かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録10秋

2010-12-02 23:00:59 | 本と雑誌

このところ是非一読を勧めたい周回遅れ本(古本)が少なくなってきた。入手源のBookoffは内容より回転率(キャッシュフロー)重視の経営なので、売れない良い本を安価に手に入れる可能性が高いはずだったのだが、良い本が減ってきたのか探す努力が足りないのか不作だ。全体に出版部数が年々減っているからかもしれない。電子出版の影響はまだ出てないと思う。

最初に言い訳がましいことを言ったが、今回趣向を変えて悪書の紹介から始める。臆面無く「閨閥石油利権史観」を展開する「世界石油戦争」(広瀬隆)は、非論理的で読み辛く楽しくなかったが途中で放棄しなかった。アラブ王族及び米英の政治と石油利権の婚姻関係が網羅された家系図が面白いからだ。次に紹介する2冊と逆の順番で読めば違った印象を受けたかもしれない。

この本の毒が私の気分を悪くさせたので、次の‘まっとうな’本2冊「ペルシャ湾」(横山三四郎)と「ブッシュ家とケネディ家」(越智道雄)を読んで毒を中和できた。前者は古代文明から現代の石油を基盤にした湾岸諸国を地政学の視点で描いたもの、後者はケネディ・ブッシュ両家を非WASPとWASPの代表として宗教や人脈から米国主流の変遷を描いたものである。ブッシュ家と石油事業の深い関わりも描かれている。

「エコノミストは信用できるか」(東谷暁)は新聞テレビで引っ張りだこのエコノミストが如何に一貫性のない発言をしているか、具体的なデータで評価し作成した信用度格付表は中々の見物だ。痛烈だがデータに基づいた公平な評価であると感じる。ランキングは私の印象とも結構一致しており、書かれた時期が古いのが難点だが経済や投資に興味ある方に一読を勧める。

もう1冊はわざわざ読書を勧める必要もない古典「武士道」(新渡戸稲造・三崎隆一郎訳)だ。今日の我国の混迷振りを見るにつけ、「竜馬が行く」や「坂の上の雲」で描かれたサムライ精神が再度脚光を浴びている。同時に、私は武士道が大和魂に転じ亡国に向かった日本人の民族的弱さを感じ取ったのだが、そう感じるのは私だけなのか聞きたいものだ。

2.0+)セーフティ・ネットの経済学 橘木俊詔 2000 日本経済新聞 生命保険・年金・医療保険・失業保険の意義と現状・海外との比較・課題などについて海外の研究成果を紹介しながら教科書的に大筋を整理したもの。発行から10年経過したが事情は何ら改善されてないことが分かる。著者の淡々と事実を積み上げていき課題を浮き彫りにしていく公平なスタイルは好ましい。

2.5)エコノミストは信用できるか 東谷暁 2003 文春新書 バブル崩壊から失われた10年やITバブル崩壊などの節目で、新聞テレビで毎度お馴染みのエコノミストが主張を変えていく発言を追跡調査し評点をつけた余り例を見ない試み。楽観的なことを言わず地味な発言を続ける人に高点をつけ、日頃テレビでの発言を苦々しく思っていた評論家はしっかり最低点がついており、著者の見方と一致するところ大。本書の結論は「エコノミストには用心して聞け」だろう。

2.0)世界石油戦争 広瀬隆 2002 NHK出版 英米とアラブ産油国の婚姻関係で繋がった(閨閥)石油利権の人脈を綿々と解きほぐして世界史を解釈していく。イデオロギーも民族主義も語らず、臆面無き「閨閥石油利権史観」には驚く。歴史教科書の裏の利権が全てだとは。超現実的で悪書だ。だが一読を勧める。産業革命に遡って利権と姻戚関係を整理した家系は興味深い。

2.5-)ペルシャ湾 横山三四郎 2003 新潮選書 メソポタミア文明からイラク戦争までのペルシャ(アラビア)湾岸国の歴史を古代文明の貿易拠点、アレキサンダー大王から大航海時代への変遷、石油・民族・宗教(イスラム)と地政学上の絡み合いを簡明に描いた中東入門書。

2.0+)ブッシュ家とケネディ家 越智道雄2003 朝日新聞 初のアイルランド系非WASP大統領を生んだケネディ家と、東部エスタブリッシュメントで西南部に拠点を移したWASP代表のブッシュ家の両方の先祖から人脈・宗教・スタイル等を比較し、ブッシュ息子大統領時代にそれが多様化していく様を描いたもの。「引っ込んでいるWASP」と「打って出るWASP」の比較が面白い。

2.0+)小言のいい方 小林道雄 1999 講談社 端的に言うと懐古主義者の子育て論だ。団塊世代より1世代昔の著者が珠玉の鋭い指摘がある一方、根拠が曖昧のまま簡単に決め付けを言うので、信頼感が今一だ。所々に編集者がコメントするという変わった編集法が珍しいが、バランスを取っている意味合いもある。

3.5)武士道 新渡戸稲造 三崎隆一郎(訳) 2003 PHP 日本人なら誰でも知っている古典だが、改めて読んでみて現代でも通じるサムライ精神を実感させる。一方で武士道がやがて大和魂となり亡国の道を辿るようになる兆しを感じる。それは武士道の問題というより、日本人が武士道で克服しようとした民族的弱さが生んだ帰結のようなものと感じる。

(1.0+)ニューヨークだけがアメリカではない 藤江昌嗣 2003 梓出版 題名から比較文化論的な内容を想像するが、地域活動を断片的に紹介する前半と経済学の教科書を翻訳したような内容。

(1.5)サロメの乳母の物語 塩野七生 2003 新潮文庫 オデュッセウス、ダンテ、ブルータスなど歴史に名を残す人物の傍にいた人は多分こう思っただろうという推測から、皮肉を交えて歴史的人物を描いた短編集。著者の造詣深き歴史観が珍しく空回りした軽い内容のように感じる。

2.0+)人々のかたち 塩野七生 1997 新潮文庫 週刊誌に投稿した映画評論集。本職の歴史小説より上から目線が少し鼻につくが、例えば「ニュールンベルグ裁判」評でドイツが歴史とどう向き合ったかの歴史を背景にしたコメントにハッとさせられる部分があるのが救い。著者が洋画大好きの、しかもミーハーの臭いのするGクーパーのファンだとは想像もしなかった。悪くない。

(*.*)花のあと 藤沢周平 1989 新潮文庫 短編時代劇集。「雪間草」や「女丈夫」で登場する武士階級の女性は男以上の武道の使い手で現実感がないのに対し、「冬の日」の商家の女性は弱弱しく男に守られる存在として描かれている。著者のステレオタイプ的女性観の表れか。

*.*)竹光始末 藤沢周平 1981 新潮文庫 短編時代劇集。私が好きなのは「竹光始末」や「恐妻の剣」で、主人公の剣の使い手が様々な状況で上司に使われる様を淡々と描かれている。

2.0-)亡国のイージス(上・下) 福井晴敏 2002 講談社 娯楽目的の小説は評価しないのだが、我国の安全保障体制を知るという目的で評価点をつけた。小説としては潜入スパイが凄すぎる一方、感情過多の登場人物とその描き方が鼻について胸焼けになりそう。

「亡国のイージス」(福井晴敏)は石破元防衛相の愛読書と聞いたことがある。娯楽小説としては冗長でストーリーが中々展開せず少しイライラした。評点をつけたのは、文中に著者の信念であろうと思われる安全保障の考えが太字で紹介されるところが一読に値すると思ったからだ。■

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