自在コラム

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☆伊勢志摩の肝(きも)-中

2016年05月04日 | ⇒ドキュメント回廊
 2日目は伊勢神宮の内宮(ないくう)=写真・上=と外宮(げくう)を訪れた。いにしえより「お伊勢さん参り」は日本人の心をつかんで離さなかった聖地巡礼の場だ。おそらく我が家の遠い先祖たちも参拝しただろうと想像すると緊張感も湧いてくる。

   伊勢神宮の常若(とこわか)の精神とは何か

  チャーターしたタクシーの運転手がガイドを買って出てくれた。外宮、内宮の順で回った。外宮の境内にある「風宮(かぜのみや)」。神職が落ち葉がきをしていた=写真・下=。白木の社と白装束が相まってなんとも凛とした光景だった。風宮は別宮(わけみや)という格式で正宮に次ぐ序列だとか。もともとは末社だったが、1281年の元寇(蒙古襲来)の時に神風を起こし日本を守ったとして「昇格」したとのこと。神様にも論功行賞があって面白い。

  有名なスポットでありながら、何も知識がなかったことに愕然としたことが多々あった。その一つが「式年遷宮」だ。実際に見ての第一印象がどの社殿も「新築物件」ということ。茅葺の屋根、ヒノキの柱などがみずみずしい。125の社殿がすべて建て替えられた。テレビなどのメディアで流される式年遷宮のイメージでは、皇大神宮(内宮)や豊受大神宮(外宮)の主だった社殿だけかと勘違いしていた。パンフによると、宮社だけでなく714種1576点におよぶ神様の衣装や服飾品、さらに太刀や鏡など調度品もすべてリニューアルしているのだ。

  伊勢神宮は20年ごと定期的に。飛鳥時代の持統天皇が第1回目の式年遷宮(690年)を実行し、平成25年(2013)10月の式年遷宮は実に62回目だった。1300年余りの歴史がある。ちなみに、出雲大社の遷宮は概ね60年に一度。これは伊勢神宮のように式年(定められた年)ではなく、社殿に損傷が進んだ時に行う、流動的なもので60年目安ということらしい。

  それにしても、総建て替えで要するヒノキだけで1万5千本。式年遷宮全体の費用は建築、衣服、宝物の製作を含め約550億円(330億円が伊勢神宮の自己資金、220億円が寄付)とされる。「なぜ20年なのか」とガイドの運転手に尋ねると、「ここでは常若(とこわか)の精神と言うんです」と。「常若」、初めて聞いた言葉だ。さらにこう説明してくれた。「建物がいまだ使えても、いずれ老朽化します。老朽化は神道では穢(けが)れでなんです。式年遷宮によって、建物を新しくすることにより神様の生命力を活性化させる。これが常若なんです」

  確かに昔は人生50年と言われ、建築の技術を次世代に伝えるには20年というサイクルが適当だったのかもしれない。また、全国の神社の総元締的な存在の伊勢神宮である。古材で使用可能なものは、たとえばヒノキの柱などは鳥居として末社に下げ払いされる。リサイクルとして全国に波及する効果は大きい。

  ふと思った。おそらく参拝したであろう先祖たちはこの伊勢神宮に来て、何を思っただろうか。式年遷宮=常若の意味を自ら考え、家督を早く息子に譲ろうと考えたかもしれない。あるいは、自宅を建て替えようと考えたかもしれない。私は、今の日本に必要なのは、この常若の精神ではないかと考えた。若者たちに活躍するチャンスを与える。起業やベンチャー、なんでもいい、税制や資金面で支援を受けて、若者が総活躍する社会だ。伊勢神宮はいろいろなことを考えさせてくれる。

⇒4日(水)伊勢志摩の天気   はれ

  

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