今日は「ミニチュア2」です。
昨日、久々にMさんがいらっしゃいました。Mさんとの久しぶりの話はミニ標本の話から始まりました。Mさんはミニチュアという言葉を聞くだけで心ときめくらしく、過去に食玩のガシャポンにハマってしまった事があったという話をしてくれました。Mさんは今日書こうと思っていた事を代弁してくれました。
ミニチュアにはミニチュアならではの不思議な魅力があります。私も小さい頃、近所のお友達が持っていたコカコーラのミニボトルがうらやましく思いましたし、従兄が集めていたミニカーのコレクションを羨望の目で見ていました。世の中には多種多様のミニチュアが存在します。それらは所有欲を刺激しコレクションへと導きます。
ミニチュアには「小さきものみな美し」の美意識があります。小さい事、精密である事、本物そっくりである事が我々の深層心理に響いてしまい、思わずハマってしまうのです。その対象は思いつくままに挙げれば、ミニボトル、ミニカー、様々なフィギュア、雛飾り、鉄道や飛行機の模型、建築模型や椅子等のインテリア模型、ドールハウス、各種様々な模型、ミニ本、ミニ盆栽、等々、キリがありません。もしかすると地球儀や月球儀、ジオラマや箱庭、柴犬の豆柴、米粒アート、等々、もそうであるかも知れません。ミニチュアの世界もしっかりと分類する必要性があるようです。
そう言えば、「美似の世界 日本のミニチュアコレクション」(今清水英一著 銀河出版 2002年)という本があります。この本は古き良き日本伝統の品物のミニチュアコレクションを紹介した本です。本の中には驚愕のミニチュア世界があります。例えば包丁のページだけでもその種類の多さに圧倒されてしまいます。神輿・山車・屋台のページではその精巧さに目を見張ります。質・量ともに日本一と思われるコレクションには江戸の世界がそのままミニチュアとして入っています。
そうです、ミニチュアになる対象には森羅万象、この世界の全てがそれに成りうるのです。ミニチュアの世界の分類はこの世界の分類と完全に一致するのです。そういう意味では、ミニチュアの世界はもうひとつの世界と言えるかも知れません。
そう言えば、数年前からミニチュア写真なる写真が登場しています。それは現実の世界をミニチュア模型のように見せる写真です。その手法には様々なテクニックがあるようですが、そのミニチュア写真にはどう見ても現実の世界とは思えないミニチュア模型のような画像世界があります。その不思議な魅力には魅せられてしまいます。
どうもこの現実世界とミニチュア世界は紙一重で繋がっているようです。我々がミニチュア世界に魅せられるのも、我々の世界認識に繋がる心理的な現象と関係があるような気がしてきます。
ミニチュアの話題は続きます。
今日は「ミニチュア1」です。
「石の華」では昨年末頃からIさんの標本を受託販売しております。それらの標本の中にIさんが製作したミニ標本セットがあり、実は、それが隠れた人気商品となっております。
ミニ標本セットは小さな鉱物標本の欠片を集めて小さな標本ケースに整理して並べたものです。複数の標本がコンパクトに納まっており、価格的にも安価なセットになっております。
上の写真がそのミニ標本セットです。個々の鉱物標本は小さいながらも個性があり、その鉱物特有の性質をしっかりと物語っています。それらは小さいながらも立派な鉱物標本です。鉱物標本にはサイズはあまり関係ありません。標本とは地球という全体の中の一部をサンプルとしてその部分を取り出してきたものなので、むしろ標本とは元々そういうものなのかも知れません。鉱物は一定の化学組成を有した無機質結晶質物質の事です。それらは均質なものなので標本的にはそれで十分なのです。
石の趣味はスペースを必要とします。鉱物コレクションは最初の頃は何でも集めたくなり、コレクションが増えていくに従って、いつかは収納スペース問題が生じてきます。鉱物趣味ではまだしも、水石趣味では石を飾るスペースどころか石の置き場所の確保すら難しくなってしまいます。
大きな石にはそれなりの魅力はありますが、所有者の住宅事情とのバランスが問われます。それは趣味のスペースと生活スペースとの配分の問題の事です。コレクションという趣味はある意味、相当、贅沢な趣味と言えるのかも知れません。
