自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆平成最後の年末、レクイエム回顧~その4

2018年12月28日 | ⇒ドキュメント回廊

     「キャッシュレス」も今年よく耳目で触れた言葉かもしれない。テレビや新聞によると、その先進事例は中国で、スマートフォンによる決済が進んでいて、マクドナルドでは現金レジがない店もあるようだ。さらに、食材市場の個人商店などでもQRコード決済が可能で、キャッシュレスが日常の光景になっている。この傾向は世界的に進んでいて、日本だけが「キャッシュレス文明」に乗り遅れてしまうと言わんばかりの少々自虐的なメディアの論調ではある。

     日本は「キャッシュレス文明」に乗り遅れているのか    

   そもそもキャッシュレスは物理的な紙幣や硬貨の現金ではない支払い手段のことだと自身は解釈している。プリペイドカードなど電子マネー(前払い)で買い物をし、電車やバスに乗車する。クレジットカード(後払い)で家電製品を買ったりもする。私は持っていないがデビットカード(即時払い)でレストランで食事を楽しんでいる友人たちもいる。このほか、電気料金や水道・ガスなどの公共料金などは自動引き落としだ。すでに身の回りはキャッシュレスだ。さらに、住宅ローンなどは銀行口座間での送金となっていて、支払い総額の高い比率がすでにキャッシュレス化している。

   それでも、日本のキャッシュレス化は低い。経済産業省の『キャッシュレス・ビジョン』(2018年4月)によると、世界各国のキャッシュレス決済比率では韓国が89.1%でトップ、2位中国、3位カナダと続く。日本は18.4%にとどまる。韓国では、年商240万円以上の店舗にクレジットカードの取扱義務を課しているほか、硬貨の発行や流通にコストがかかることから「コインレス」に取り組み、消費者が現金で買い物をした際のつり銭を、直接その人のプリペイドカードに入金する仕組みを国家の政策として進めている(『キャッシュレス・ビジョン』より)。
 
   日本でキャッシュレス化が進まないのは貨幣(お金)に対する日本人独特の意識と文化があるのかもしれないと考察している。その典型的な事例が「新券」という考えだ。俗にいうピン札だ。結婚や出産のお祝いの慶事の熨斗袋や、習いごとの月謝袋にはピン札を入れる。同じ1万円札なのに何故に、と他国の人々は不思議がるかもしれない。新券に気持ちを込めるという文化があるのだ。もう一つは治安のよさだろう。スウェーデンのキャッシュ決済比率も48.6%と高い。この背景に、現金を扱う金融機関や交通機関などで強盗事件がかつて多発したことから、犯罪対策としてキャッシュレス化が推進された(『キャッシュレス・ビジョン』より)。

   では、日本でキャッシュレス化を進めるメリットはどこにあるのだろうか。よく分からない。プリペイドカードの枚数が増えて混乱するのは消費者の方だ。根深いところでは、自然災害が多発する日本で送電網が絶たれた場合、プリペイドカードやクレジットカード、デビットカードは果たして使えるのか、機能するのか。それより手元に現金があったほうが安心なのではないか、という深層心理が日本人のどこかにあるのではないだろうか。小銭を財布の中で探すのは時間がかかり、おっくうではあるが。  ※写真は経済産業省『キャッシュレス・ビジョン』(2018年4月)より。

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