経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

強権の経済政策の空虚さ

2020年07月19日 | 経済
 軽部謙介さんの『ドキュメント強権の経済政策-官僚たちのアベノミクス2』は、いつもながらの濃密な内容だったが、意味のなかった経済政策が描かれているわけだから、ある種の虚しさを覚えざるを得ない。むろん、政策そのものの評価ではなく、「何があったのか」に焦点を当てられたものだが、経済に与えた政策の影響の大きさに応じて、「強権」の意味合いも変わり得ると思うのである。

………
 多少でも実際の経済に通じているなら、金融緩和の一本槍でデフレから脱せるとは考えないものだ。それは、経済学の教科書の中だけの話である。とは言え、金融緩和は、上手く使えば、円安と株高を導くことができる。アベノミクスは、リフレを口上に使い、本音を語らず、これに成功した。カネの流れを変えるには、転換への期待がいるので、「強権」の意味は大きく、有効に働いたと評価できよう。

 他方、デフレ脱却には、需要を拡大して、物価を押し上げる必要がある。一番簡単なのは、輸出を増やし、設備投資を刺激し、所得を伸ばすことだ。これにもアベノミクスは、一定の成功を収めた。2014年の消費増税で需要を削減していなければ、黒田日銀総裁は、2%の物価上昇の「公約」を果たしていたに違いない。問題は、なぜ、増税で需要を削減してもなお、リフレが実現できると判断したかである。

 『強権』では、復興法人税の前倒し廃止が説得材料の一つとなって、増税の実施が導かれる様子が描かれる。しかし、法人減税に投資の促進を期待するのは、教科書の説明とは違って、幻想に近い。需要の削減による強力な悪影響を防ぐべくもない。案の定、設備投資は、増税で内需が削減される中、輸出の動向と同じ傾向をたどり、需要に従ってなされるという経験則が改めて実証された。

 ただし、このあたりは、政府・日銀に限らず、民間のエコノミストでさえ、増税をオーバーライドする輸出ブームがあると信じていた。実際は、それほど盛り上がりにならないどころか、2014年のうちに峠を迎えてしまう。もし、予定どおり秋に10%の消費増税をしていたら、シッョクで破綻を起こしかねない情勢だった。命がけの財務次官の想いとは別に、増税を見送る以外に合理的な選択はあり得なかったのである。

………
 当たり前だが、大事なのは「強権」を何に使うかだ。消費増税の見送りとは裏腹に、2015年以降、財政収支は改善の一途をたどって行く。アベノミクスは、緊縮で内需を圧縮したため、デフレ脱却は果たせなかったが、円安による外需の伸びの下、財政再建は大成功を収めた。金融政策には「強権」は使えても、需要管理には「強権」を用いるだけの見識もなかった。矢はあっても、的を外して「強権」が振るわれる時代、政治主導への改革を経た先に現れたものは、これだったのである。


(今日までの日経)
 首都圏外でも感染急増。国内観光 見えぬ正常化 「GoTo」政策迷走。 中国経済、雇用なき復活 4~6月3.2%成長。休業要請踏み込まず 東京都、警戒レベル最高に。コロナ下 動き出す消費 給付金で家電・自転車。

※新型コロナの感染確認数は急増のカーブを描いている。3月下旬の「夜の街禁止令」で収束に向かったが、6月下旬の全面解禁以降は増加に転じている。

(図)



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2 コメント

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Unknown (弱権で)
2020-07-20 11:25:12
経済政策を(弱くて策できるかはともかく)!
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Unknown (Unknown)
2020-09-15 09:08:20
なぜ財務省は法人税減税に関しては容認するのか。
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