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デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

興行の風景 日本芸能史外伝

2025-07-03 17:44:51 | 買った本・読んだ本
書名「興行の風景 日本芸能史外伝」
著者  山本幸治   出版社 ぴあ   出版年 2025

興行から芸能史を俯瞰するというとても興味深い視点のもとに書かれた本なのだが、途中読んでいてかなりいらいらさせられた。著者の立ち位置がとても中途半端で、いわゆる専門書でもないし、わかりやすく興行の歴史を紹介するという入門書のようなものでもないので、たとえばこのようなことがあった、これについてはこう言われているというような曖昧なまま叙述が展開されていく。誰がいったことなのか、どこに書かれていることなのかはっきりさせないというのは、かなり意識的にやっていることで、それがいらいらの原因となった。内野さんとも親しかったようで、いわゆるコンサートなどをやっていた興行関係者のようだが、その視線から語るというよりは、自分が読んできた芸能に関する研究書から自分の都合のいいところをつまんで概説しようということらしい。これが中途半端な本にしてしまったのかもしれない。
興行の歴史は興行師のことを語らないと、語れないような気がした。そうなると江戸ぐらいにならないとはっきりと興行師のことはわからないので、古代からというのは所詮無理だったのではないだろうか。
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東京美術学校物語

2025-06-23 10:03:18 | 買った本・読んだ本
書名「東京美術学校物語」
著者 新関公子   出版社 岩波書店(岩波新書)  出版年 2025

東京芸大の前身、高橋英吉も学んだ東京美術学校の歴史を、「東京芸術大学百年史」という幻の大作を手がかりにたどった一冊。国立という官制の美術大学の足跡をたどることは、当時国がどのような美術をつくるかという本流を生み出すために、葛藤が演じられていたことをたどることでもある。岡倉天心やフェノロサ、黒田清輝や横山大観たちが軸になり、国粋か国際かでしのぎを削っていたことが、小気味いい筆致でたどられる。著者のひとつの思い切りのいい見立てのなか、確かにそうした官制による路線争いがあるなかでも、美術家たちはしなやかに対応していることも描かれていたことが面白かった。例えば文展という官製の展覧会が生まれたことによって、著者はその最大の功績は、「個性的な在野団体を多数生んだこと」に見る。
さらに戦中、根っからの国粋主義者であった横山大観が頂点に立ったことによって、「彩管報国」という行動規範を決め、それによってゆるやかな規制をもうけることになったこと、さらに人事によって敗戦後の芸術教育の強力な体制をつくっていたという見立ては実に興味深い。
戦中の美術学生たちが、自画像をみな描いていたという。無言館で見たあの戦没美大生の描いた自画像が浮かんできた。芸大に保管されているこうした自画像の中に、英吉の描いたものはないのだろうかとふと思った。ただ彼は彫刻科の人間なので、絵は残していないだろう、でも気になった。
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私記白鳥事件

2025-06-06 11:43:48 | 買った本・読んだ本
書名 『私説白鳥事件』
著者  大石進    出版社  日本評論社   出版年 2014

石巻学10号の特集布施辰治のことでお世話になっている森正さんが次々にいろいろな本を教えてくれて、それを読むことが最近の読書生活になっている。本書もほぼ命令のように読むように勧められたもの。大石さんの本はこれまでも何冊か読んできたが、すべては祖父布施辰治に関連したものだった。本書は布施とはほとんど関係のないもの、大石さんが関わり、布施にとっては最期の仕事となった三鷹事件との関係で読むように言われたのかと思い、そのつもりで正直言うと流し読もうとしていた。ところが、布施とはほとんど関係はなかったし、いままでの大石さんのこれまでの布施に関する本とも違っていたのに、すぐに夢中になって読むことになったのは、本書が優れたノンフィクションだったからである。白鳥事件とは、大石さんが自分のいままで自分が歩んだ道のりから必然的に向かい合ほわなければならない事件であり、本書はそれを自らのいままでの経験を通して、明らかにしようとするものだった。
札幌で起こった白鳥というハルビン学院あがりの警察官が、銃殺された事件について、それに関与したと思われる当時の共産党の中で一時期とられていた武装路線の前衛にいた男とその命令にしたがった細胞たちの裁判の記録、さらには殺害に加わったと思われる党員たちのその後が、丁寧にたどられていく。それを大石さんは自分の生きてきた道のりと重ね合わせながら、この事件について、そして背後にあったものについて明らかにしていく。「私説」という表題の意味はここにあった。
「私にできることは、これまでの私の人生において立ちよったさまざまな停車駅から、この事件を眺めなおすことだけだった。最初の停車駅は、中核自衛隊経験だった。この経験は、私が白鳥事件を描くための地塗りとなっている。」
大石さんが共産党の武装路線を担っていた一人だったことは正直驚きであったが、白鳥事件はそれだけでなく、大石さんの人生と重なりあっていく。出版人として活版印刷についての経験から事件後 撒かれたいわゆる天誅ビラがどう印刷されたかを明らかにし、それが誰によって作成されたかを明らかにしていく。さらには法律編集者として長年の活動から、白鳥裁判の背景にある司法界の動向を分析するなかで、この裁判の意義も明らかにしていく。大石進だからできた白鳥事件の全貌に迫る迫真のノンフィクションであった。
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マルセ太郎記憶は弱者にあり

