(7)ウクライナ
今後ウクライナ情勢がいかに推移するかは、イラクやシリアの動きともおおいに関わっている。
7月17日、マレーシア航空機が墜落した。ドネツク州(ウクライナ東部)の上空で。さまざまな情報を総合すると、同地域を支配する親ロシア派武装集団が地対空ミサイルで撃墜したらしい。
この親ロシア派武装集団に対して積極的な工作を行っているのはロシア軍参謀本部諜報総局(GRU)らしい。これを黙認してきたプーチン政権の責任は重い。
同時に、対話ではなく、親ロシア派の支配地域に空爆を行うなど、内戦をエスカレートさせたウクライナ政府の責任も重い。今のウクライナ政府は、自国の領域を実効支配できていないし、首相の辞任すら収拾できないなど、破綻国家の要素が濃い。
【重要】この事件によって、米国が対ロシア批判を強め、米露関係が決定的に悪化したことだ。ここにつけこんで、最大限に利用するのがISISだろう。米露がにらみ合い、中東で動きが撮れない中、支配領域の拡大を図るはずだ。
※中東とウクライナに共通しているのが、共にエネルギーが深く関わっていることだ。欧州にしてみれば、ロシアから天然ガスを輸入するパイプがウクライナを通るわけだ。これはエネルギーの危機管理上困る。何とかしなければならない。そこで、中東の天然ガスを欧州に持ってこようとしている。シェールガス革命で米国が中東からあまり天然ガスを買わなくなってしまったので、中東が欧州に安く売ろうとする動きがある。今、アゼルバイジャンからトルコを通る南側のルートを作っている。
プーチンは、ウクライナ併合の考えはない。そもそもウクライナ経済はボロボロだし、ロシアは十分に広い。領土的な魅力は感じていない。
※ウクライナを抱え込んでしまったら、国境線で西側と直接接することになってしまう。緩衝地帯としてウクライナがあってくれたほうが都合がよい。
ロシア人の感覚として、モスクワを中心として、西へ行けば行くほど貧しくなる。特に西ウクライナは山岳地帯で、中央ウクライナと比べて収入も6割くらいしかない。
※そもそも「ウクライナ」は、「田舎」「地方」の意だ。
ウクライナは、ガリツィア(西ウクライナ地域)とそれ以外の地域とを分けて考えねばならない。ガリツィアは、1945年にソ連赤軍が入るまで一度もロシア領になったことがない。歴史的にはハプスブルグ帝国(オーストリア=ハンガリー)に属し、その後はポーランド領だった。この地域の人たちはウクライナ語を日常的に話し、宗教はカトリック、しかもユニア教会(東方帰一教会)だ。イコンを崇拝し、下級聖職者の妻帯を認めるなど、正教の習慣を大幅に取り入れている。しかし、ローマ教皇に従う特別なカトリック教会だ。
※ここでも宗教が重要なファクターになってくる。
【問題】第二次世界大戦のとき、ウクライナはナチス・ドイツに占領され、30万人のウクライナ兵がナチス側で、ソ連軍と戦った。ソ連は、ナチスに協力した幹部連中を皆殺しにし、ユニア教会に入っている者は逮捕する政策をとった。ために、ユニア教会とナチスに協力した勢力が西ウクライナの山や森にこもり、1950年代半ばまで反ソ武装闘争を続けていた。
それに対して、東部や南部のウクライナ人は、日常的にロシア語を喋ってロシア正教を信仰し、自分たちがウクライナ人なのかロシア人なのかをつき詰めて考えていない。もともとウクライナはこうした断絶を内部に抱えていた。
※西部の人からすると、自分たちは欧州の人間で、ソ連に力で併合された、という歴史を持っていた。一方、EU側は貧しいウクライナを引っ張り込もうとしていた。なぜか。冷戦後、東欧の社会主義国が崩壊してから、EUは東へ拡大し続けてきた。そこで魅力だったのは、チェコ、スロバキア、ポーランドの低賃金労働力だった。ところが、次第に旧東欧諸国の賃金も上がってきて、ついにウクライナに至った、ということだ。
【注】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。
□池上彰/佐藤優「特別対談 戦争を知らなければ世界は分からない」(「文藝春秋SPECIAL」2014年秋号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東(2)~ 」
「【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東~」
今後ウクライナ情勢がいかに推移するかは、イラクやシリアの動きともおおいに関わっている。
