ようこそ石の華へ

鉱物の部屋へのいざない

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鉱物結晶図鑑

2013-05-31 15:12:30 | 日記・エッセイ・コラム

今日は「鉱物結晶図鑑」です。

つい先日まで、今年は鉱物の本の新刊が少ないと思っていました。昨年は良質な本の発刊が相次ぎ、鉱物本の当たり年という感じがしたのですが、今年は裏年なのか、とも思っていました。

ところが、遂に待望の鉱物本が登場しました。

その本のタイトルは「鉱物結晶図鑑」(野呂輝雄 編著 東海大学出版会)です。その本は結晶形に重点を置いた鉱物学入門書です。その本には鉱物写真と結晶図が満載で、結晶鉱物好きにはたまらない一冊です。

私もどちらかというと、結晶している鉱物が好きな結晶派です。やはり鉱物の魅力は結晶にあると思っています。

結晶の世界には結晶美と共に神秘性が潜んでいます。結晶世界を知る事はこの世界の成り立ちを知る事に繋がります。その理解は科学的な知的欲求を満足させてくれますし、さらに芸術的な充足感をも得る事ができます。

結晶世界はプラトンのいうイデアの世界への入り口でもあります。イデアは完全な幾何学的な図形の姿がモデルともとれ、プラトン立体(正多面体)と結晶形態の類似性は知的好奇心をくすぐります。自然界にある幾何学図形はイデアの世界を垣間見えるかのような気にもさせてくれます。結晶世界の理解はこの世界の理解に繋がり、さらにはイデアの世界の理解にも繋がっているかのように思えます。

ただ、プラトン立体のひとつである正5角12面体の単結晶は自然界には見かけない形である事は不思議な事です。例えば黄鉄鉱の結晶形には5角12面体があっても正5角12面体は存在しません。たとえ似ている形であったとしても、この自然界はイデアの世界とは違っているのです。それは正20面体にもいえる事です。そのように見える結晶があっても厳密には違うものなのです。どうも純粋な幾何学の世界であるイデアの世界と自然界の結晶世界には隔たりがあるのです。その事は何を物語っているのでしょうか?

少し脱線してしまいました。

「鉱物結晶図鑑」はこれからじっくり読みたいと思います。また、この本には購入者のみインストール可能で無償の特典(期間限定)が付いているようです。そちらもじっくりと楽しみたいと思っております。

鉱物結晶図鑑
野呂 輝雄
東海大学出版会
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遺愛石

2013-05-30 13:09:15 | 日記・エッセイ・コラム

今日は「遺愛石」です。

「遺愛石」とは亡くなった方が生前に愛していた石の事です。私は「遺愛石」とは年配の愛石家が多い水石の世界の事だと思っていましたが、先日、鉱物趣味の世界の「遺愛石」を相次いで目にしました。

そのひとつは雑誌「ミネラ No.23」で見た「三河の鉱物コレクション」です。それは鳳来寺山自然科学博物館の前館長であられた横山良哲さんの「遺愛石」の数々です。それらは三河地方の鉱物を代表する一級品ばかりでした。

私は十年位前に、一度、鳳来寺山自然科学博物館に行った事があります。その日は横山良哲館長の鉱物教室があり、その教室目当てで行った記憶があります。横山良哲さんによる展示品の解説と食い違い石や中央構造線の話は興味深く、しっかり記憶に残っております。今回、「遺愛石」を見て、お亡くなりになった事実を知ってしまいました。

もうひとつは「教授を魅了した大地の結晶 北川隆司 鉱物コレクション200選」(東海大学出版会)です。こちらも立派なコレクションの数々で、結晶鉱物好きにはたまらない鉱物が満載でした。私の知らない方のコレクションでありながら親近感が湧きましたし、「遺愛石」となる事で初めて目にすることが出来たコレクションだと思うと何となく複雑な気持ちにもなりました。

