財政収支の指標としては、プライマリーバランスがよく使われるが、それに限られるわけではない。GDPの部門別勘定における「貯蓄(純)」も、実態を知るために、とても貴重なものだ。そこから見えるのは、デフレと本物の財政危機をもたらしたのは、消費増税を中心とする緊縮財政だったという、やるせない事実である。消費増税自体が目的ではなく、手段だとすれば、一体、何のために行うのか、よく考えるべきだろう。
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そもそも、貯蓄(純)とは、プライマリーバランスを算出する下地になるものであり、これに「資本移転」、「固定資本形成」等の増減を調整した上で、利子の受け払いを差し引いたものだ。ざっくり言えば、財政収支から公共事業を除いたイメージである。公共事業は、国債で賄うとしても、インフラの実物資産が残り、次世代の便益にもなるから、これを除いた収支にも十分な意味がある。
意外にも、貯蓄(純)は、1997年に消費増税をするまでは、黒字だった。確かに、中央政府は赤字だったが、地方政府がトントンで、社会保障基金が黒字を出し、これらを総合した一般政府は、若干の黒字になっていた。この1997年度には、消費増税だけでなく、特別減税も廃止し、社会保険料を上げ、公共事業まで削減して、12兆円ものデフレ圧力をかけたが、こうした度外れた緊縮財政を焦って打つ必然性は何もなかったのである。
そして、悲惨なことに、名目雇用者報酬がピークの1997年度から2003年度までに25兆円も減少し、これがベースの社会保険料が伸びなくなり、社会保障基金の収支は見るみる悪化して、一般政府の赤字は27兆円にまでなってしまった。賃金が伸びなければ、当然、消費も増えず、物価も上がらない。日本の経済構造が壊れ、雇用の劣化で社会は変質した。過激な緊縮財政によって、デフレと本物の財政危機が現実のものとなったのである。
(図)
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愚行から時間が経つと、生々しい実体験の記憶が薄れ、「デフレ転落は、消費増税でなく、大型金融破綻やアジア通貨危機のせいだ」とする説が生まれてきたが、これらは緊縮に端を発する一連のもので、責任回避に利用する以外に、あまり意味はない。少なくとも、リーマンショック前後の2007年度から2009年度にかけて、実質輸出が14兆円減少したのに匹敵する需要ショックを自ら課したわけで、無事で済むはずがない。
1997年の悲劇は、当時、鈴木淑夫先生が記した「月例景気見通し」で分かるように、大型金融破綻が勃発する前に、在庫の激増、生産見通しの急速な低下、機械受注の停止、賃金・雇用の悪化が見られ、本格的な景気後退は確実視されていた。金融危機の金づまりでは往生させられたが、この頃には設備投資の意欲は失われており、そこに輸出の失速が重なって、恐慌状態に陥るのである。
2014年の場合も、警戒にもかかわらず、在庫が急増し、生産低下から雇用調整になりかける冷や汗ものの経過をたどった。幸いにも、順調な輸出が支えとなって、逆回転に至らずに済んだが、いつもツキに恵まれるとは限らない。現在の経済の構造は脆弱で、輸出が停滞へと変わった2015年と2018年には、ゼロ成長状態に陥った。今年の消費増税は、緊縮幅は前回より小さいにせよ、輸出の見通しは厳しく、大きなリスクが潜んでいる。
………
結局、なぜリスクを取るのかである。日銀・資金循環の動向からすれば、2018年度の貯蓄(純)は、前年度同様の改善を見せ、財政収支の赤字は、GDP比2%を切り、過去20年で最善のところまで行くだろう。財政再建を焦って、失われた20年を更に延ばす危険を犯す必然性は何もない。2014年の賭けをしのいだと言って、賭けを繰り返すのは愚かだ。自然増収で地道に財政収支の改善を進めれば良いだけのことである。民主党政権が仕込んだ急進主義の呪いに縛られることはあるまい。
(今日までの日経)
住宅価格 世界で頭打ち 経済の下押し要因に。生産判断40カ月ぶり下げ 2月の月例報告 電子部品の出荷が減速。
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そもそも、貯蓄(純)とは、プライマリーバランスを算出する下地になるものであり、これに「資本移転」、「固定資本形成」等の増減を調整した上で、利子の受け払いを差し引いたものだ。ざっくり言えば、財政収支から公共事業を除いたイメージである。公共事業は、国債で賄うとしても、インフラの実物資産が残り、次世代の便益にもなるから、これを除いた収支にも十分な意味がある。