7月17日、マレーシア航空機が墜落した。ドネツク州(ウクライナ東部)の上空で。さまざまな情報を総合すると、同地域を支配する親ロシア派武装集団が地対空ミサイルで撃墜したらしい。
この親ロシア派武装集団に対して積極的な工作を行っているのはロシア軍参謀本部諜報総局(GRU)らしい。これを黙認してきたプーチン政権の責任は重い。
同時に、対話ではなく、親ロシア派の支配地域に空爆を行うなど、内戦をエスカレートさせたウクライナ政府の責任も重い。今のウクライナ政府は、自国の領域を実効支配できていないし、首相の辞任すら収拾できないなど、破綻国家の要素が濃い。
【重要】この事件によって、米国が対ロシア批判を強め、米露関係が決定的に悪化したことだ。ここにつけこんで、最大限に利用するのがISISだろう。米露がにらみ合い、中東で動きが撮れない中、支配領域の拡大を図るはずだ。
※中東とウクライナに共通しているのが、共にエネルギーが深く関わっていることだ。欧州にしてみれば、ロシアから天然ガスを輸入するパイプがウクライナを通るわけだ。これはエネルギーの危機管理上困る。何とかしなければならない。そこで、中東の天然ガスを欧州に持ってこようとしている。シェールガス革命で米国が中東からあまり天然ガスを買わなくなってしまったので、中東が欧州に安く売ろうとする動きがある。今、アゼルバイジャンからトルコを通る南側のルートを作っている。
プーチンは、ウクライナ併合の考えはない。そもそもウクライナ経済はボロボロだし、ロシアは十分に広い。領土的な魅力は感じていない。
※ウクライナを抱え込んでしまったら、国境線で西側と直接接することになってしまう。緩衝地帯としてウクライナがあってくれたほうが都合がよい。
ロシア人の感覚として、モスクワを中心として、西へ行けば行くほど貧しくなる。特に西ウクライナは山岳地帯で、中央ウクライナと比べて収入も6割くらいしかない。
※そもそも「ウクライナ」は、「田舎」「地方」の意だ。
ウクライナは、ガリツィア(西ウクライナ地域)とそれ以外の地域とを分けて考えねばならない。ガリツィアは、1945年にソ連赤軍が入るまで一度もロシア領になったことがない。歴史的にはハプスブルグ帝国(オーストリア=ハンガリー)に属し、その後はポーランド領だった。この地域の人たちはウクライナ語を日常的に話し、宗教はカトリック、しかもユニア教会(東方帰一教会)だ。イコンを崇拝し、下級聖職者の妻帯を認めるなど、正教の習慣を大幅に取り入れている。しかし、ローマ教皇に従う特別なカトリック教会だ。
※ここでも宗教が重要なファクターになってくる。
【問題】第二次世界大戦のとき、ウクライナはナチス・ドイツに占領され、30万人のウクライナ兵がナチス側で、ソ連軍と戦った。ソ連は、ナチスに協力した幹部連中を皆殺しにし、ユニア教会に入っている者は逮捕する政策をとった。ために、ユニア教会とナチスに協力した勢力が西ウクライナの山や森にこもり、1950年代半ばまで反ソ武装闘争を続けていた。
それに対して、東部や南部のウクライナ人は、日常的にロシア語を喋ってロシア正教を信仰し、自分たちがウクライナ人なのかロシア人なのかをつき詰めて考えていない。もともとウクライナはこうした断絶を内部に抱えていた。
※西部の人からすると、自分たちは欧州の人間で、ソ連に力で併合された、という歴史を持っていた。一方、EU側は貧しいウクライナを引っ張り込もうとしていた。なぜか。冷戦後、東欧の社会主義国が崩壊してから、EUは東へ拡大し続けてきた。そこで魅力だったのは、チェコ、スロバキア、ポーランドの低賃金労働力だった。ところが、次第に旧東欧諸国の賃金も上がってきて、ついにウクライナに至った、ということだ。
【注】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。
□池上彰/佐藤優「特別対談 戦争を知らなければ世界は分からない」(「文藝春秋SPECIAL」2014年秋号)
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【参考】
「【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東(2)~ 」
「【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東~」