デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

四捨五入殺人事件

2021-09-11 19:16:10 | 買った本・読んだ本
書名「四捨五入殺人事件」
著者 井上ひさし 出版社 中央公論新社(中公文庫) 出版年 2020

井上さんの本を久しぶりに楽しむことができた。小気味いいどんでん返しで、さすがと思わせる。作家ふたりが、東北の小さな町で講演会するのに先立って、泊まる予定の小さな温泉町に案内されるのだが、豪雨のため、橋が流され、温泉宿に閉じ込められてしまう。この鄙びた宿にはストリップ劇場もあってと、このあたり状況設定だけで、わくわくしてしまう。殺人事件の根っこには日本の農業に対する無策への非難がこめられている、というところはいかにも井上さんらしい。解説を読むと、「吉里吉里人」はこの作品とつながっているという。ひょっこりひょうたん島と吉里吉里人はつながっている、そしてそれは井上さんが経験することのなかった東日本大震災にもつながっていく、そんなことを思いをよせているのだが、そろそろ「吉里吉里人」はもう一度きちんと読まないといけないようだ。
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日本大神楽事典

2021-09-02 05:41:10 | 買った本・読んだ本
書名『日本大神楽事典』
著者 柳貴家勝蔵 出版社 彩流社 出版年 2006

出版された時に購入したが、事典なので何か必要があったときに見ればいいかと、そのまま本棚に入れっぱなしだったものを、この前見つけ、気になることもあったので、読み出した。著者は水戸大神楽の家元、「水戸大神楽の素晴らしさを後世に伝えたい。それが私の使命なのです」とあとがきでも書いていたように、伝えたいという情熱がこの事典を生み出すエネルギーになっている。特に発見ということはなかったが、ひとつ驚いたのは地方にいくつもの大神楽の団体があったことであり、著者の所属する水戸という土地柄もあるのだろうが、近隣の福島や山形、栃木などにいくつもの大神楽の団体があり、数々の名人がいたことである。東北にこれだけ大神楽の団体や芸人さんがいたというのはいままで知らないことだった。
著者はご存命なのかどうかわからないが、集めた資料などを展示している資料室も水戸にあるとのこと、いつか見たいものだが、まだあるのだろうか?
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橘外男『妖花ユウゼニカ物語』

2021-08-18 16:43:09 | 買った本・読んだ本
書名 『妖花ユウゼニカ物語』
著者 橘外男 出版社 中央公論(中公文庫) 出版年 1988

舞台が満州・新京、主人公はここで手広く商売を成功させているアルメニア人という舞台設定を知っただけで、どうしても読みたくなった。第二次世界大戦の終戦まぎわの話で、麗しきアルメニア人姉妹の姉が、新京の在ロシア人を牛耳り、関東軍ともつながっているロシア人に暴行され、さらには手広く商売をしていたその父もこのロシア人とつながりを持つ日本人に騙され多大な損害を受けたことに対して妹が復讐していくという話。作者がこのころの新京にいたことで、新京の町並みなどが目に浮かぶように書かれていることには感心したが、饒舌で、明らかにいらない表現が話のテンポを崩していた。実際にこの魅惑的な復讐劇は完結していない。この著者の癖らしいが、もったいない。
美女ユウゼニカがナイフ投げで復讐をとげていくというのには惹かれる。自分のなかではカマキチというロシアに渡った日本人サーカス芸人がナイフ投げを得意として、美人のアルメニア人を妻として、1930年代にはハルビンを拠点に上海などで公演していたイザコサーカスで、息子と一緒に働いていたというのがどうしても重なりあってくる。
まさか作者がどこかでカマキチ一家の芸を見ていたわけではないだろうが・・しばし満州を舞台にエキゾチズムを味わさせてもらったことは間違いない。
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愛を描いたひと

2021-07-28 22:28:37 | 買った本・読んだ本
書名『愛を描いたひと イ・ジュンソプと山本方子の百年』
著者 大貫智子 出版社 小学館 出版年 2021

