手が掛かるわりには、すき好んで食べる人間も減っているし、二日からデパートもやってるってんで、すでに本邦の2割の人間が「おせちを食べない」という。好きな時間にノソノソ起き出して、家族それぞれが勝手なものを食べるのだというが、そういうのは真っ平御免。
アンシャン・レジームと言われようが、季節感がなくなっている今、せめて正月の寿ぎの食卓ぐらいは残っていて欲しいとせつに思う。
だが、それは一般論としてであり、リアルに我が実家に話が及べば、
キキ、キィ---ッ!と急ブレーキを踏まねばならん。
実家には昭和の御世と共に齢を重ねる父がまだ健在で、自炊を行っている。だが衛生観念は戦後のドサクサのままである。この人物に食品偽装は存在しない。消費期限などハナからない。冷蔵庫を開ければ臭気と共に出てくるわ、出てくるわ…よそう、気分が悪くなってきた。
正月を実家でおくるには、まず前もって帰郷し、人間ホイホイと化した台所の床や放置された使用済み食器、こぼし放題の油などから大掃除に取り掛からねばならぬのだ。
毎年のように「来年はおせちはやめときましょう」「ああ、やめとこう」という話になるのだが、父は例年この台所でなにがしか作っていて、始末の悪いことにそいつを我々に勧めるのである。断れば怒る。
あの台所にして、一週間も前に作って北向きの部屋に置いてあったお重をである。寒いったって冷蔵庫に勝るはずはない。カビも生える。プンと匂いもする…よそう、熱が出てきた。
そんな訳で知人の助言もあり、今年は掃除の段階でお重を奪って帰ることにした。「今年は全部こちらでやりますから」と。だが先に実家に着いた兄一家からメールが入った。【も、もう…おせちが出来ている…】
なぬ~ッ!?し、しまった、実家にゃもう一つお重があったのを忘れてたぁ~
てなわけで、「一刻も早く、そちらのおせちの到着を待つ…S・O・S…」プププの緊急信号を受けて、地球防衛軍の制服の代わりにエプロンをサッと巻き、ヨメは我が家の台所にスクランブル発進した。
いやまぁ、ゴロ寝してたのが起きただけだが。
今年は食あたり防衛省に強い助っ人が来た。それがこいつだ!
山田洋行あいや、某、AK金属から貸与された圧力鍋である。これが威力を発揮するのである!
♪~ラララ、シチューも1分間、大豆も1分間…と歌われる鍋だ。
奥さん、今だに圧力鍋が怖いなんて言ってませんか?とんでもない。
ワシャ、ジャパネットたか○か!
これがなかなかスグレ物で簡単で早いっちゅうの。
仕事上、貸与してもらったんだけど、このまんま安く譲って下さいと
土下座でもしてみるつもり。安いなぁ~オレの土下座。
実家から奪ってきた古い四段重。ど~んとまるで京間の畳のように
でかい。一見薄汚いが、中は塗り直してあったりする。
そもそもおせち料理とは戦国時代に始まり、埦飯(おうばん)とよばれた公家などの饗応の膳であった。これが江戸時代に「大盤振舞い」に転じ、泰平の世の中に於いて、下々でも年始第一の祝儀として定着し、相互の親睦に役立ったと飲食事典にある。
一の重はレギュラー陣 黒豆は岸澤屋製
二の重 煮〆関係 人参は鍋の威力で柔らかくなり過ぎた。
野菜の多くは錦の八百屋で買った。
三の重 北京五輪を夏に控え、日中友好を盛り上げていこうと
中華関係。
四の重 え~っ、こんなのが?って言われたりするが、
ヒレカツは実家の定番
他に酢蓮、なます、到来物のかもロース。
なくてもいいけど、あれば食卓が華やかになるおせち。
そこにあるとなんだか落ち着く気がするのが、何百年も続く
伝統というものなのだろう。
何重も揃えなくとも、せめて三品ぐらいは前菜に出して欲しいものだ。
お雑煮は父が頑として譲らぬ、東京風。
いろいろ入れるは邪道とする。でもあたしゃ白味噌も食べてみたい。
酒を飲むので、うちは最後に出る。
カマンベール、ミモレットでシードル(林檎の発泡酒)、白、赤ワイン。
純米酒、麦焼酎。
エビスのグリーンラベルがキレがあって美味かった。
四段の重は二回の食卓できれいさっぱり完食。こうでなきゃ。
ただ親爺からは、美味いも不味いもへったくれも何にも反応なし。
やり甲斐のないこと夥しい。
親爺作の三段重は元旦の席で覇権を争うこともなく、
静かにご自分の酒のアテとなっていることだろう。
幸いにして彼が自作であたったと、きいたことはない。
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貴兄のいう通り、考えようによっちゃ、うちの尊父はおせちの思い出を作ってくれているとも考えられるわけで、後々まで「おせちでは苦労させられたなぁ…」っちゅう正月のトークネタを提供してくれているのです。
そう思えば腹も立たないかといえば、やっぱ立つのでありますが…無責任な外野席は「お父さん、可愛いやん」とか言うのでありますが、「どこが!」
でもそう長いこと、この先くりかえせるものでもない気がいたします。
徹底抗戦して解からせようなんて気持ちはもうなくなりました。
安芸国住人でございます。
時々よだれを垂らしながらブログを拝見しております。
やっぱり正月はカレーもいいけどおせちですよねえ。
これほどお国柄いやお家柄が顕著に出る料理もないっすよねえ。
雑煮も我が家では関西風と九州風が対立しております。
料理の謂れ、思い出などあーやこーや言いながらお重をつつくのもおせちならではのささやかな幸せっちゅうもんですなあ。