自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★2012ミサ・ソレニムス~7

2012年12月30日 | ⇒トピック往来

ことし一年で目立った漢字を一字あげるなら、「脱」ではないだろうか。「脱原発」「脱法ハーブ」「脱会派」「脱獄アプリ」「デフレ脱却」など、政治から経済まで幅広く使われている。脱原発は衆院総選挙の公約にも使われた。この「脱」という漢字の意味はいろいろである。好ましくない状態から抜ける(「脱出」)、組織からや仲間から抜ける(「脱退」)、抜け落ちる{脱落})、身に着けてるものを取る(「脱衣」)、含まれているもの・つまっているものを取り除く(「脱臭」「脱水」)、原稿などを仕上げる(「脱稿」)など。では、これはどのような意味で解釈したらよいか。「脱亜」である。

       近隣とどう付き合うか、かみ合わない輔車唇歯の関係

 「近隣外交」という言葉ほど面倒なものはないと、日本人の多くは思っているのではないだろうか。尖閣諸島をめぐる中国側の執拗な動きは連日のように報道されている。「(日本)政府は29日、中国が東シナ海での大陸棚設定について、今月14日に国際機関の大陸棚限界委員会に申請した案を検討しないよう、同委員会に求めた。大陸棚は領海の基線から200カイリまでが基本だが、地形の特徴にもよる。中国は、中国大陸から尖閣諸島を含む沖縄トラフまで大陸棚が自然に延びていると主張。日本は、尖閣諸島が固有の領土であるため全く受け入れられないと表明した。」(12月29日付・朝日新聞ホームページ)

 127年も前、隣国に対する憤りの念を持った人物がいた。福沢諭吉である。主宰する日刊紙「時事新報」(1882年3月創刊)の1面社説にこう書いた。「・・独リ日本の旧套を脱したるのみならず、亜細亜全洲の中に在て新に一機軸を出し・・」(1885年3月16日付、本文はカタカナ漢字表記)。全文2400字に及ぶ概要はこうだ。「日本は明治維新でアジア的な古いあり方を脱ぎ捨て、西洋近時の文明を取り入れた。”脱亜”の主義である。日本にとって不幸なことは、隣の支那(中国)も朝鮮も儒教主義にとらわれ近代化を拒否している。西欧文明が迫っている中で昔のまま変わらず独立を知らない」「日本を含めた3国は地理的にも近く”輔車唇歯(ほしゃしんし)”(お互いに助け合う不可分の関係)の関係だが、今のままでは両国は日本の助けにはならない。西欧諸国から日本が中国、朝鮮と同一視され、日本は無法の国とか陰陽五行の国かと疑われてしまう。これは日本国の一大不幸である」(鈴木隆敏編著『新聞人福澤諭吉に学ぶ~現代に生きる時事新報~』より引用)

 当時、日本は旧態依然とした「アジア的価値観」から抜け出した、つまり「脱亜」を果たした唯一の国だと福沢は評した。そして、輔車唇歯の関係にある隣国とどう付き合っていけばよいかと考えた末に、近隣との付き合いは「謝絶するものなり」と明け透けに述べたのである。その前年、福沢らが支援していた、朝鮮における「維新の志士」金玉均ら独立党が起こした武装蜂起「甲申事変」(1884年12月)が清国軍の介入で鎮圧され、独立党関係者が大量処刑されるといった時代背景があった。単なる傍観者ではなく、朝鮮近代化の思想的な支援活動をしてきた福沢の挫折でもあった。

 では現代における「脱亜」感情とは何か。それは領土問題だろう。領土問題は、イギリスとアイルランド間の北アイルランド問題や、カナダとデンマークが共に領有を主張しているハンス島問題など世界にあまたある。問題は、その解決方法だろう。武力ではなく、どう平和裏に解決するかだ。もちろん、当事国同士での外交で解決されるのが望ましいが、解決することが困難な場合には、国際司法裁判所 (ICJ) への付託ができる。ただし、国際司法裁判所への付託は、紛争当事国の一方が拒否すれば審判を行うことができない。

 前述したように、中国が国際機関の大陸棚限界委員会(CLCS:Commission on the Limits of the Continental Shelf)に、中国大陸から尖閣諸島を含む沖縄トラフまで大陸棚が自然に延びていると申請した。それだったら、同じように、中国は日本が尖閣諸島を実行支配しているのは歴史的にも根拠がないとICJに付託提案を日本にすればよいのではないか。おそらく日本政府は応じる。

 韓国が国際法上の根拠もないまま実効支配している竹島も同様だ。1954年9月、日本は竹島領有権問題のICJへ付託を初めて韓国に提案したが、韓国側は拒否。1962年3月にも日本から付託を提案したがこれも韓国側が拒否。そして、ことし2012年8月10日、韓国の李明博大統領が竹島に上陸したのをきっかけに、同月21日に日本が3度目のICJへの共同提訴を韓国に提案が、韓国側はこれも拒否した。

 局地紛争化するのでなく、国際法に照らして決着するのが「一番すっきりする」と日本人の多くは考える。どのような判定が出されようが、日本はそれに従うだろう。それがルールだからだ。ただ、中国も韓国も領土問題を国際法廷に持ち込まないだろう。「ICJの判事(15人)の中に日本人がいる」などと理由をつけて。現状のままでは日本国内に「脱亜」感情が高まる。

※写真は、福沢諭吉像(慶応義塾大学三田キャンパス)

⇒30日(日)夜・金沢の天気  くもり

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