意外にも、貯蓄(純)は、1997年に消費増税をするまでは、黒字だった。確かに、中央政府は赤字だったが、地方政府がトントンで、社会保障基金が黒字を出し、これらを総合した一般政府は、若干の黒字になっていた。この1997年度には、消費増税だけでなく、特別減税も廃止し、社会保険料を上げ、公共事業まで削減して、12兆円ものデフレ圧力をかけたが、こうした度外れた緊縮財政を焦って打つ必然性は何もなかったのである。
そして、悲惨なことに、名目雇用者報酬がピークの1997年度から2003年度までに25兆円も減少し、これがベースの社会保険料が伸びなくなり、社会保障基金の収支は見るみる悪化して、一般政府の赤字は27兆円にまでなってしまった。賃金が伸びなければ、当然、消費も増えず、物価も上がらない。日本の経済構造が壊れ、雇用の劣化で社会は変質した。過激な緊縮財政によって、デフレと本物の財政危機が現実のものとなったのである。
(図)
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愚行から時間が経つと、生々しい実体験の記憶が薄れ、「デフレ転落は、消費増税でなく、大型金融破綻やアジア通貨危機のせいだ」とする説が生まれてきたが、これらは緊縮に端を発する一連のもので、責任回避に利用する以外に、あまり意味はない。少なくとも、リーマンショック前後の2007年度から2009年度にかけて、実質輸出が14兆円減少したのに匹敵する需要ショックを自ら課したわけで、無事で済むはずがない。
1997年の悲劇は、当時、鈴木淑夫先生が記した「月例景気見通し」で分かるように、大型金融破綻が勃発する前に、在庫の激増、生産見通しの急速な低下、機械受注の停止、賃金・雇用の悪化が見られ、本格的な景気後退は確実視されていた。金融危機の金づまりでは往生させられたが、この頃には設備投資の意欲は失われており、そこに輸出の失速が重なって、恐慌状態に陥るのである。
2014年の場合も、警戒にもかかわらず、在庫が急増し、生産低下から雇用調整になりかける冷や汗ものの経過をたどった。幸いにも、順調な輸出が支えとなって、逆回転に至らずに済んだが、いつもツキに恵まれるとは限らない。現在の経済の構造は脆弱で、輸出が停滞へと変わった2015年と2018年には、ゼロ成長状態に陥った。今年の消費増税は、緊縮幅は前回より小さいにせよ、輸出の見通しは厳しく、大きなリスクが潜んでいる。
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結局、なぜリスクを取るのかである。日銀・資金循環の動向からすれば、2018年度の貯蓄(純)は、前年度同様の改善を見せ、財政収支の赤字は、GDP比2%を切り、過去20年で最善のところまで行くだろう。財政再建を焦って、失われた20年を更に延ばす危険を犯す必然性は何もない。2014年の賭けをしのいだと言って、賭けを繰り返すのは愚かだ。自然増収で地道に財政収支の改善を進めれば良いだけのことである。民主党政権が仕込んだ急進主義の呪いに縛られることはあるまい。
(今日までの日経)
住宅価格 世界で頭打ち 経済の下押し要因に。生産判断40カ月ぶり下げ 2月の月例報告 電子部品の出荷が減速。
日本は政府(日銀)が財政赤字によって貨幣供給する自国通貨国なんです、だから債務不履行なんて起きません、いい加減財政赤字を問題視することから完全に卒業すべきです、そう筆者さんが言うようにならない限り、筆者さんが緊縮主義者達にどうこう言える義理ではないように私は感じます。
日本に財政問題が無かっとしても、ただその正論を唱えるだけでは、経済政策の変更には至ることができないと思うからである。
はじめまして。
ウェブニュース媒体 ガジェット通信
編集部の寄稿チームと申します。
弊社では寄稿という形でさまざまな方のブログ記事やウェブサイトから
編集部が気になったものを許諾を得て転載させていただいております。
「消費増税は何のため・失われた20+α年」
https://blog.goo.ne.jp/keisai-dousureba/e/052665d67aa299ec8516554ce8b71217
こちらの記事を大変興味深く拝読し、弊社媒体に寄稿記事として掲載させていただきたくご連絡申し上げました。
お手数かとは存じますが、ガジェット通信編集部までご連絡いただければ幸いに存じます。
何卒ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
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東京産業新聞社
ガジェット通信編集部 寄稿チーム
kiko2@razil.jp
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