろう。

………
 「こんなに財政出動をしているのに、どうして景気は良くならないのか」という、ナイーブな疑問への答は、ざっくり言えば、「普段から厳しい緊縮をしていて、景気が悪くなると中立にするだけだから」というものになる。税収の過少な見積りと年金収支の度外視で、実態が見えていないだけの話であり、無知が理由でなければ、アベノミクスの間に一般政府の資金過不足が急速に改善されるはずもない。

 「少子化対策も繰り返し行って来た」という言い訳も、よく聞くが、小出しの戦力の逐次投入による損耗という、悪手に酔った自己欺瞞でしかない。タコツボ型の現状分析による失敗は、満州に拘って破滅した戦前以来の日本のお家芸である。戦前、植民地の不経済と放棄を主張し、戦後、積極財政を進めて高度成長の道を開いた石橋湛山が、21世紀の今、求められるところだが、現れるのは、やはり「敗戦後」なのだろうか。


(今日までの日経)
 中国、海外団体旅行を禁止 新型肺炎。年金、抑制通算3.2兆円に マクロスライド発動で0.2%増。物価、脱デフレへ足踏み 昨年0.6%上昇に鈍化。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1/24の日経 | トップ | 1/30の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事