書名 「ピエロのボーベとエナの物語」
文・絵 岡部文明 出版社 書肆侃侃房 出版年 2019
「現実にはないかもしれない、私が思い描いたサーカスの世界、こんなことがあればすごいだろうな、人間も動物も仲良く共存できる、そんな世界がこの世にあったら、みんな幸せになるだろうな。そうこの本には、私にとって理想の夢の世界があるのです」
この岡部のあとがきにこの絵本に込められた思いがすべて表現されているように思えた。
仲良しのふたりボーベとエナがもぐりこむ夢の世界で出会ったサーカスで、まったく初めてなのに動物たちと一緒に芸ができたり、空中ブランコをやってのけてしまう、それはもちろん夢の中だからなのだが、岡部にとってサーカスそのものが不可能なことを可能してくれる夢の世界でもある。なにも違和感を感じないで我々もその中に入って、そこに描かれるサーカスを楽しめばいい。そこで描かれているサーカスの絵を見ていると、サーカスが岡部の中に溶け込んでいることがよくわかる。あれだけ本物のサーカスを見て、スケッチをしているはずだから、アクロバットやブランコの絵は自然に手の赴くままに描いていたのではないだろうか。シャガールもサーカスをテーマに描こうとすると、それまで見てきたサーカスのイメージが身体の中に溶け込んでいて、自然にアクトの絵がわき上がったものをカンバスに刻んだのではないかという気がしてきた。
夢の世界サーカスに理想郷を見た、そうした素直な気持ちが柔らかく伝わってくる。
ボーベの姿がとてもいい。エナは奥さんのイメージなのではとも思ったりした。素敵な絵本である。
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