ドビルパン首相は新雇用制度(CPE)が機会平等法から削除すると10日フランス国民に演説した。修正で対応すると見られていたが二枚腰を見せるまでも無く意外にも早く全面撤退に追い込まれた。今夜のNHK放送によると元々全労働者を対象にした法案が提案されたが、首相は影響が余りに大きいので先ず26歳以下に絞った法案に修正したという。
大統領選を睨んだ政治妥協だったのは間違いない。前回私はここでボタンを掛け違えたと指摘した。しかし、その後の報道を見ると彼がそうせざるを得なかった程フランス政治リーダーと国民の間に認識ギャップがあったようだ。
今、欧州にはグローバル化した国々とグローバリゼーションに頑なに反対している国々からなる二つのEUがあるように見える。前者は英国やポーランド、後者は仏独である。両国の違いはいわば小さな政府と大きな政府でもある。マクロ経済的には前者は低インフレ・低失業で高い経済成長を続け、後者は経済が停滞し二桁のインフレ・失業率国である。
しかし、低経済成長のフランス国民は週35時間労働・4-6ヶ月の長いバカンス等手厚い社会制度で生活を楽しみ、出生率は先進国でトップクラスの1.93まで回復した。彼らには絶対手放したくない権利だ。ところが一方で、フランスの若く優秀な人材は機会を求めて海外に流出が続いている。
今朝CNNを見ると機会を求めロンドンに渡り、そこからフランスに向け新サービスを提供するフランス若者を紹介していた。ロンドンにはいくらでも雇用の機会があり、25万人のフランス人若者が英国で働いているという。フランスのリーダー達はグローバリゼーション下でこのような人材や企業の流出に対する危機感があった。
これは選択の問題かもしれない。しかし、状況はまだ進行中、放って置けば確実に事態はもっと悪化するはずである。いつか選択でなくなる時が来ると思う。心地いい居間で寛いでいる間に大雨で大黒柱の下の土台が流れている絵が目に浮かぶ。労働者は現在の既得権益が持続不可能なことに気づいていない。
アングロサクソン国、つまり英米は、フランス国民はグローバリゼーションの深刻な現実を理解していないと厳しい。フロイド・ノリス(NYタイムズ)はEURO通貨統合が欧州各国の政府単位での政策の選択肢を狭めた、政権が不安定な国は貯蓄が増え消費が伸びていないという冷静な分析をしている。
今回のデモは現状でも既得権益を手に入れることが出来るエリート学生主導だった、それにCPEから直接恩恵を得るはずの下層階級の若者が良く考えず乗ったという側面があるのではと個人的に思う。労働組合は、次は自分たちの番と考え外堀を守る積もりだったはずだ。多分ドビルパンの誤算はここにあったと思う。タイミングと併せ政治的な未熟さが招いた結果という指摘は正しい。
しかし、フランスも含め世界のリーダーが認識しているのはグローバリゼーションが避けられない道であるということではなかろうか。フランス的な色合い(街頭デモが政策を左右する)はあったが、結局のところ経済問題の善悪ではなく政治的タイミングの巧拙であった。
経済的な勝負は付いている。インドも中国も背後に大きく迫り、その姿は日に日に大きくなって行くのである。フランスが利用しなくても米英や日本・東アジアが利用する。フランス企業は対抗する為海外に出て行く以外に道は残されてない。労働者には極めて辛い選択しか残らなくなるはずである。■
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