自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆民俗文化を残す、至難の業

2018年12月01日 | ⇒トピック往来

   審査待ちが長引きようやく決まったという印象だ。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」が登録されることが決まった。実際に見て、身近に知る伝統行事でユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、奥能登の農耕儀礼「あえのこと」(2009年)、七尾市の青柏祭が「山・鉾・屋台行事」(2016年)、そして輪島市と能登町の「アマメハギ」が今回登録された。3件ともすべて能登半島で連綿と守られ、続いてきた民俗文化なのだ。

    秋田ではナマハゲと称され、能登ではアマメハギと言う。節分にあたる2月3日に能登町秋吉地区で行われるアマメハギは高校生や小中学生の子どもが主役、つまり仮面をかぶった訪問神に扮する。囲炉裏やこたつに長くあたっているとできる「火だこ」のことをアマメと言い、能登では怠け者のしるしとされる。この火だこを「いつまでこたつにあたっているのだ」と剥ぎ取りに来るのがアマメハギである。主役は子どもたちなので驚かす相手は幼児や園児になる。幼児が怖さで泣き叫ぶ、その場を収めるために親がアマメハギにお年玉を渡す。

    この伝統行事は子どもたちへの小遣い渡しの行事でもあった。伝統行事を世話している地域の方からこんな話を聞いたことがある。かつて、アマメハギ行事での子どもたちへの小遣い渡しが教育委員会で問題となり、行事を自粛するよう要請されたこともあったそうだ。このことがきっかけで実際に自粛して、伝統行事が途絶えた地区もあったという。

    地域の民俗文化や伝統行事は社会現象によって衰退するケースが多々ある。そのほかにも、能登では伝統行事の男女平等が問われたことがある。奥能登では夏から秋にかけてキリコ祭りが盛んだが、併せて家々ではヨバレという客に対する「もてなし」がある。その際の祭りのご馳走をゴッツオと呼び、数日前から嫁、姑の女性たちが仕込みに入る。キリコ祭りのゴッツオをつくっている女性たちが祭りを楽しめないのは不平等ではないかとの声が上がり、ヨバレをしない家も増えてきた。このアマメハギでも、幼児を不必要に恐怖に陥れるのは「虐待ではないか」との声がないわけでもない。

    民俗文化や伝統の行事というのはそうした時代の尺度にさらされながら、しぶとく生き残ってきたのだろう。今回のユネスコ無形文化遺産の登録でアマメハギは国際評価を得た。少子高齢化と過疎化で伝統行事の継承そのものもが危ぶまれていたときだけに、何とか踏みとどまるチャンスを得たのではないだろうか。

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