2025-05-30 16:51:23 | 買った本・読んだ本
書名『マルセ太郎記憶は弱者にあり 喜劇・人権・日本を語る』
編著 森正   出版社 明石書店   出版年 1999

いま『石巻学』の特集布施辰治の件でたいへんお世話になっている森正さんの著者執筆リストのなかで、布施辰治に関する夥しい数の著作のなかで、この本があった。なぜマルセ太郎なのか、布施との共通性があるのかを、石巻学では誌上対談を森さんと私がやっているのだが、その中でもこのことにお聞きしている。本書は森さんがマルセの懐に飛びこんで、いろいろなことを聞き出すなか、マルセがかなり素直に、韓国や日本に対する自分の思いをしゃべっている。その抉り方は辛辣で、鋭く、この本が出版されてから25年以上経っているが、本質をあぶりだしている。いわゆる芸能論でないのだが、彼がステージでつくろうとしていたのは、反体制の笑いであるということをはっきり表明している。「反体制は笑いの根源」という言葉が重く響いてくる。
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うつろ舟が表象する文化露寇事件

2025-05-22 14:34:13 | 買った本・読んだ本
書名「うつろ舟が表象する文化露寇事件」
著者  佐藤秀樹    出版社三弥井書店   出版年 2024

タイトルになっている「うつろ舟」とは、江戸時代に常陸国の海岸に漂着したという円盤型の乗り物のこと、この舟が後世有名になったのは、滝沢馬琴の読み物「うつろ舟の蛮人」のもとのなったのではないかといわれている「かわら版の刷り物」の挿絵だった。円盤形のこの船があまりにもUFOに似ていて、これはNHKの番組にもなり、江戸時代にUFO飛来の根拠となったという。いずれもまったく知らない話であった。著者はこの刷り物に描かれているうつろ舟と蛮人が、視聴草という文書にあるレザーノフ来航の絵に描かれている船とロシア人の絵をモデルにしているとし、こうした背景にあったのが、文化露寇事件だったとして、当時この事件について語られたさまざまな文献を紹介しながら、いかにこの事件が当時の江戸社会に大きな影響を及ぼしたかについて分析解説する。
着目点は非常に面白いのだが、大変残念なのは、著者の論拠の根幹となっているうつろ舟と蛮人が、レザーノフ来航の絵に描かれている船とロシア人の絵をモデルにしている点が、説得力がないことだ。表紙と裏表紙にその絵が掲載されているのだが、自分にはどうしても似ているとは見えなかった。ほかの人が見たらどうなのだろう。似ているあるいはモデルにしているという一番の根幹をなすところなのだから、著者がそのように見えるという根拠を絵を比較しながら、具体的にその似ているという点を照合させながら、明らかにしなければならないのだが、その一番肝要な作業を怠ったとしかいえない。
ただレザーノフ来航についての幕府の対応についての当時の文化人の反応やさらにはレザーノフの命によるというフヴォストフらによる北方襲撃、所謂文化露寇事件を背景に生まれた読み物や意見、関連文書についての発掘作業についてはよくぞ調べたなと思う。『北海異談』とか『松前詰合日記』とかは史料的価値はそんなにないかもしれないが、当時いかにロシアの襲撃が民衆にとって脅威になっていたかを知るためには貴重なものだといえる。これを翻刻して紹介していることはたいへんありがたかった。
文化露寇事件について新しい視座を提供したという点では評価したい。
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