このブログでは「不都合な真実」という言葉をたびたび使っている。一見して正論のように見えて、奥にはとてつもない矛盾やたくらみがあったりするとそのような表現をする。アメリカのクリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴア氏が主演するドキュメンタリー映画『不都合な真実 (An Inconvenient Truth)』で、地球温暖化の裏側で起きている石油業界と政治の癒着を指摘した。15年前に鑑賞した映画だった。
今また不都合な真実が見えてきた。総理官邸公式ホ-ムページに掲載されている松野官房長官の記者会見(3日午後)=写真・上=で、産経新聞記者から質問があった。それは、北京オリンピックで新型コロナウイルス感染など健康状態を管理する中国の公式アプリについて、すでに7ヵ国1000人の選手は情報の抜き取りなどを懸念して「使い捨てスマホ」に切り替えているとして、日本政府の対応を質した。これに対して、松野官房長官はスポーツ庁がJOCを通じて選手側に対し、帰国後は速やかにアプリを削除するなどの注意点を伝えていることを明らかにした。
中国は各国の代表団やメディアに対し、入国14日前に公式アプリ「MY2022」のスマホへのインストールを義務づけ、入国後は毎日の体温の登録などを求めている。ところが、このアプリについては中国当局による監視や情報の抜き取りへの懸念が広がっている。BBCニュースWeb版(1月18日付)は「Winter Olympics: Athletes advised to use burner phones in Beijing」(北京冬季五輪: 必須アプリのセキュリティーに懸念 プリペイド携帯使用を推奨する国も)の見出しで特集を組んだ=写真・下=。サイバーセキュリティーの研究団体によると、問題のアプリには「検閲キーワード」が埋め込まれているのが見つかった。検閲キーワードは発信者がその言葉を使った場合、当局が発信者の氏名や内容などをチェックできるとされる。
こうしたことを重く見たアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、スウェーデン、スイス、オランダの欧米各国は、中国の通信回線を通じて個人情報が盗まれたり、行動を監視されることを警戒し、自国選手に個人所有のスマホやノートパソコンを持ち込まないようにと注意し、プリペイド携帯に替えるよう呼びかけているという。上記の松野官房長官の発言も、アプリは必要最小限の使用にとどめ、帰国後は速やかにアプリを削除することや、アプリを導入する端末を別途用意するのが望ましいこと、さらに違和感があった場合は「内閣サイバーセキュリティセンター」などに連絡するよう呼び掛けた。
では、中国はどのような情報を入手したいのだろうか。以下は憶測だ。オリンピック選手には軍の関係者もいる。たとえば、今回の北京オリンピックではバイアスロンとクロスカントリースキーの2種目の日本代表選手のうち7人が自衛隊所属だ。中国とすれば、どのような会話や情報が7人の中で、あるいは自衛隊本部と交わされているのかチェックしたいのではないか。あくまでも憶測だ。健康管理アプリという名の情報管理アプリ、まさに不都合な真実だ。アプリは必要最小限の使用にとどめ、帰国後は速やかに削除することを願う。
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