日本の平均的な住宅事情を考えれば、ミニ標本の存在はコレクションの拡大可能性を高めてくれる合理的な存在なのかも知れません。
ミニ標本は製作者側にもメリットがあります。ミニ標本の石達は小さいので標本セットを製作する費用が少額で済みます。また、標本を何かの拍子に壊したり欠けさせたりした場合に、その欠片をミニ標本に利用する事もできます。標本の欠片の2次利用です。また、大きな標本を小さくする事で複数のミニ標本もできます。
ミニ標本には製作者側にも購入者側にもメリットがあります。さらに販売的にも小スペースで済むというメリットがあります。
標本とは地球の一部を切り取って来たものという意味では、それは小さい方が地球にやさしい、という事にもなります。
ミニ標本の存在を考えると、それにはネガティブなところがありません。
そして、ミニ標本にはミニ標本ならではの魅力があります。それは、明日に続きます。
今日は「磁鉄鉱」です。磁鉄鉱も何度か登場しておりますが、タイトル登場は初めてです。
小学生頃の理科で習った磁石は不思議の塊でした。磁石の不思議な力には子供ながら夢中になった記憶があります。その後、電磁気力の理解や地球は磁石である事、等々、磁性の理解は自然を理解する事の基本的で重要な要素になっています。磁性は現代テクノロジーでも重要な要素でもあります。磁性の利用なくして現代文明は成り立ちません。また、磁性流体を使ったアート作品等は非常に美しく、現代芸術の分野等でも磁性の現象は利用されるようにもなっております。
そのような磁性を持った鉱物の代表が磁鉄鉱です。
実は磁性を持った鉱物は幾つかあるものの、磁石と強く反応する鉱物は意外と少ないのです。磁鉄鉱以外で主な鉱物は、自然鉄、自然ニッケル、マグヘマイト、ヤコブス鉱、等、鉄とニッケルを主成分としている一部の鉱物だけです。黄鉄鉱や赤鉄鉱は磁石にくっつきません。名前に鉄が付いていても必ずしも磁石に付くわけではありません。
磁鉄鉱の魅力はそのような強磁性と、それとは別にその結晶形です。
ブラジル ミナスジェライス州 セロ 産 磁鉄鉱(Magnetite)
これは美しい正三角形から成る正八面体の単結晶です。人工的に作られたかのような印象を受けてしまいますが、これは天然です。
オーストラリア Tinnietharra 産 磁鉄鉱(Magnetite)
これも美しい正八面体の単結晶です。母岩に付いているところがいいです。
Kovdor,Kola Peninsura,Russia 産 磁鉄鉱(Magnetite)
これは母岩に多くの単結晶が埋まっています。多くは欠けていますが、それらのベースは正八面体だったであろうと思われるような美しい正八面体の形をしたものも埋まっています。
磁鉄鉱の結晶系は等軸晶系なので正八面体の形をとりやすく、磁鉄鉱の標本には大小の正八面体結晶が数多く存在します。
そう言えば、砂鉄は磁鉄鉱なので、ルーペや顕微鏡で観察すると小さな正八面体結晶を数多く見る事ができるそうです。
砂鉄は、たたら製鉄で日本刀に姿を変えました。磁鉄鉱は鉄の重要な鉱石鉱物でもあります。
先日、何かのTV番組で世界の一流シェフが愛用する堺打刃物が紹介されていました。砂鉄から造られる包丁は美術工芸品の日本刀と同じ価値があり、その番組に出て来たシェフのコレクションが紹介されていました。そのシェフの最も大切な包丁も登場しましたが、その包丁は一度も使われた事がありません。そこには「用の美」を超えた極められた美意識が宿っているようでした。
風化して砂鉄となった磁鉄鉱は、人によって再度、美しく甦っていました。
磁鉄鉱は天然のままでも、人の技によっても、その美しい姿を見せてくれるようです。
昨日、パキスタン産のカンラン石の巨晶が売れました。それは透明感のある緑色をした自形結晶の立派なものです。買われた男性も掘り出し物を見つけた、という事でうれしそうでした。
今日は「カンラン石」です。以前に「ペリドット」のタイトルで一度書いておりますが、ペリドットは宝石名で、「カンラン石」としてのタイトルでは初めてです。カンラン石はカンラン岩の主要造岩鉱物で、上部マントルの主要な構成鉱物です。マグネシウムが富むものと鉄が富むものとが規則的に混ざった固溶体でもあります。マグネシウム鉱物の締めくくりとして登場します。
