電機大手の沈滞
地盤沈下が続く日本電機業界を報じる解説記事が年が明けると散見された。90年代までは自動車と並び日本経済を牽引したが、ITバブル崩壊後世界市場からズルズルと後退している。特に産業の米と例えられた半導体とIT革命を支える情報産業の衰退は深刻である。
日本の電機大手はネットや携帯電話で世界のIT産業が急成長する中で取り残された。日本経済新聞は大型車にこだわり経営不振に陥った米国自動車メーカーと例えた。このブログで何度か指摘したように多くは世界戦略と市場変化への対応に問題があったと指摘されている。
長期戦略の誤り
米国の自動車メーカーは米国でしか通用しない大型車にこだわり、例えば日本の携帯電話はNTTのビジネスモデルでしか通用しない商品を作った結果競争力を失った。どちらも世界から目をそらし国内市場に引きこもった長期戦略上の誤りであった。
不思議なことに電機業界では半導体から光ディスク・液晶ディスプレイまで多くの分野で学習効果もなく同じことを繰り返してきた。国内市場で一時的な利益を上げても、結局は世界で勝てなければ国内市場も危なくなる。
日本市場の功罪
これらの現象をもう少し分類して分析すると商品形態によって事情は異なるが、いずれも世界第2位の規模を持つ日本市場が強みにも弱みにもなっている。DRAMや光ディスクなどの部品、薄型テレビなどの最終商品、ソフトやコンピューターなどのITによって陰影は必ずしも同じではない。
まずITについて。残念なことに日本はIT先進国とはいえない。日本の国内市場は中国に追い上げられているといえども世界第二位の規模を誇るのだが、残念なことに日本経済自体がIT化という観点では世界の潮流から遅れている。
極端な言い方をするとグローバリゼーションはITを組み込み一体化した経営のみが主要プレイヤーとしての最低限の参加資格である。世界競争で生き残る最低の条件である。しかし、未だに最先端のIT活用に消極的な企業・行政が多く、日本市場は世界的IT企業を育てる環境にないことの反映と見ることが出来る。
世界で勝たねばジリ貧になる
一方、部品や最終商品は世界第2位の市場規模が生きてくる。特に新技術とか新コンセプトの最終商品を立ち上げるに当り、足元に大きな消費地を持つことは極めて有利である。国内市場で成功した商品を海外に展開する余裕がある時は非常に強みを発揮できた。
しかし、自国市場向けの商品をつくり利益を上げることに注力し国内に「引きこもり」現象を生むと、世界市場での競争力を失うとそれだけにとどまらず、次の世代で国内市場すら失ういわゆる「負のスパイラル」に陥ってしまう。
その中で松下電器が10日中期経営計画を発表し、今後3年間で1兆円の増収、営業利益を3ポイント改善し8%を目指すことを明らかにした。注目すべきは今後の成長の7割を海外事業から上げる考えだ。中村体制で国内を固め、大坪新体制に代わりいよいよ海外に向かう決意をした。
松下電器の中期計画の意味
記者会見では売却の噂がある日本ビクターについての質問が相次いだらしいが、何が重要か全く理解していない。海外事業を成功させるかどうかに同社が世界のプレイヤーとして生き残れるかの将来がかかっており、それがどの程度具体性があるのか単なる絵に描いた餅かに質問が集中してよかったはずだ。
同時に尼崎市に2800億円を投じて世界最大級のプラズマ・ディスプレイ生産工場の建設、それを支える半導体に最新鋭の45nmプロセスを拡大していくと報じられている。松下電器のことだから一旦計画した生産はきちんとやるだろうが、問題はどうやって競争力と収益力を保つかだ。
商品魅力は重要だが世界市場では最後はコスト勝負だ。昨年米国市場でのプラズマ・ディスプレイの店頭価格が半額にまで下落したのは、実は松下電器が仕掛けたという噂が流れた。真実かどうかは別として噂が出るのは悪くない兆候である。今のところ松下は後には引けない、価格競争には受けて立つという自信が垣間見れる。
ディジタル家電で半導体復活は幻想か
一方半導体ビジネスのほうはこの20年間で世界市場のシェアが50%から25%に半減した。DRAMなどのコモディティ価格競争から撤退し、日本勢が強いといわれたディジタル家電に特化した半導体開発で復権するシナリオはもろくも崩れた。
後付の議論といわれればそれまでだが、ここまで大差がついてしまった半導体ビジネスをもう一度世界市場に目を向けさせ、その中で生き残れる競争力のあるビジネスモデルを開発するのは極めて困難だ。水平分業から垂直統合に戻る可能性がある。もう一つの可能性として日立とNECからスピンオフし継子扱いだったエルピーダの世界戦略と挑戦に注目したい。
20年前の先頭ランナー(日立・NEC・ソニー)と追随グループ(東芝・富士通・松下)がここに来て全て逆転したことも興味深い。個別理由はあるだろうがマクロで見ると、本論で述べたように頼りの国内市場でも終に利益を上げられなくなった結果と解釈するのが自然なような気がするがどうだろうか。■