デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

北東アジア民族学史の研究

2020-04-26 11:29:12 | お仕事日誌
書名「北東アジア民族学史の研究」
著者 加藤九祚 出版社 恒文社 出版年 1986

加藤九祚の博士論文を本にしたものである。アレウト族、カムチャダル族、ヤクート族、ツングース族、ギリヤク族、オロッコ族をこの地を訪れることになった漂流民や江戸時代の探検家たちが残した資料をロシア側の資料と照合しながら、この民族たちの生活や風習を通じて文化や儀礼などを詳細に検討していった書である。加藤さんが若宮丸漂流民の足跡を丁寧に追った「初めて世界一周した日本人」は、この著作の置き土産なものだったと語っていたが、津太夫たちが残したアレウト族やヤクート族やツングース族について貴重な証言を正しく評価していったことで、漂流民が果たした役割を見直した意義は大きい。根底にはご自分がシベリア抑留されたという経験があると思う。自分の意志ではなく、まさに運命によってアレウトやシベリアを放浪することになった漂流民たちが、その運命を受け入れ、後世の人たちにその未知の民族について情報を残していることに対する共感は、4年間のシベリア暮らしで、ロシア語を学び、捕虜生活を学習の場にした加藤さんならではのことだろう。またこの本ではかなり詳細に語られているギリヤクやオロッコの情報についても、間宮林蔵たちが残した資料の確かさをひとつひとつロシア語の本によって裏付けている。漂流民にせよ間宮にせよ、いわいる学者ではない庶民たちの目線の確かさを立証していくのも加藤さんらしいと思う。最終章のオロッコあたりから考古学的なアプローチや研究をよく引用されているが、すでにこのあたりから考古学へのめばえもあったようにも思える。もうひとつこの本の学術的意義としては間宮の書いたものをドイツ語に訳し、大著「日本」で紹介したシーボルトの訳業が、実は完全なものではないということを立証していることにある。西欧の研究家は間宮の仕事をみなこのシーボルトの訳業によって学んでいるわけで、これについては別なかたちでの翻訳が必要になっていることも指摘している。これも大事な指摘だ。
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