パキスタン産 カンラン石・磁鉄鉱(Olivine/Magnetite)
上の写真はカンラン石と磁鉄鉱の共生体です。美しい菱形十二面体の形に結晶している磁鉄鉱をつかむように緑色のカンラン石が張り付いています。下の写真はカンラン石のひとつが外れてとれてしまった様子です。とれた断面を見ると磁鉄鉱が出来た後からカンラン石が付いたのではなく、それらは同時に結晶成長した事が分かります。この標本は磁鉄鉱の存在感が強烈なのですが、それにカンラン石が共生している様にユニークさがあり、なんとも言えない愛らしさがあります。
カンラン岩が熱水の作用で再結晶するときに大型の苦土カンラン石結晶ができる事があるそうで、この標本はそのような変成作用と稀な偶然性が同時に起こった結果の産物だと思います。
そう言えば、昨日のブルース石の時に、カンラン岩の蛇紋岩化の初期段階で蛇紋石+鉄ブルース石が生じ、その後、鉄ブルース石が分解して磁鉄鉱が生じるという現象の事を書きましたが、今日のこの標本と何か関係があるのでしょうか?この標本にはブルース石らしきものはないので違うかも知れません。ただ、磁鉄鉱とカンラン石とは密接な関係があるように思います。実際にこのような標本の存在があるという事は無視できません。
カンラン岩は上部マントルの主要構成鉱物だと考えられています。マントルというと当然高温高圧の環境です。カンラン岩は水と反応しやすく変成作用が起きます。どのような変成作用が起きているのかを考えると面白い事に気づきます。そのような変成作用ではマントル内の水の存在も気になります。水は高温高圧状態ではどのような状態なのでしょうか?熱い氷の存在の話を聞いた事があります。高圧状態では水も個体になります。ただ、変成作用には氷のような固体状態よりも液体のような流体である必要性があると思います。水が流体でいられるギリギリの状態でカンラン岩の変成作用が起きているのだろうと思います。実際にはもっともっと複雑な反応が起きているのでしょうが、それは分かりません。
今日はカンラン石から地下で起こりうる未知の変成現象の事を想像してしまいました。
先日の苦灰石からマグネシウム鉱物の話題が続きます。その流れで今日は「ブルース石」です。
今は写真無しです。
実は、つい先日、京都からいらっしゃったお客さんが、唯一店に置いてあったブルース石(福岡県篠栗産)を購入されていきました。ブルース石は軟らかく雲母のような劈開があり、よく剥げるので、それほど好みの石ではありませんでした。そのせいか在庫は幾つかの剥がれた標本が入っているガラスケール入りの標本1個しかなかったのです。
ところが、面白い事に、昨日、ブルーサイトを求めて来たお客さんがいらっしゃいました。そのお客さんについ最近、ブルース石が売れてしまった事のお話をしました。お話をしているとそのお客さんが探しているのはブルース石のマグネシウムが鉄に置換したもののようだったので、探してみます、という話をしました。
そして、昨日、いろいろ調べてみました。
確かにブルース石にはマグネシウムの一部を鉄やマンガンに置換する事があるらしいのです。
ブルース石は変質作用を受けた蛇紋岩地帯に産する事が多いそうで、変成岩の変質過程にはいろいろな事が起こりうると思いました。
さらにWeb上で調べていると幾つかの地質学的な論文が出てきました。
その中に海洋下部地殻と上部マントルの変質鉱物についての論文があり、そこに面白い事が書いてありました。
海洋底から採取されたかんらん岩類は激しく蛇紋岩化している事が多く、かんらん石の蛇紋岩化の初期段階では、まず蛇紋岩+鉄ブルース石が生じ、その後、鉄ブルース石が分解して磁鉄鉱が生じる、という内容です。
かんらん岩は水と反応して分解しやすく、蛇紋岩化します。その過程でブルース石と磁鉄鉱も出来て来るようです。
鉱物の変成作用は地球のダイナミックな変動と共にあり、鉱物といえども地球の物質循環の現象のひとつに過ぎない事が分かります。
鉱物の変成作用にはまだまだ面白い現象がたくさんありそうです。
ブルース石は有益なマグネシウム鉱物のひとつというだけではなく、地球の鉱物循環という現象について教えてくれました。