語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】消費者より業界に顔を向ける消費者庁 ~食品表示基準(2)~

2014年10月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 (承前)

<例4>加工食品の製造所が意味不明の記号で表示
 昨年末、アクリフーズ(現マルハニチロ)群馬工場製の冷凍食品から超高濃度の農薬マラチオンが検出された。同工場製の冷凍食品は「食べずに返品するよう」呼びかけられた。
 だが、消費者は困った。
 保存していた冷凍食品の工場(製造所)を確認しようとしても、ラベルに製造所の記載がなくて、「J796」とか「SFA25」とかいった意味不明の記号が記されただけの食品があったからだ。
 食品衛生法は、製造所の名称を所在地を記すよう、定めている(表示義務基準)。しかし、「消費者庁長官に届け出た製造所固有記号」で代えることができることになっていて、多くの加工食品がこれを使っている。
 固有番号は業者が勝手につけることができる。同じアクリフーズ群馬工場でも異なる記号がつけられている。
 固有記号は全部で88万もあり、消費者庁でさえ全体を把握していない。事故が発生しても、官庁も正確な慈愛をすぐには掴めない。消費者が食べてしまう可能性があった。
 このため、森まさこ・消費者担当相が見直しを表明したが、とたんに業界が強く反発した。消費者庁は、来年以降も製造所が二つ以上ある場合は認める方針だ。
 業界が反発した理由・・・・固有記号があれば、有名ホテルのオリジナル食品が実は零細な工場で作られていることも隠蔽できるからだ(推測)。
 表示制度に係る日本の遅れは、同じように食品輸入大国である韓国と比べるとハッキリする。以下、韓国の状況。
 (1)原料の原産地表示・・・・258の農産物加工食品について、重さが多い順に二つの原料の原産地を表示することになっている。また、外食店では、牛肉・豚肉・鶏肉・コメ・白菜キムチなど重要16品目は原産地を店内に表示しなければならない。
 この規制は来年6月からさらに強化される。加工食品の原産地表示は上位3原料に拡大。外食店の義務づけも20品目に増える。
 (2)食品添加物の表示・・・・すべての添加物の名称と用途の表示が義務づけられている。日本では「一括名」や「簡略名」が認められているので、どんな物質を使っているか、わからないことが多い【補注】。
 (3)産地偽装の監視・取り締まり体制・・・・日本で昨年JAS法の品質表示基準違反として指導・公表されたのはたった14件だった。他方、韓国では昨年、2,701件もが原産地表示違反で摘発されている。
 韓国では国立農産物品品質管理院などがしっかり監視し、罰則も厳しい。そのうえ、消費者団体や生産者団体から推薦された「名誉(市民)監視員」が19,000人もいて効果を上げている。
 日本の農林水産省には、「食品表示Gメン(特別調査官)」が1,860人いるが、機能しているとは言いがたい。日本は不正のやり得状態なのだ。

 日本の食品表示の欠陥を糺し、遅れを取り戻す好機が3年前に訪れた。8つもの法律で定められていた表示制度を一元化し、食品表示法を制定する作業が2011年に始まったのだ。
 消費者庁はしかし、食品衛生法・JAS法・健康増進法の3法の表示部分の形式的な一元化を主な内容にし、懸案は先送りにしてしまった。不十分な内容の食品表示法は、2013年6月に成立している。
 これを受けて表示基準の策定作業が始められ、消費者庁の原案が7月に公表された。これが問題だらけなのだ。
 <例>「栄養成分表示の義務化」が導入されたが、対象はエネルギー・タンパク質・脂肪・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量で表示)の5項目に限定され、しかも猶予期間が5年もある【注4】。トランス脂肪酸の表示は任意のままだし、分量の%表示は検討もされなかった。
 公募意見を踏まえた最終的な検討が食品表示部会で9月24日に始まったが、それに先立つ8月27日、消費者庁は、原案の一部を業界寄りに改めた修正案を自民党に示した【注5】。同庁は消費者の要望に耳を傾ける気はないらしい。
 消費者庁が2009年に創設されると、要職は農水省や厚労省からの出向者が占め、業界優先で縦割りという旧態依然の行政が行われた。その象徴が食品表示法だ。
 消費者庁の姿勢は、第二次安倍晋三内閣の発足(2012年末)後、より露骨になった。第三期食品表示部会(2013年11月~)では、それまで委員を務めていた山根香織・主婦連合会会長ら消費者団体関係の3人が外された。
 部会では、池原祐二・委員/食品産業センター企画調査部次長がただ一人、部会の下に設置された3つの調査会すべての委員になるなど、重きをなしている。食品産業センターは、全国の食料品・飲料メーカーとその業界団体による中核的・横断的組織だ。
 食品表示部会や調査会の審議では、トランス脂肪酸の表示問題などは議論そのものを封じ、消費者庁案を強引に通そうとする場面も見られた。
 「事業者庁」に改名すべし、という声が出ている。

