かぶれの世界(新)

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限界地区のマイクロ賑わい

2019-04-24 17:34:55 | 社会・経済
町の皮膚科に電話して聞くと予約はとらない、通常2時間待ちで診察できますとの返事。月曜日に親しい友人がお腹に出来た薄茶色の丸いシミを見て、早く皮膚科に行って診て貰え、多分白癬だと助言してくれた。私も気にはなっていた。1年以上前から臍(へそ)の周りに出来たシミが徐々に大きくなったが、年令と共に生じる皮膚の変化だろう、痒いけど我慢できると放置していた。

何時に行けば空いてるか聞いたが特にないという。お昼時にかけて行けば早く診て貰えるかもと勝手に期待して翌日町の郵便局の隣の病院に行った。受付から覗いた待合室は診察待ちで満杯。外で待っても良い、1時間半後の12時までに戻れと言われ、私のマイクロ冒険が始まった。

外に出た瞬間にソバカス顔が印象的な遍路姿の若い外国人女性に出会った。実は病院に歩いてくる途中道端で休憩中の彼女と目が合い米国風の挨拶していた。彼女はボストンに住みハーバード大を出たが金にならないNPOで働いている、自分を見直す為に2月に来日し遍路の旅に出たという。英語を使わなくなってから20年以上経っているが何とか会話は通じた。

地図をチェックして自分がどこにいるか分かっている様だし、その日は内子町に泊まるというのを聞いて助言できることはなかった。私は90年代に米国で働きボストンに何度も行ったというと、彼女は興味がある反応を返した。別れ際に私が何歳に見えるか聞くと60代後半とピッタリ、少し残念だった。

ハーバード大出の女性と親しく話せる機会なんて、引退生活の私には東京でも田舎でも先ずない。90で母が死んだ話から彼女が日本人の長生きの話題に触れ、私が米国は実質階級社会で平均寿命をレッドネックと一括りで考えると間違うと自説を披露すると彼女は頷いた。理解し合えそうな気がした。米国の政治状況など米国一流学歴の女性と意見交換する滅多にない機会なのにみすみす逃した。

遍路姿の彼女を見送り町の南側を流れる矢落川に出ると、上流に黄色の帽子を被った子供達がいた。聞くと堤防に生えているヨモギを採集している、次の日にヨモギ餅をつくのだという。若い女先生によるとこれで4年生全員、現在20人2クラスだという。私の頃は40人3クラスだった。

その辺は堤防の北側に菖蒲園があり花が咲くのはもっと後、見ごろは菖蒲祭のある6月頃だと世話をしているお爺さんは言った。診察までにまだ時間がたっぷりあるので時間潰しの質問をしているうちに、彼の弁舌が止まらなくなった。地場の電気機器販売会社オーナーで引退して菖蒲に嵌まった。

元々は近くの山裾の新谷藩御殿(明治以降は小学校になり私も通った)の池から移植し、加えて日本各地の菖蒲を植えて菖蒲園となし、引退後彼一人で守り役をやって来たという。園の真横に彼の3階建ての小洒落た家があり各階にずらっと菖蒲が見えた。菖蒲はイネ科なので田んぼに水をやる様に育てているという。初耳だった。6月の菖蒲祭に是非来てくれと招待された。

ジャスト12時に病院に戻り受付に報告したが待合室は依然として満員、一番奥の若い母子達の間に座り、持参した読み残しの新聞に目を通した。それから診察まで小一時間、周りの子供やお母さん達とすっかり仲良くなった。聞けば隣町の内子町や西予市からと言う。皮膚科が無いのだそうだ。

「先生、大洲は皮膚科が少なすぎますよ、何でですか?」と聞き、親指と人差し指で輪を作り「これですか?」と聞くと彼は苦笑いしたが否定しなかった。確かに皮膚病で死ぬ人も入院する人もいない、薬もガンなどに比べればやたら安い。診察結果よりよほど印象に残る一瞬だった。

私のお腹を見て先生は直ぐにメスの刃で茶色く変色した部分を削り顕微鏡で見て、速攻で友人の指摘通り「白癬」だと断定した。「こんなに大きくなるまでよくホットイタネ」と言われ、私は「痛みに強いですから」と答えると看護婦さんがコロコロ笑った。効き目のある塗り薬をお願いした。

薬局では少しバージョンアップして「痒みに強いですから」というと、今度は薬剤師のおねー様がにやりと笑った。塗薬は滅茶安かった。これで関係者全員笑わせた、大成功! 皆笑ってくれると私も嬉しくなった。例外は菖蒲園のマスター、彼はずっと生真面目に説明を続けた。

実家に戻ると1時過ぎ、家を出た時から3時間経過していた。診察時間は5分程度、実質1-2分程度だった。途中古い商店街の7-8割はシャッターが下りているか普通の住宅になっていた。車は通れど人通りはなし。皮膚科の病院の中は患者で溢れ出入りがあったはずなのに。限界集落というよりは限界地区と言うべきか、そこの限られた一点で賑わいを見た。■

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