「遺愛石」には持ち主だった方の審美眼が付着しています。それらの「遺愛石」には、純粋な石そのものの持つ物語に人間的な物語性が付け加えられています。

「遺愛石」には地質学的な歴史と共に人間的な歴史が加わっていくのです。

そういえば、「前島鉱物標本室」というラベルの標本があります。標本市場では有名らしいのですが、その方の事はよく知らないまま、大量の「遺愛石」が流通しているようです。

それらは普通の石には変わりないのですが、それが「遺愛石」である事を想うと何となく感傷的にもなってしまいます。

そう、石の寿命は人間の寿命とは次元が違うのです。「遺愛石」はこれからも幾たびも流転を繰り返し、人間的な歴史を積み重ねていくのだろうと思います。

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穴3

2013-05-27 12:15:52 | 日記・エッセイ・コラム

今日は「穴3」です。

先週、久しぶりにオヨヨ書林せせらぎ通り店に行きました。そこで買ったのは雑誌「太陽」(1993 No.382)です。その特集は「瀧口修造のミクロコスモス オブジェ・コレクション全250」です。

瀧口修造は富山出身のシュルリアリストで、富山県立近代美術館には瀧口修造コレクションが常設展示してあり、私は2年前に「夢の漂流物」というオブジェ・コレクションの一部を見た事があります。今回入手した雑誌の古本には、富山県立近代美術館で見たものを含めて、瀧口修造のオブジェ・コレクションの写真が全てカタログのように並んで載っておりました。

瀧口修造はそれらの「オブジェの店」を出したかったそうですが、オブジェ・ショップは実現しませんでした。そういえば、宮沢賢治も鉱物標本店をやりたかったそうですが、そちらも実現しませんでした。そういう意味で私が、現在、鉱物のお店をやっている事は幸せな事かも知れません。

瀧口修造のオブジェ・コレクションには面白いものが多く、それらの中には欲しくなるオブジェもいくつかあります。私は実際に「ミラモンド」(ガブリエーレ・デ・ヴェッキ 1960年)の復刻版を持っております。それはALESSIが出した復刻版で、コニーズアイというデザイン・ショップに頼んで購入しました。

さて、瀧口修造のオブジェ・コレクションの中にはもちろん石もあります。特に「穴だらけの石」というものは、実物を富山県立近代美術館でも見ましたが、実際、穴だらけの石です。それを見た瞬間、それは能登の見附島(軍艦島)で拾ったものだろうと思いました。私も同じような石を同じ場所で拾っていたからです。

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見附島産の生痕化石

これは見附島近辺でよく見掛ける泥岩です。それは「穴だらけの石」です。穴の正体は貝類が空けた巣穴です。これらは生痕化石と呼ばれます。

瀧口修造は恐らく、この「穴だらけの石」をシュルレアリストらしい審美眼で、面白いオブジェとして捉え、思わず自分のオブジェ・コレクションにしたのだろうと想像できます。それは地質学者や化石マニアのような観点からではなく、純粋にその形態美に魅かれたものだと思います。その観点には鉱物標本に美を見出す観点と共通している美学が感じられます。

シュルレアリスムの美学と鉱物趣味の美学の相関性は高いと思われます。実際、シュルリアリスム的審美眼には愛石的な要素もあり、アンドレ・ブルトンの著作には「石の言語」という文章があり、それは「書物の王国6 鉱物」(国書刊行会 1997年)に載っております。

今日は「穴」とシュルレアリスム的審美眼について少し思いを巡らせてみました。

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穴2

2013-05-24 14:36:41 | 日記・エッセイ・コラム

今日は「穴2」です。「穴1」を書いてから間が空いてしまいました。

このところブログ更新ペースが落ちています。石の話題は尽きないのですが、書かない癖が付き始めています。ただ、ブログ更新をしなくてもアクセスの方はむしろ増加傾向にあります。不思議な事です。

「穴1」ではヌケのある「穴」について書きました。今回は洞穴、洞窟的な「穴」です。ただ、この話題は興味のある範囲が非常に広く、なかなかうまくまとめられません。思い付くままの展開になります。

Photo
産地不明の石灰岩で出来たミニ洞穴

これは石灰岩で出来た掌サイズのミニ洞穴を思わせる石です。一見スズメバチの巣のようにも見えてしまいます。洞穴の内部には方解石の微小な結晶が張り付いています。これは天然にできたものです。決して昆虫の蜂が作ったものではありません。純粋に地質学的な成因でできたものです。

