自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★2014ミサ・ソレニムス~5

2014年12月28日 | ⇒ドキュメント回廊
  金沢大学では地域連携推進センターに身を置いて、よく珠洲市に通っている。知人や友人にそのことを話すと、「能登半島の先端で何をしているのか」とよく問われる。きょうはそのことを述べたい。金沢大学が三崎町の旧・小泊小学校の施設を珠洲市から借りて、「能登学舎」=写真・上=を開設して来年で9年目となる。2006年6月、生物多様性調査プログラム「能登半島 里山里海自然学校」を奥能登でスタートさせるための拠点を探していた。当時、珠洲市から紹介された旧校舎の背後に田畑や山林があり、3階の教室の窓からは海が眺望でき、「この場所こそ里山里海を学ぶ環境にふさわしい」と直感したものだった。

    ~ なぜ能登に通っているのか、能登にはすべきことが多様にあるから ~

 金沢大学では角間キャンパスの丘陵地に「角間の里山自然学校」(開設1999年)を設け、教育と研究、社会貢献を推進する「里山里海プロジェクト」(研究代表・中村浩二特任教授)を進めてきた。「能登半島 里山里海自然学校」は能登半島への第一歩だった。里山里海自然学校で実施したことは、生物多様性(植物・昆虫・鳥類・水生生物・キノコなど)の調査を市民と常駐する研究スタッフ(博士研究員)がいっしょになって調査するオープンリサーチ(協働調査)という手法だった。休耕田を利用した水辺ビオトープづくりや、雑木林を整備するキノコの山づくりを、地元のみなさんと進めてきた。このほか、トキやコウノトリが舞う能登の里山復興を目指した基礎研究や、「旅する蝶」アサギマダラの調査を通じた子供たちへ環境教育、郷土料理を通じた食育活動など多岐にわたった。こうした珠洲市の市民の協働活動の実績を踏まえて、NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海が2008年に設立された。

 能登は里山里海の自然資源、多様な生業(なりわい)とそれに伴う伝統行事や文化に恵まれているが、一方で過疎・高齢化などの問題に直面している。こうした地域の課題に対応し、地域活性化や再生に活かす地域人材を育てる事業が、2007年に能登学舎でスタートした「能登里山マイスター養成プログラム」だった。養成対象は社会人(45歳以下)で、5人の教員スタッフが駐在して指導している。2年間のカリキュラムで講義と実習を通し、環境配慮の農業や農産物に付加価値をつけて販売する「6次化」のノウハウや、地域の伝統文化や海や山の自然資源をツーリズムへと事業展開する方法などを学ぶ。2012年3月までの5年間で62人が修了、うち14人が県外からの移住者だった。地元自治体(珠洲市、輪島市、穴水町、能登町)から事業継続の要望があり、2012年10月から後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」を実施している。首都圏から能登空港を経由して通う受講生や金沢方面からの受講生も増えたため、濃縮したカリキュラムに工夫して月2回・1年間のコースに改編した。2014年9月まで7年間通算して107人の修了生が能登学舎を巣立った。

 ほかにも、里山里海の「いきもの」と人々の繋がりを伝える「能登いきものマイスター養成講座」や、3年間で1000人の学生や研究者を能登に呼び込む調査交流を目的とした「のと半島里山里海アクティビティの創出」などの事業を実施した。こうした人材養成や交流活動の実績が、能登の里山里海とその文化を「SATOYAMA、SATOUMI」として世界に発信する事業活動へと展開している。

 能登学舎を訪れた2人の国連関係者の方を紹介する。まず、アフメド・ジョグラフ氏。2010年の国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10、名古屋市)の事務局長を務められた方で、2008年9月に能登半島を視察された折に、能登学舎で「能登里山マイスター養成プログラム」の自然と共生する人材養成の取り組みに耳を傾け、「里山里海自然学校」が造成したビオトープを視察した=写真・下=。続いて、国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(世界重要農業遺産システム=GIAHS)の創始者で事務総長だったパルビス・クーハフカーン氏は2010年6月視察に訪れた。COP10では、日本からの提案で「SATOYAMAイニシアティブ」が採択され、日本の里山が注目されるようになった。2011年6月、FAOの世界農業遺産に「能登の里山里海」が日本で初めて佐渡とともに認定さた。認定に先立つFAOからの現地視察で、生物多様性など自然との調和を掲げた農業人材の育成に取り組む「能登里山マイスター養成プログラム」が、GIAHSコンセプトである持続可能な地域社会づくりに寄与するとして、高い評価を受けた。

 こうした流れを受け、2010年より、国際協力機構(JICA)の研修「持続可能な自然資源管理による生物多様性保全と地域振興~SATOYAMAイニシアティブの推進~」が石川県で実施され、能登学舎は受け入れ拠点の一つとなっている。里山里海プロジェクトの活動の評価と実績が認められ、2013年度からのJICA草の根技術協力事業として、「フィリピン『イフガオの棚田』の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援」事業が採択され、能登で培われた人材養成の手法が海外へ移出展開することになるきっかけとなった。

 2014年8月、能登学舎を拠点に「学長と行く能登合宿」が実施された。2泊3日で学生40人余りが能登学舎周辺の小泊地区を中心としたお宅に民泊をさせていただきながら、山崎光悦学長と学生が珠洲市の山林で草刈りなど保全活動を体験した。山に入り作業を行うのはほとんどの学生たちにとって初めての経験だったが、チャレンジする心、精神力というものをこの場で得たようだ。能登の里山里海のフィールドを学生たちの「人間力」を鍛錬する場としても今後とも活用していく計画。これは「COC(地<知>の拠点整備事業)と呼ばれるプロジェクトの一環で、学生たちが地域に学び、地域のニーズと大学の研究を結ぶことで地域の課題解決を目指す、また、社会人の生涯教育を充実させる、3つのプログラムが成っている。珠洲市役所に隣接してCOC事業のサテライトプラザが新たに開設された。今後、金沢大学の学生・研究者が珠洲に行き交う光景がさらに増えることになる。

 2014年10月、珠洲市により寄付された「能登里山里海研究部門」が新たに金沢大学に設けられ、特任准教授と特任助教が能登学舎に着任した。これまでも、能登の里山里海研究を推進してきたが、これらの成果を活かし、さらに多様な専門性をもつ研究者の参画を得て、「能登の里山里海」の学際的評価を行うことになる。とくに、地域の自然や文化資源の調査活動などを通して、地域社会の活性化や自然共生型のライフスタイル、持続可能な地域社会と人づくり、里山里海をテーマとした国際的なネットワークの構築、地域課題の解決に向けた政策の提言などを目指す。こうした研究の成果をシンポジウムなど通じて、市民や行政に還元していく。

 能登学舎から見える里山里海の風景が心なしか明るくなっているように思えます。それは人の往来が少しづつではあるが、にぎやかになっているからだ。県内外、国内外の人々が能登を目指して、学びにやってきている。もうしばらくは能登通いが続く。

⇒28日(日)正午・金沢の天気  くもり

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆2014ミサ・ソレニムス~4 | トップ | ☆2014ミサ・ソレニムス~6 »

コメントを投稿

⇒ドキュメント回廊」カテゴリの最新記事