昨年、新しい食品表示方が制定された。その施行に必要な食品表示基準の策定作業を、いま消費者庁は進めている。それはしかし、消費者が選択しやすく、健康維持に役立つものとはなりそうもない。
<例1>マックのチキンナゲットが中国産
今年7月下旬、中国の食肉加工会社による期限切れ食肉の使用が発覚した。その会社から日本マクドナルドホールディングスが鶏肉を輸入していたことが明らかになった。
この事実はほとんどの利用者にとって、寝耳に水だった。メニューなどにまったく記載されていなかったのだから(その後ウェブサイトに掲載)。
食品の品質表示については、JAS法で詳しいルールが定められている。しかし、「外食」と「インストア加工(コンビニなどの店内で焼く焼き鳥など)」は例外になっている。だから、これらの店ではマイナスイメージを与える情報は開示しない。
昨年10月以降、一流ホテルやデパートでメニューの虚偽表示が次々に明らかになったが、外食例外の規定は、こうした不正の温床にもなっている。
外食店などにおける表示は、景品表示法で規制されているが、これは「著しく事実に相違した表示」を禁じているだけだ。ほとんど役立たない。
<例2>中国産でも「国産」と表示されるリンゴジュース
表示制度の欠陥は、スーパーなど小売店でも見られる。
<例1>リンゴジュース(果汁)・・・・国内消費の多くは輸入品で、約半分を中国産が占める。しかるに、ほとんどが「国産」と表示されている。
現行制度では、生鮮食品には原産地表示が原則として義務づけられているが、加工食品はごく一部の食品に限って原料原産地の表示が義務づけられているにすぎない。
リンゴなどの果汁の場合、外国で搾汁された後、濃縮・冷凍されて輸出され、それを国内で解凍、水分を加えて100%果汁にすると、その希釈が国内製造と見なされるのだ。
<例2>焼き鳥・・・・容器で包装されず、ばらで販売される焼き鳥も同じ。
外国で串刺しにまでされ、加工された半製品が冷凍で輸出され、国内のコンビなどが解凍、加熱して販売すれば原産国は日本となり、原料原産地の表示義務はない。
かくのごとく多くの輸入加工食品が、あたかも国産であるかのようにして販売されている。これが輸入食品を増やし、食料自給率を引き下げる一因になっている。
原料原産地表示の拡大を急げ。【立石幸一・食品表示部会(内閣府の消費者委員会の下部組織)委員】
<例3>国内外で表示が大きく異なる「コアラのマーチ」
子どもらに人気のスナック菓子「コアラのマーチ(いちご)」(ロッテ)は、国産品とほぼ同じデザインで北米やアジアの国々で販売されている。ただし、表示方法は内外で大きく異なる【注】。
<例>脂肪分
①日本・・・・1箱48g当たり「脂質14.1g」
②香港・・・・100g当たり「総脂肪21.7g。うち飽和脂肪11.9g、反式脂肪(トランス脂肪酸)4.8g」
と記されている(1箱41g当たりの含有量はこの4割程度)。
トランス脂肪酸(マーガリンやビスケット類に使われる)は、心臓疾患などのリスクを高める性質がある。WHOは「1日の総摂取エネルギー量の1%未満」という勧告基準を定めている(日本人の場合、脂肪約2gになる)。
香港を含めて多くの国では表示が義務づけられている。香港で買う「コアラのマーチ」は、1箱でWHO基準を上回る量を含んでいることが分かるが、日本で買うそれからは分からない。
「コアラのマーチ」はごく一例にすぎない。食品表示については、日本は世界で最も遅れた国の一つだ。
世界では、近年、二つの方向で加工食品の表示制度が改革されてきた。
(1)「わかりやすい栄養成分表示」・・・・栄養成分表示の義務化はまず米国で1994年にはじまり、いまではきわめて多くの国に広がった。東アジアで義務化していないのは、日本・北朝鮮・ラオスなど、ごくわずかだ。
内容も親切だ。<例>米国では約10項目の栄養素について、包装1個当たり何g含むかとともに、1日必要量の何%に当たるかも表示されている。
(2)「水分を含めた主要原材料と特徴的な原材料の分量の%表示」・・・・EUが2000年にはじめ、すでに50か国程度に広がっている。主要原材料とは、製品の5%超の水・食肉・野菜・果物・乳製品などを意味する。
日本では原材料の%表示は必要ないので「水増し」が横行する。<例>豚肉以外に水分や植物タンパクなどを多量に含んでいても「ロースハム」とされる(正しくは「ハム類似物」と呼ぶべきもの。
【注】「【食】トランス脂肪酸たっぷりの「コアラのマーチ」 ~栄養表示の限界~」
□岡田幹治「日本は食品表示の「劣等生」」(「週間金曜日」2014年10月17日号)
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