かぶれの世界(新)

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私的・資金繰りの悪夢

2006-12-07 16:50:40 | 社会・経済

夕張市が財政破綻して再建団体となって厳しい条件で再建の道を辿ることが報じられた時、全く関係のないのに何故か90年代半ばに米国で資金繰りに追われた日々のことを思い出した。お金が無いけどどうしようもないやりきれなさを私なりに感じたときだ。

会社合併から数ヵ月後ある日突然、取引先から出荷停止の通告を受け大騒ぎになった。購買からの申し立てで会計が調べると、未払いの買掛金が急増していることが分かった。在庫の部品を使って生産は続けているものの3日後には部品がショートして生産停止に追い込まれるという。

合併後、財務会計をサクラメント本社で集中管理することになり、全社のキャッシュ・フローがショートし私の責任下のオペレーションの支払い優先度が下がったのが原因だった。支払いは滞っていたがまさか実力行使には出ないだろうと担当者は思っていた。それから約1年、日本の大企業では経験しようもない自転車操業の工場運営が始まった。

当時世界的に見ても最先端のオペレーションのIT化が終ったところだったので、手持ち部品の在庫と納入計画、どんな組み合わせでも製品を作ると部品毎の消化が分かり、その差分でどの部品が不足するか、製品はいくつ作れるかシミュレーションでき、直ちに問題の大きさを把握できた。

本社に火のように煽ってようやく支払い可能な余りにも少ない額の通知を受けると、その金額の中で売り上げに繋がる製品をマーケティングと確認し、生産機種に優先順位をつけ、その製品の生産に必要な部品在庫が不足しそうな取引先に優先して支払ってもらった。

支払い先は大手より中小企業の取引先を優先した。中小企業への支払いが滞ると一気に経営を圧迫するが、大手への支払い金額は大きくても経営に影響を与える恐れはないからだ。しかし、長年にわたって築いた信頼を失ったわけで、支払った代償は大きかった。

米国では支払い納期は日本より短く通常30日だが、売り上げの7割を現金化できるので、売り上げ即キャッシュ・ポジションの改善に繋がった。格好などつけていられなかった。週2,3回のペースで製品売れ行きと見込み、売り上げ高推移、キャッシュ・フロー、部品在庫と納入見込み、生産計画とのマッチングをフォローしていった。アジアからの部品は輸送時間が長く、通関などで予期せぬ遅延が起こり綱渡りの連続だった。

取引先は一度や二度の支払い遅延は我慢しても、それ以上は許してくれず出荷停止し、社長が私に直接訴えると電話してきたこともあった。購買責任者と一緒に取引先の責任者と会って何度も頭を下げた。往復2日で中西部の田舎に飛び板金会社の社長に納品を依頼に行った事もあった。こんな恥ずかしい経験は後にも先にもない。

大手取引先の場合はクレジット・ラインといって買掛金がある一定値に達すると自動的に出荷を停止するシステムがある。支払いが改善されないのでクレジット・ラインを下げるところが続々と出てきた。進退窮まったころで日本本社の追加投資などの支援を受けて一時的にキャッシュ・ポジションが改善したが、最終的には浮上できなかった。まさに悪夢であった。

日本だと不渡りを二度出したら即倒産とよく言うが、このケースなら日本では100回倒産してもまだ足りない。ビジネスは互いの信頼の上に成り立つと表面的に信じていた私にとって、最初は何と言ういい加減な商慣行と思ったが、これもありと最近つくづく思うようになった。

米国の会社更生法も日本とは大違いだ。チャプター11(破産法第11条)といってその申請が承認されると債権回収停止して同じ経営陣が会社再建に取り組む誠に「都合のいい」制度で、最近でもユナイテド・エアラインなど超大手が日本に比べれば簡単に会社更生法の適用を受けている。(本当に倒産するのは別にチャプター7がある)

日本のシステムが概して「あってはならないもの」を隠蔽するコンセプトになっている。長 年経営者は責任追及を免れる為問題を先送りし、どうにもならなくなるまで危機状態を隠蔽したのとは対照的である。バブル崩壊後続発した倒産、夕張市の財政破綻、いじめの隠蔽、核武装議論の封殺など考え方において同じメンタリティを感じる。夕張市幹部の人達はお金がないと気付いた時どうしようとしたのだろうか。■

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