経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

金融政策はなぜ効かないのか

2021年07月11日 | 経済
 2021年度は、1500億円しか社会保障費を増やしていないのに、税収が前年度決算から3.8兆円も伸びる。一時的なコロナ対策から抜ければ、それだけ財政再建が進捗することになる。2022年度も、社会保障費の自然増は6600億円のところ、税の増収は3.2兆円にもなるはずだ。こうしたデフレを促進する緊縮財政を併用していては、弱い力しかない金融政策が効奏するはずもない。21世紀の経済政策は、全体を見なければならない。

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 経済学の2本柱は、需要と供給を調節する価格メカニズムと、貯蓄と投資を調節する金利メカニズムなのだが、遺憾なく力量を発揮する前者と違い、後者は存在を疑うほど脆弱だ。なぜなら、設備投資は、需要リスクという別の力に支配されているからである。常識的にも、企業は需要を見ながら投資を決めているし、消費者も金利を見ながら消費と貯蓄の割合を決めたりしない。柱なのに、現実味の乏しい「理屈」なのだ。

 金利メカニズムが機能するためには、企業は期待値に従って行動する必要がある。期待される収益率が金利よりも高いのに投資しないのは、経済学的に不合理だ。ところが、現実には、それをしてしまう。期待値がプラスであっても、投資に一定以上の大きさの損をする可能性が含まれている場合、敢えて収益の機会を捨ててしまうのである。経営者には、損得を繰り返して期待値にたどり着けるほどの時間がないからだ。

 設備投資の決定は、低利を使って利益を最大化しようという力と、収益の機会を捨てても損を避けようとする力がせめぎ合うことなる。だから、複雑な動きになるし、需要リスクは強力だから、日銀の金融政策など、ものの数にならない。結局、金融緩和と同時に、せめて消費を抑圧する緊縮財政をやめなければ、とてもデフレ脱却は無理である。デフレとは、消費の弱さが生み出す実物的現象なのだ。

 金融緩和は、昔から「ヒモで押すようなもの」と言われ、設備投資を促進し、成長を加速させる力は乏しいと評価されてきたのであり、「異次元緩和でリフレ」と叫ばれても、にわかに信じられるものではない。ただし、通貨安、資産高、住宅増に結びつくことは知られていたので、それらで実需が動けば、需要リスクも緩和され、景気が浮揚し、ひいては、デフレ脱却に至る可能性はあった。

 アベノミクスの場合、大幅な円安に成功したが、米国への手前、おおっぴらに「自国通貨安で景気浮揚」とは言えない。そこで「リフレ」という良く分からない説明になった。かくして、輸出で成長は高まったが、リーマン後の円高で痛い目を見た企業は、期待されたほどは国内投資を増やさず、消費増税をオーバーライドできないまま、デフレ脱却とはならなかった。金融緩和の力は過信されていたのである。

(図)


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 リーマンでも、コロナでも、危機の時には、大規模な財政出動がなされるが、そこから脱していく過程では、大規模に実施しただけに、早すぎる緊縮に走り、成長にブレーキをかけてしまいがちだ。米国のバイデン政権は、リーマン後のオバマ政権の失敗に学び、十分な速度まで持って行くべく、このタイミングでの財政出動に踏み切った。しかも、内容を将来世代向けとしつつ、法人や資産への増税も打ち出して、赤字増大への不安も払拭しながらである。またぞろ、インフレ懸念の批判も出ているが、消費増税でなら一発で鎮められると、日本の経済学者は教えてやれば良い。バイデン政権が成功を収めるなら、これが21世紀の経済政策の標準となろう。


(今日までの日経)
 法人課税で「歴史的合意」。米国競争政策、半世紀ぶり転換。金利抑え民需主導で財政健全化。五輪、4都県は無観客。GDPコロナ前水準 年内回復。クジラが動かす欧米金利。都に緊急事態再発令へ 酒は一律停止。NHK(7/7)・酒出る会食、感染リスク約5倍。


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