韓国の国民的画家で早世した李仲燮(イ・ジュンソプ)の生涯を、妻である日本女性、山本方子(まさこ)へのロングインタビューや現地取材などを通して、描いた力作評伝である。
戦前日本で絵を学んでいた李は方子と恋に落ちる。朝鮮に戻った李は、日本から方子を呼び寄せ、終戦直前に元山で結婚。朝鮮戦争の混乱の中、方子は2人の息子を連れて日本に帰国する。当時、日韓に国交はなく、李は愛する家族と生き別れのまま生涯を終える。
 いまから7年前の2006年、李仲燮の展覧会を見るためにだけ私はソウルに行った。文化座の芝居「旅する家族」を見て、初めてこの画家のことを知った。なによりも彼が描いた絵が見たかった。翌年だったと思うが、日韓美術展のようなものが葉山であり、そこに李の絵も展示されると知って、すぐに見に行った。文化座の芝居のタイトルにもなった「旅する家族」や「夫婦」を初めて見て感動を新たにしたのだが、もっと彼の絵が見たいという思いに火がついた。そんなとき生誕100周年を記念してソウルで展示会があると知って、どうしても見たいと思った。彼の絵には主義や思潮や時代を越えたなにか訴えるものがあった、あのカンパスをはみ出すぐらいの勢いをもった絵を描くことへのパッションは、きっとたくさんの絵を描いたに違いないはずだからだ。最終日の前日ということもあって、超満員の美術館で、いくつかのコーナーに分かれていた展示の中で、食い入るように見入ったのは、別れ離れになった子供や妻に宛てた絵手紙だった。観客は韓国人で、日本語で書かれた手紙を翻訳で見ることになるが、自分はそれが読めることもあって、このコーナーは読みながらじっくり見ることになった。展覧会で泣いてしまうことなどいままでなかったが、この絵手紙を見て、涙を禁じ得なかった。そこにはまさに愛があった、真実の愛があった。
本書の「愛を描いたひと」というタイトルに、イ・ジュンソプと妻方子の想いを語りたかった著者の気持が込められている。食うや食わずの貧しい生活を強いられていた済州島での親子団欒の一時を何度も描く李の絵手紙には愛がほとばしっている。愛しかないのだ。この画家の激しい愛を受けとめていた方子の姿は、以前映画『ふたつの祖国、ひとつの愛-イ・ジュンソプの妻-』でも見ていたが、どちらかという淡々と自然に受け入れていたような気がする。著者は100歳にも達しようという方子を何度か訪ね、取材を続けながら、遠い思い出を振り返る方子が、幸福だった一緒に暮らしたわずか10年にも満たない、そのために貧困や戦争の恐怖、病など、幾多の困難があったはずなのに、それはすべて浄化され、ふたりの愛、子供たちへの愛だけが残り、それが永遠のものとなっていることを伝えてくれる。
新聞記者でしかもソウル特派員でもあった著者は、ふたりが当時大きな障害とは思っていなかった日韓、そして朝鮮半島内での分断の事実を、丁寧にたどっていく。間違いなく李家族を別れさせたものはこうした悲しい歴史だったことをしっかりと描くことにもなった。さらにさすがにふたりが新婚生活を送った元山は北朝鮮ということで行けなかったが、他の李や家族がすごした土地を実際に訪ねることで、その風景を自分のものにしようとしている。
ふたりの愛を美化するだけでなく、長男の死や、次男が贋作事件に巻き込まれたり、別れて暮らすようになってから、李が方子に別れ話に近いような言葉を送ったりした新資料も使いながら、ふたりと家族への愛の強さを描ききった。


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パトリッツィア・コパチンスカヤ 「月に憑かれたピエロ」

2021-07-24 18:07:13 | 買った本・読んだ本
タイトル 「月に憑かれたピエロ」
バイオリン・歌 パトリッツィア・コパチンスカヤ

モルダワ生まれのこのバイオリニストのことは、クラッシックに疎い自分でも気になり、何枚かCDも購入した。裸足で野性味あふれる演奏する彼女が、いま話題の指揮者テオドール・クルレンツィス と共演しているというのも気になっていた。この気になる彼女が、ピエロに扮してバイオリンを演奏するばかりか、歌うというこのアルバム。新聞で紹介記事を読んですぐ購入した。ピエロにまで扮して演奏するというのが、いい。そして買って驚いたのは、解説が豪華版で、まさに西洋におけるピエロ論となっていたことだ。

コメディア・デラルテのペドリーノがフランスに入ってピエロ(ジル)になり、ドビュローによって、ピエロ像が近代の中で確立していく。その流れがこの解説によって明らかになる。道化ではなく、ピエロで括っているのが面白い。シェーベルグのピエロは、日本ではヨネヤマママコで新たな命を得たということは拙著『日本の道化師』で紹介したが、21世紀の新しいピエロ像は、コパチンスカヤによってつくられたといえるかもしれない。輸入盤を買って、解説が立派なので、これはちゃんと読みたいということで、国内盤のは翻訳がついているので、またこちらも購入してしまった。
これを読んで欲しくなった人はご一報を。CDと解説の梱包を解いてない状態のものを送料込みで2500円でおわけします。翻訳文もコピーしてお付けしますよ。
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