経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・これから起こること

2016年10月02日 | 経済(主なもの)
 8月の鉱工業指数の結果は良好で、概況判断も上方修正された。これにより、多くのエコノミストが景気回復局面にあるという見方をするようになると思われる。まあ、本コラムでは、かなり前から指摘していた話ではあるが。それでは、今後、どのような展開になるのか。日本経済が1997年の消費増税でデフレの泥沼にはまってから20年にもなるので、景気回復の過程なんて覚えがないという人がほとんどだろう。

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 金融緩和をすれば、設備投資が盛んになり、景気が回復するというのは、机上の空論で、異次元緩和の失敗も、基本的な理由は、そこにある。実際の経営者は、金利より、需要リスクに強く支配されているため、消費増税で需要を抜いたりすれば、景気が低迷するのも当然だ。ここにきて、景気が持ち直しているのは、追加的需要の輸出、公共、住宅が底入れし、需要が安定してきたことによる。

 こうした需要の安定があって初めて、金融緩和は意味を持つ。追加的需要を起点に、投資増→所得増→消費増→投資増と回転し、景気は次第に加速していく。この段階で、経営者はどういう行動をするかというと、利益「率」より利益「量」を取りに来る。すなわち、儲けより成長を志向するようになる。いわば、バイトの時給を上げてでも、頭数を確保し、売上げを伸ばそうとするのだ。

 誰しも、考えることは同じなので、そのうち、人材や設備の投資競争が始まる。成長する経済では、投資は生産性向上に結び付くので、遅れると、市場から追い払われかねず、利益なき繁忙になろうと、負けるわけにはいかない。ITなど新興市場でのアグレッシブな企業行動を考えれば、想像がつくと思う。むろん、デフレ経済では構図が逆になる。普通の経営者は、一に顧客、二にライバルで、金融政策など気にしてない。

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 8月の職業紹介状況は、注目のパートの新規求人倍率が前月比+0.07の2.74倍となった。着実に上乗せしてきたと言えよう。パートの新規求人数は、7月に陰りが見られたが、8月の前年同月比3.2万人増と復調した。内訳は、医療・福祉が1/3、卸小売+飲食宿泊が1/3となっている。また、8月の労働力調査の就業者数は、前月比-12万人であったが、6,7月が高水準だったことからすれば、十分な内容である。

 一方、8月の家計調査では、勤労者世帯の実質実収入が前月比+0.5と、順調に増加している。この分だと、7-9月期は、消費増税直前の水準を取り戻せるかもしれない。ここで、「消費も良好」といきたいが、8月は大幅減のイレギュラーな動きを見せた。世帯人員と世帯主年齢を調整した消費水準指数では、さほどの減でなく、商業動態も同様なことから、消費「総合」指数の公表を待ちたい。

 そして、8月の鉱工業指数は、生産が+1.4となり、9,10月の見通しも+2.2,+1.2と好調だ。これで、7-9月期の生産は、高めのプラスが期待できる。なお、建設財出荷が停滞気味なのは、少し気になる。8月は、住宅着工が前月比で大きく低下し、相続税対策の貸家の減は少ないものの、分譲住宅の減が大きかった。消費増税前の駆け込みを当て込んだものが剥落してきたのかもしれず、要注意である。

(図)



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 先週のNHKスペシャル「縮小ニッポンの衝撃」が大きな反響を呼んだようだが、今後、人口減少は加速し、あと数年で年間50万人を超すようになる。「団塊ジュニアが30代のうちに少子化対策を」と訴えてきたが、理解を得られぬまま、既に手遅れとなり、移民でも埋め切れないほどの人口崩壊社会がやってくる。将来を見越しての対応は、かくも難しい。

 足元でも、早く130万円の壁を取り除いて、能力を生かせるようにしなければ、蓄積の乏しさから、将来、経済の停滞や貧困を招くことになる。しかし、日経ビジネスO.L.『10月から改定、壊れるか?パート130万円の壁』(9/30)で、野村浩子さんが指摘するように、上手くいっていないようだ。おそらく、少子化対策と同じ運命にあると思われる。

 130万円の壁は、段階的に保険料を課すようにすれば解決できる。それに必要な費用は、成長に伴う効果で社会保険内で賄える可能性もあるし、そこまで行けなくとも、高年金者から低年金者への再分配が起こるだけで、財政や国民の負担が増すものではない。結局、「保険料は負けられない」というイデオロギーを変えるのに、長いながい時間が必要なのだ。景気回復によるパート不足が、これを短くしてくれることを祈るのみである。


(今週の日経)
 金融緩和なぜ効かぬ? 成長力低下刺激伝わりにくく。日銀、国債買い入れ減額 長期金利低下に対応。社会保険の適用拡大 流通、パート確保策急ぐ 保険料負担で時短も。アパート建設 空室率悪化で泣くオーナー。黒田総裁、こだわった「2%超」。給付型奨学金 7.8万人、成績3.5以上。外国人労働者受け入れ 介護や建設、政府検討。

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1 コメント

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Unknown (asd)
2016-10-04 13:11:52
人間って基本的にサプライサイダーですよね…
マクロ知識のない人に総需要という概念を説明するのはまあ骨が折れます。マクロ知識が少しある人に総需要改善の主張をすると、まあ感情的に反発されます。
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