経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクスは豹変できるか

2015年09月13日 | 経済
 アベノミクスの不振の理由は明らかで、2014年度は、8.1兆円もの一気の消費増税をしたことであり、2015年度は、引き続き、8兆円規模の緊縮財政をしているためである。今年度の緊縮は、あまり意識されないが、補正予算で公債減額を0.8兆円、本予算で4.4兆円、地方財政で1.2兆円、厚生年金で収支改善1.6兆円をしたことを忘れてはいけない。加えて、国の税収だけで、3.2兆円の上ブレが予想される。原油安メリットがなければ、停滞では済まなかっただろう。

 緊縮財政が敷かれていることは、政府の「中長期の経済財政の試算」でも明らかにされている。2015年度は、財政収支がGDP比で1.4%、約7兆円改善すると記されている。むろん、これには、年金収支や税収上ブレは含まれない。これだけ吸い上げれば、日本経済の成長力は年率1.6%くらいのものだから、「緊縮財政は景気に影響しない」という信念の持ち主以外は、素直に納得できると思う。少なくとも、悪天候やマインドを持ち出すより説得力があるのではないか。

………
 基本的な需要管理もできない日本の財政当局であるが、4-6月期に続き、7-9月期までゼロ成長に陥りかねない事態に至り、少し焦りもあるようだ。9/11の経済財政諮問会議では、2016年度予算の質の向上とともに、子育て支援・少子化対策の強化がうたわれ、「アベノミクスの成果(税収増等)を一部還元することも検討すべき」となった。つまりは、これを目玉に補正予算を組むことを示唆したと考えられる。

 締め過ぎておいて還元とは、苦笑させられるが、悪いことではない。ただ、初めから「総合パッケージ」と銘打つように、総花的でインパクトに欠ける。子育てや少子化は、毎年、大臣が代わるたびに対策が作られている感もあり、「またか」というところだ。安倍政権は、安保法制で人気を落としている。池田勇人のように、チェンジオブペースができる、本質を突く政策が求められる。

 実は、ありきたりな「総合パッケージ」から、本質は浮かんでくる。問題の根は、一つだからだ。それは、パートや非正規の待遇改善である。政策的には、社会保険料を軽減しつつ、130万円の壁を撤去することが必要になる。例えば、(1)「子ども・子育て支援新制度の量及び質の拡充」は、非正規で働く保育士の待遇改善なしには実現しない。(2)「若者の経済力の向上、ワークライフバランスの実現」は、貧しいのは非正規だし、正規から外れたら終わりだから残業も拒めない。

 (3)の「貧困世帯やひとり親世帯」が苦しいのは、非正規から抜け出せないからであり、(4)の「産休・育休」が取れないのも非正規ゆえで、「婚活」には正社員になることが前提だろう。結局、多くの若者が非正規にくすぶっていては、どれをやっても成果は上がらず、逆に、非正規の社会保険料が軽減され、130万円の壁が取り払われて、正規に近くなれば、おのずと解消される。本質とは、そういうものだ。

………  
 年収が130万円を超えた途端、36万円もの社会保険料がかかってくる「壁」がいかに辛い制度なのかは、母子世帯に端的に表れる。このために、低収入に押し込められているのである。日本の母子世帯は、就業率が81%と高いにもかかわらず、貧困率が高いことで世界的に有名だ。厚労省の平成23年度母子世帯調査によれば、就業者の半分はパート・アルバイト等であり、平均年収は125万円と「壁」に張りついている。

 当事者の声を、内閣府の「子どもの貧困対策の検討会」の資料(2014/5/22-5.3/3)から拾ってみよう。「パートで働いた分だけしか稼げません。厚生年金や社会保険に十分入ってもらえるくらい働いていますが、会社は入ってくれない」、「パートとして働いていますが、会社は残業させたくないようで、月8万円程の収入です」… そして、掛け持ちで働く人も珍しくないのである。

 こうした実情にあるのは、会社が意地悪だからではない。いきなり社会保険料がかかってくるのでは、会社も苦しいのである。このことは、社会保険料の軽減は、中小企業にとって大きな恩恵になることを示している。貧困対策にとどまらない、日本の経済構造を変える産業政策であり、法人減税とは比較にならないほど多くの支持を集めるだろう。

 具体的に、どうすれば良いかは、本コラムでは「ニッポンの理想」という提案をしている。いわば、社会保険料還元型の給付つき税額控除であるから、いま話題となっている消費増税分の食料費を還付する方法を使えば、容易に実現できる。軽減規模は1.6兆円なので、今年度見込まれる税収上ブレの半分程度の大きさに過ぎない。

 そんなにカネは出せんと言うなら、母子世帯の母だけでも救えないか。必要な財源は700~1000億円くらいである。この程度なら、年金財政で呑み込むことも可能だろう。母子世帯は、平均1.58人の子供を育てている。世代間扶養である年金財政上は、1人育てれば十分なのに、それを上回る貢献をしている。国民年金保険料の免除を受けると、老後の年金はわずか3.2万円になる。次世代育成をしているのに報われない。これは理不尽ではないか。

