消費増税の本質を報じないマスコミ
消費増税関連8法案が26日衆院本会議で可決された。国民に不人気で歴代政権が避けてきた増税が、野田首相の執念で一歩前進したといえる。だが、メディアが熱心に報じたのは消費増税の持つ意味よりも、消費増税政局で政界勢力図がどう変わるかだった。
例えば朝日新聞は1-2面で詳細に権力闘争の視点で政局を伝えた後、消費税そのものについては家計や景気への影響を予測し、同じ量の紙面を割いて著名人に小沢氏個人について語らせている。彼等の脳みその大きさに比例した内容の報道だったので、意外感はないが寂しい限りだ。彼等が無知なのか、視聴者を馬鹿にしているかどちらかだ。
そこで、野田首相は何故消費税導入に政治生命をかけたのか、その目的は果たされたのか、識者の考え方を整理して私なりにまとめてみたい。新聞は伝える余白があるので多様な主張を載せそれ程馬鹿ではないことも示せたが、テレビ番組では野田首相は財務官僚の言いなりになって消費増税を推進していると出演者に言わせて終りという状況だからだ。
学者と政治家の危機感の相違
実は学者や専門家・市場関係者の多くは、論理的に考えればこのままでは国家破綻は時間の問題と危機感を持っている。しかし、政治家(一部)は消費増税をいつかは導入すべきだが、近い将来の危機「今そこにある危機」として捉えていない。消費増税の前にやることがあると主張し、結果として政争の道具として捉えている。
日本政府の税収40兆円に対し50兆円を借金して90兆円を歳出、累積赤字はGDPの200%に達し世界最悪の借金国である。それでも何故借金の少ない欧州が破綻の危機になり、一方で円が買われ円高になり安全な資産として日本国債が買われ長期金利が下がっている。
このギャップが消費増税法案の賛否に現れている。実はマスコミも股割き状態にある。社説は消費増税の必要性を認める一方、政治面で政局を追いかける記者は結果として消費増税の前にやることがある、それまでは待てるという認識が底流にあると私は感じる。
二つの根拠と既得権益化した社会保障
消費増税の緊急性がないという最大の根拠は、日本国債の9割が国内で調達されているからと説明されている。国民の年金基金と貯蓄がゆうちょを含む銀行を経由して国家予算の原資になっているからだ。だが、逆説的に言うと国民が貯蓄しなくなったら国のお金がなくなり、年金や保険が払われなくなると理解されているだろうか。
もう一つの理由は、現行の消費税が5%の日本はまだ消費税を上げて税収を増やして借金を減らす余地が残されているからだ。既に高い消費税を導入している欧州には最早消費税を上げる余地はそれ程残されてない。だから、年金や保険を削るしかなくギリシャを始め南欧諸国民からフランス国民まで反発し政権交代が起こった訳だ。
幾ら財政赤字だといっても年金や保険が削られ自分の生活が脅かされると、国民は強く反発し政治は停滞し軌道修正を強いられる。手厚い社会保障がある欧州諸国の危機は、いわば民主主義が払わねばならないコストだ。だが、一旦手にした社会保障は既得権益になり手放そうとはしない。その視点から見ると日本も同じ轍を踏んでいるように感じる。
迫り来る危機の予兆1
こういう声を聞いて痛みの先送りをしていると、実際に財政破綻が始まるともう手遅れになり、国民の生活は崩壊の一本道を辿ることを恐れる。リーマンショックや欧州危機の例で明らかなように危機が進行する速度は早く、その場になって対策を考えるのでは手遅れになる。最初のシグナルは計画した国債の消化が怪しくなり金利上昇の気配が出た時と私は予想する。
実はその兆候の一つとして日本の家計貯蓄率が下がり続けていることがある。日本の家計貯蓄率が高かったのは過去のことで、現在は米国の5.8%よりやや高い6.5%でドイツは11%以上もある。国債を買う最大の原資である家計の貯蓄率は着実に低下し続けている。
迫り来る危機の予兆2
もう一つが貯蓄から国債への経由先である金融機関である。メガバンクの有価証券保有残高のうち国債と地方債の保有比率が近年急増している。例えば三菱UFJは貸付金80兆円台でとどまっているのに対し、有価証券が71兆円と急増し拮抗している。何と気持ちの悪い状況ではないか。
つまり、企業の資金需要が低迷する中で、現在のメガバンクはゆうちょ銀行に次いで国債原資提供の役割を担い日本国債安定の一因となっている。だが、この国債には担保が無い、一旦焦げ付くと紙切れになる。国債の裏付は買い続けてくれる国民や銀行がいるという危うい論理なのである。保有国債の劣化に起因するスペインの銀行の危機を忘れてはならない。
市場と会話した野田首相
市場は消費税政局の行方をじっと眺めている。格付け機関は既に日本の財政状況に警告の信号を発している。欧州の首脳達は問題先送りするたびに市場がノーといい、慌てて首脳会議を開いて対策を講じるというドタバタを繰り返している。「市場が主導して後追いする民主主義」とでも言えばいいのだろうか、間抜けだけど深刻な状態だ。
日本がそうはならないというのが、今回の野田首相の市場へのメッセージなのだと私は理解する。格付け機関の言葉を借りれば、「日本は財政再建を果す意思と能力を持っている」事を具体的に示すものなのだ。市場は一番弱っているところを突いてくるハイエナみたいな奴等で、絶対に弱みを見せてはいけない。
遠くないXデー
ギリシャのような危機が何時日本に来るのか、正直私には全く分らない。日本の財政危機が来るのは早ければ数年後、遅くとも10年内に来ると予測する専門家が多い。放置すれば日本国債の格付が更に下落する可能性は高い、そこから財政破綻に向かって一気に進むとかもしれないという危機感が、野田首相にはあったのだと思う。
それをきっかけに国債価格暴落、政府の資金調達機能が停止、急激なインフレと円安、年金等の政府支出停止、失業の急増など、増税の何倍もの痛みになって跳ね返ってくる。目先の痛みしか見えない人に意見を言わせ、これが民意だというマスコミは私には無責任だとさえ感じる。だが、多分これが民主主義なのだろう。
ギリシャ国民化する日本国民
国の財政悪化は理解できても自分の生活になると反対する。こじ付けのようだが、それは原発が齎した安くて便利な電気社会が、一旦事故が起こると原発にはノーだが、安い電気は権利(既得権益)と主張するユーザーのように私には感じる。ともに物事を1か0で考えないで軟着陸点を見出さないと膨大な犠牲者が出て来る。犠牲を覚悟するというなら話は別だが。
一旦国が破綻したらその結果生じた膨大なコストを支払うのは国民だということを理解しているのか私は疑問に思う。果たして日本の人達は国の破綻に瀕したギリシャの人達をどう見ているのだろうか?政治家は、マスコミは?今のところ、違いより似ているところの方が多いように感じる。
誰も助けられない日本
もう一つの違いは、何だかんだ言っても欧州はギリシャ救済を真剣に検討しているが、日本が危機に陥ったら誰も助けられない、「大きすぎて助けられない」ことを心しておかねばならない。自ら政治を選び、自らを助けるしかない。その覚悟があるだろうか。ギリシャは財政破綻すれば後から政治を非難しても、何も生まれないことを教えてくれた。
政局の行方がどう展開するか分らないが、総選挙の時期は確実に近づいている。消費税は選挙の争点になるだろう。有権者は目先のことだけでなく将来にわたる負担と受益のあり方を考えて投票に臨むべきだ。テレビは少なくとも国を劣化させないよう良く考えて欲しいものだ。■
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