このような石を見ていると、自然が造る造形には驚きを覚えざるを得ません。自然は意図せず面白いものを造りだすと思います。いつもながら自然の神秘を感じてしまいます。

洞窟の造り出す生成物には非常に面白いものが多く、鍾乳石や石筍や洞窟真珠以外にも興味深いものが沢山あります。このミニ洞穴石も恐らく化学的な沈殿と堆積とで出来たのだろうと想像できます。洞窟内で造られたミニ洞窟という存在も面白い現象です。

鉱物趣味的に気になる「穴」はペグマタイト等に出来るガマ(晶洞)でしょうか。ズリ場等の表面採集と違ってガマ開けには特別な意味があります。ガマの中には大きな結晶がある可能性が高く、最初にガマ開けをして取り出された鉱物は初めて世の中に出るものです。それを最初に手にする事はガマ開けした人のみの特権です。

先日、あるお客さんが金平でガマ開けした、という話をされました。それは小ガマだったらしいのですが、そこから取り出した掌サイズの紫水晶のクラスターを見せてもらいました。実は私はまだガマ開け経験がありませんので、非常にうらやましく思いました。それは金平産らしい紫水晶で、小さいながらもピュアなクラスターでした。ご本人も初めてのガマ開けだったらしく、その方にとっては金平という産地は特別な意味のある産地になるでしょう。

まだまだ金平には可能性がある、と思ってしまいました。

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地球は生きている

2013-05-20 12:52:42 | 日記・エッセイ・コラム

今日は「地球は生きている」です。

「地球は生きている」は比喩的表現ではなく、その意味のままの事です。

「地球は生きている」という事は巨大地震や巨大噴火の現象で実感できます。今ではその事を疑う人は少ないでしょう。

かつてNASAに勤務していた大気学者ジェームズ・ラブロックによって提唱されたガイア仮説は当初メタファーとして受け止められていたようですが、地球がひとつの生命体のように自己調整システムを備えている、という事は疑いの余地はないようです。

その事は別の観点からも理解できるようです。

先日、NHK-BSプレミアムで「コズミックフロント」の「惑星 地球 生命大爆発の秘密」を見ました。地球史におけるカンブリア紀の生命大爆発は生命進化の謎のひとつですが、その番組ではその答えともいえる説明がなされていました。それは陸地から削られて流されていった膨大なミネラル(カルシウムや鉄等)が生命が進化の過程で獲得した殻の材料の供給源になった、という事でした。さらにミネラルによる殻の進化は生物の大型化・複雑化と共に神経系も進化させ、そのことが目の発達に繋がっていき、巨大な目を駆使した捕獲と防御が進化を加速させた、というような解釈です。生命の進化には地球規模のミネラル供給が重要だったのです。

その番組ではまず火星と地球との違いに始まり(原始火星にプレートテクトニクスがあった事、プレートテクトニクスが海の存続に係っている事等、興味深い事実が満載でした)、月の存在が地球環境の安定に寄与している事、等々、知的好奇心を刺激してくれました。それらの中で私が特に興味深く思ったのは1万気圧下での水の結晶の映像でした。簡単なダイヤモンドアンビルセルを使った実験でも水は相転移を起し結晶化しました。その映像では菱形の斜方晶系のように見える結晶でした。水の相にも興味深い現象がたくさんあります。

番組ではポストペロスカイトという鉱物がコアからの熱をマントルへ伝え、その事がプレートの移動と水の循環に大きく影響している事もうまく説明されておりました。

どうも生命の星・地球には単に「太陽からの距離がちょうど良く、液体の水が存在できたから」だけではない、重要な理由が複数あったのです。それは地球の構造すべてが生命の進化に係っていた、という事実です。

その事は「地球は生きている」という事を物語ってもいます。地球と生命は共進化しています。いくつもの偶然の重なりで奇跡の惑星・地球が存在します。どうも本当に「地球は生きている」のだと思います。

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