………
 さて、新たな政策をアピールするには、象徴がいる。小泉政権の郵政民営化は、経済上の重要課題ではなかったが、大きな改革を感じさせ、強い国民の支持を得た。反対に、第一次安倍政権は、ワーキングプアという新自由主義下の象徴的な問題で責められ、窮地に立たされた。今こそ、リベンジを果たすときであろう。過去からの豹変が強いコントラストを生み出す。かの池田勇人も「寛容と忍耐」と「低姿勢」から始めた。

 米国の国是が自由と民主主義なら、日本人の身上は、努力と誠実だ。それだけに、懸命に働いても貧困から抜け出せない現実を突きつけられたときは、衝撃を受けたのだ。このことは、裏返せば、「がんばれば、報われる」という政策メッセージが琴線に触れることを意味する。池田勇人は「成長は国民自身の努力によって実現する、政府は努力できる環境と条件を整備する」と訴えた。そそり立つ130万円の壁を放置して、どうやって努力させるつもりなのか、今一度、考えてほしい。


(9/10の日経)
 外国人在留8年に延長・諮問会議。日経平均急反発1,343円高。消費税還付額レシートに。増税時は給付継続も、システム稼動に時間。本田悦朗・次は所得再分配。

(9/11の日経)
 消費税10%時に2%分還付、財務省案、与党に提示、マイナンバーカード利用、課題多く。

(昨日の日経)
 賢い電子部品に軸足。消費税還付17年4月にこだわらぬ。税率10%死守へ還付案。少子化の総合対策を年内に。

(今日の日経)
 医学部の定員削減。

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2 コメント

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Unknown (asd)
2015-09-15 16:01:57
「緊縮財政は景気に影響しない」という信念が日本中にはびこってますからね…憂鬱です
Unknown (基礎固め)
2015-09-15 23:00:13
失礼します。一通り主要プレーヤーの発言や態度があったので私なりに整理。というか新しい経路が何もなく、複数の経路が塞がれたと見ているのでプレーヤー批判ととらえてもらって結構です。
まず、岩田氏の2%未達成容認。此れはコミットメント政策として不味いです。未達成はしょうがないですが止めないのは期待形成に不味いです。自認するべきでしたが、今の段階では黒田さんか首相が更迭するしか、、
因に白川から黒田さんへ変わった辺りが最も影響が会ったと、貸出し率だったか?、記憶しているのでコミットメント政策による流通速度の変化は今でも通用するかと…MBによる貨幣数量説の比例効果はやはり否定されましたが。MSの比例効果は今回ではヘリマネする以外研修できないですね。
黒田さん、再度消費税に言及されました。リスクをあげていますが何のリスクか説明が不足しているため、国債購買者による財政債権リスクにしか見えません。国民の消費や賃金に対するリスクでしたら給付に言及するべきです。しかし其れが出来るのは政府なのですから言及自体を控えるべきだったと思います。
日銀も政府も認めた通り、消費税の影響で消費の停滞とGDP停滞へ変化しているのですから。言い換えればケインズの貨幣論的に言えば短期の財の消費量速度が変化。ケインズの確率論的には損失の不確実性が増えたため消費量に変化ですかね。貨幣数量説的には短期の流通速度。ルーカスの合理的期待の変化。これ等の基礎的哲学としてベイズ確率論が有りそうで面白そうです!?事前効用分布が不変と考えるかそうでないか、流通速度論争とか行動経済学辺りの発症で起きないかしらん♪もしかして法と経済学辺りの証拠力形成プロセス辺りから…
で、悲しいかな首相の価格低下発言。此れはデフレ政策のシグナルもそうですが…私的には給付政策が見込みが薄いとのシグナルとなると見ました。何故ならば、岩田氏の未達成によるとコストプッシュ型の継続と黒田さんによる消費税発言により実質賃金や需要を仮に一時的だとしても低下が見込まれたため、今こそ給付政策を実行する口実があるときは無いと思ったからです。
一瞬黒田氏…ユダになるきか!?と思ったがあっさり価格低下また首相消費税発言で崩れました、崩れるのが私の妄想だけならいいですけど、、国民たまったものじゃ無いですからね…。
予想も外れることもあるから、あとは付帯決議が消えた消費税法案は法律で廃案にしなければならないのでそこに注目してきますかな。
因に法律無視して消費税止めたら今度の場合は租税法律主義違反の経済法クーデターになるので注意して見るとおもしろいですよ!?財政学者や経済学者もドンパチ受けることに為ります。

因に予想といえば、ギリシャもチプラスが緊縮策を飲むとは思わんかったし…また選挙しているのがまたわからんし
チプラス失脚を望んでる!? お主ももしや…ユダに、、
失礼しました。

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