 【補注】変な表示の例(「食品表示を考える市民ネットワーク」などが指摘)
(1)加工食品の原料原産地表示
 ①22食品群(モチ、コンニャクなど)と②4品目(農産物漬物、ウナギ蒲焼きなど)で、①では重さの割合が50%以上の原料にだけ表示義務がある。
 ・スーパーなどで売られているカット野菜は、複数野菜の詰め合わせになると加工品となり、<例>国産レタス40%、輸入キャベツ30%、輸入タマネギ30%だと原産地表示の義務がない。
 ・中国産煎りゴマとベトナム産チリメンジャコを日本で混合した食品は、国内で実質的な変更が行われたと見なされ、原産国は日本となって表示は不要。
 ・刺身は生鮮品なんどえ原産地表示が必要だが、刺身盛り合わせは対象外となり、表示義務がない。
 ・缶詰・瓶詰・レトルト食品は、原料の品質の差異の影響を受けないという理由で対象外。

(2)遺伝子組み換え(GM)食品の表示
 ①8つの農作物(大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタなど)と②それらを原料とする33食品群が表示の対象になっている。しかし、以下のような例外があるので、ほとんど表示されない。このため、消費者は知らぬうちに大量のGM食品を口に入れている。
 ・検査で検出できない食品(GMナタネなどを原料とする食用油、GM大豆が原料の醤油やコーンフレークなど)は対象外。対象になるのは、大豆なら豆腐・納豆・味噌など、トウモロコシならコーンスナック菓子程度。
 ・多種類の原料からなる加工食品では、重量で上位3つのGM品目だけが表示対象。5%までの混入は許容され、「遺伝子組み換えでない」と表示できる。
 ・牛・豚・鶏などの飼料はほとんどがGM作物(主にトウモロコシ)だが、飼料も表示の対象外。
 ・「不分別」という曖昧な表示も許容されている(たいていはGM作物を含む)。
 ・EUでは、Gm作物を使用したすべての食品は表示が義務づけられている。意図せざる混入も許されるのは0.9%まで。レストランなどでメニューに示されている。EUではGM食品はほとんど流通していない。

(3)食品添加物の表示
 「一括名」や「簡略名」が許されていて、すべての物質名が表示されることはほんとんどない。したがって、できるだけ食品添加物を避けたいと思っても、知らぬ間に食べてしまう可能性がある。
 ・同じ目的で同じ効果が認められる物質をいくつも使った場合は一括名でよい。一括名で表示できる添加物は、「調味料(アミノ酸等)」(62物質)、「pH調整剤」(34物質)など13種類。このような表示を許しているのは、主要国では日本だけだ。
 ・用途付きで物質名が表示されないため、「保存科不使用」といった詐欺的な表示が横行している。この表示の場合、ソルビン酸などの保存料を使わない代わり、保存効果のある添加物(グリシン、酢酸ナトリウムなど)を多量に使用していることが多い。

□岡田幹治「日本は食品表示の「劣等生」」(「週間金曜日」2014年10月17日号)
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 【参考】 
【食】日本は食品表示の劣等生 ~食品表示基準~

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