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迫真の展開

2015-11-01 02:41:33 | 


安生 正「ゼロの迎撃」宝島社文庫 2015年刊
「生存者ゼロ」の作者が書いた、北朝鮮のテロ攻撃に情報自衛官が立ち向かうという設定。舞台は東京23区。こうした設定でよく点検すると、我が首都はテロ攻撃に対して無防備に近い脆弱性が浮かび上がってくる。攻撃対象は何も原発だけでなく、共同住宅、工場、治水施設、送電線、鉄道網、などなどいたるところにある。それだけではなく、政治中枢でのセクショナリズム、民主主義の緩慢さなどの危機感をかんじさせる。

こうした仮定的なシュミレーションともいうべき本小説はエンターテイメントとしては面白い。しかしだからといって、自衛隊の暴走を許すような法改正をすべきではないだろう。官僚は既得権の死守と拡大に全力を挙げ、政治家は選挙区の人気取りに邁進する。これは現制度のままでは確かに現実である。一方自衛隊はこの小説では、唯一危機感を持ち祖国防衛に邁進するという設定である。政治制度はやはり性悪説にたった制度設定でないと国の形として不安を禁じ得ない。ここでも政治家は、最後のところでトップたるものが良識と責任感を発揮して問題解決に向かうという筋書きであるが、3.11の福島事故の対応を見る限り、このようなことは起こりえない。

とまあ、フィクションでありながらいろいろ考えさせられた小説であった。行政組織、治水安全体制、自衛隊組織、武器描写など、デティールの部分描写が忽せになっていないので、リアル感が増している。前作より磨かれているのではないか。